中爺通信

酒と音楽をこよなく愛します。

羊と鋼の森

2018-03-23 23:59:57 | 読書
「ホールでたくさんの人と聴く音楽と、できるだけ近くで演奏者の息づかいを感じながら聴く音楽は、比べるようなものではない。どちらがいいか、どちらがすぐれているか、という問題ではないのだ。どちらにも音楽のよろこびが宿っていて、手ざわりみたいなものが違う。朝日が昇ってくるときの世界の輝きと、夕日が沈むときの輝きに、優劣はつけられない。朝日も夕日も同じ太陽であるのに美しさの形が違う、ということではないだろうか。」

 その通り。みんなもそう思います。

 とても真っ当なことを、真っ当に語っている、健康的な文章ですね。


 宮下奈都著「羊と鋼の森」を薦められて読みました。「本屋大賞」で話題になってので、ピアノの調律師の世界を描いた小説らしいということは知っていました。

 ピアノも音楽も全く知らなかった高校生の男の子が、たまたま学校のピアノが調律されるところに居合わせ、その作業にすっかり魅了されて調律師になる…という物語です。ジャンルとしては、青年が成長していく系。かなりまっすぐ成長していきます。

 物語の舞台は「北海道の田舎」ということですが、出てくる人みんなが超純朴。とっても良い人たちが暮らしている、美しい町なのです。

 
 読んだ感想を一言で言えば、「ほっこり」させられるような、良い話です。中学生ぐらいの人に読んでもらいたい。弱酸性でお肌にやさしい感じ。どなたさまも安心してお召し上がりいただけます。…いや、皮肉ではなく、こういう良書がたくさん売れるのは良いことだと思います。

 しかし、ひとつ感じるのはやはり、音を言葉にするのは難しいということ。どうしてもフワッとした、実態のない表現になってしまうのです。結果的に、パステル調の「綺麗だけど印象に残らない」ものになりがちだということです。


 しかし、これをきっかけに、調律師という仕事に興味を持つ人も、確実にいることでしょう。腕の良い調律師が増えてくれることを願います。
 

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