中爺通信

酒と音楽をこよなく愛します。

アイアランド愛

2012-07-10 13:01:19 | 山形弦楽四重奏団
 昨日も山形Qの練習。ブリテンとアイアランドを仕上げにかかりました。


 さて、何度か書いてますように、今回のプログラムのメインは、アイアランド没後50年を記念して「弦楽四重奏曲第2番」ですよ!

 ・・・ふ~ん。

 としか思わないでしょうね。たぶん。「誰それ?」・・・みたいな空気で。


 アイアランドは名前からなんとなくわかるように、イギリスの作曲家です。「没後50年」とは言え、その作風は「現代曲」と対極にあるようなロマンティックなものでで、知らなければブラームスの若い頃の作品かと思うほどに聴きやすい。この「第2番」も、一度聴いたら耳に残るようなメロディーにあふれた、憂愁を帯びつつも情熱的な曲です。

 そう言われてもピンと来ないですよね・・・。こういう通りいっぺんの説明を聞いたところで、名前も聞いたことのない作曲家の「知られざる」作品に興味が湧くことはほとんどありません。私もそうです。それでは・・・


 私はこの職業に就いてから、純粋に「楽しみのためにCDを聴く」ことがあまりなくなりました。ほとんどは「次回弾くから、その勉強のため」です。しかし、そんな中にも、疲れた時やロングドライブのお供として、ふと聴きたくなる曲のラインナップがあります。フォーレの室内楽曲やバッハのオルガン曲、あとは弦楽四重奏がほとんどですが、アイアランドはもちろんその中に入ってます。若々しいリリシズムが、細かいストレスでザラザラした心を洗ってくれるのです。


 まだか・・・。曲の良さを、その曲を知らない人に言葉で伝えようとするのは難しいですね。私自身、心が偏狭なせいかも知れませんが、人から奨められて「ええっ?それなら是非!」と思うことはあまり無いんです。だから諦めて、「奨めよう」という気持ちを忘れて書いてみましょう。

 
 恐竜なんかの図鑑の後ろに、生物の進化の道すじを表した樹形図のようなものがありますよね。いろんな形の魚の中でも、胸びれとかエラがしっかりした形のやつが、その先で陸に上がって両生類になれてまたバリエーション豊かになって、そのうちの足が丈夫で爪とか歯がするどいやつだけが、その先の爬虫類になれて・・・ゴールというか、一番先に原始人がいる、あの図です。

 脇の方には「行き止まり」になってしまった生物がたくさんいます。恐竜のように絶滅してしまったものもいれば、「シーラカンス」や「ヤツメウナギ」のように、今もひっそりと生きている生物もいます。「進化するばかりが人生じゃないよ」とでも言うように、大昔から今のままなんでしょう。

 音楽史でも、似たような事があるんじゃないでしょうか。「音楽の進化」に功績がなかった作曲家は、「重要でない作曲家」(これはひどい表現ですよね)として、脇の方で「行き止まり」になる。もちろん音楽の場合は、重要でない人が教えたクラスから最重要な人が輩出されるということがよくありますから、実際は行き止まりということはないのでしょうが、進化の歴史から外される作曲家はたくさんいるでしょう。

 ・・・ちょっとだんだんアイアランドに対して失礼になってきているかも知れませんが、要するに、歴史の中で重要な作曲家が「良い」ということには必ずしもならないはずだと。シーラカンスやなんかと一緒にしては悪いでしょうが、ガツガツ新しいところに行こうとしないで、穏やかで懐かしい昔を懐かしみつつ、海の底で昔のままの純粋な気持ちを燃やしてひっそりただよっている、そんな作曲家や作品があっても、私は好きです。


 ・・・7月30日、山形Qは「良い曲」を弾きますので、是非おいで下さい。
コメント
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