基本データ
桜場コハル
講談社 ヤンマガKC 2003年
はしがき
前回の最後を受けて「今日の5の2」である。
これを読む方の中には「30万部越えを公称し、2度もアニメ化された作品をつかまえて『マイナー漫画』とは何事か」と言いたい人もいるだろう。だが、私はあえてこの「今日の5の2」をマイナー漫画として取り上げたい。理由は以下の通りだ。
原作すら読んでいなかったTVアニメ1話当時、さまざまなブログに書かれた批判的な言葉をほぼそのまま受け止めていた。
だが原作を通読し、TVアニメが「みなみけ」(無印)の魂を受け継いだ名作だと感じる今の段階で1話当時の批判的な意見を思い返すと「原作」と言う視点が大きく抜け落ちている物があまりに多いと感じてしまう。(注1)そしてそれらのほとんどが批判も受けずにまかり通っている。
それで私は「この作品は本当に読まれているのだろうか?ただ1度眺めて読み捨てられているだけではないのか」とこんな風に考えた。「読まれていない」のであればマイナー漫画としての資格は十分だ。
作品検証1 「原作に近い」は必ずしもほめ言葉とはならない
まず槍玉に挙げられたのは「キャラクターデザイン」だった。私は以前これについて方向性の違い(注2)ということをのべた。原作との比較という観点からは「どっちも大して変わらん」としている。だがこの言い回しも正確ではない。
原作をきちんと読めば原作の絵が大きくぶれているのがわかる。キャラクターデザインを叩いていた人たちがお好きな言葉を使うなら原作こそが「作画崩壊」を起こしていると言い換えても良い。つまり「原作の絵があれだけぶれているのだから比較に全く意味は無い」ということだ。
作品検証2 過大評価された「ライトエッチ」と後付けの「ノスタルジー」
「ライトエッチな小学生マンガ」は当初のキャッチコピーだ。だが「ライトエッチ」と言ってもそのほとんどは少年漫画ですらネタにしない程度でしかない。むしろ健全すぎる感じすらある。しかも前述の作画のぶれおよび簡略化がパンチラやエロネタの「ありがたみ」を大幅に損ねている。そして現在では公式でこの「ライトエッチ」というコピーはほとんど用いられなくなっている。(注3)
TVアニメを推す人々が(もしくは叩いていた連中が転向するときの言い訳として)使う言葉に「ノスタルジー」がある。確かにTVアニメがその方向性を強く打ち出していたのは確かだ。(注4)だがこの「ノスタルジー」も「原作においてノスタルジーを喚起させるような場面は具体的にどこか」と問われたら多くの人は答えに窮するのではないか。「小学校を舞台にしなくても良いようなネタが多い」とも指摘されている。結局「ノスタルジー」という言葉は「今日の5の2」という作品を「ライトエッチ」という言葉でくくれなくなったことでひねり出された後付けのコピーの様に思える。
結び 結局「今日の5の2」とは何なのか
私が「今日の5の2」に感じたものは前に述べたように「面白いが、もったいない」だ。「ライトエッチ」も「ノスタルジー」も含めたいろいろな要素を持っているが、それらが分量の不足や構成などできちんと表現し切れていない。「今日の5の2」本質とはいったい何なのだろう?
そう思ったときにぶち当たったのはこの言葉だった。
「この物語は南家3姉妹と小学生の平凡な日常をたんたんと描くものです。過度な期待はしないでください」
そう、「今日の5の2」の本質は「みなみけ」同様の「平凡な日常」に他ならないのだ。もちろんそれはリアルな日常ではなくアニメ、漫画的な日常だ。それは単純化、理想化されているからこそノスタルジーを喚起させ、時には違和感へと変換される。アニメ、マンガ的であればその中に「ライトエッチ」が紛れ込んでいてもおかしくはない。
要素の一つでしかない「ライトエッチ」というコピーに振り回され、それでうまく説明できなくなると、これまた要素の一つでしかない「ノスタルジー」という言葉でくくられて日常という本質が見えなくなる。これこそ「今日の5の2」の一番不幸な点だと思う。
また無駄に長くなってしまった・・・
以下は注釈
注1:あくまで私が見た印象だが原作を細かいところまで読み込んでいる人の方がTVアニメを早い段階から評価している。
注2:OVAのキャラクターデザインの印象はすべての時期の平均値を出してキャラクターを起こしたもの。これに対してTVアニメは原作後期の頭身が下がってより小学生らしくしたものをさらに突き詰めたものという印象。
限定復活エピソードはデザインとしてOVAのほうがより近いと感じた。もちろんそれが作風にあっているかは全くの別問題であるが。
注3:文庫に収録された限定復活エピソードにおいて「ライトエッチ」は見る影もなくなっている。
もっとも「ライトエッチ」という作風に近い「ビシビシ」ですら、
この程度だ。OADではこの場面をこれ以上無いってくらい強化しているが。
注4:この「ノスタルジー」に関しては近いうちに語る機会を設けたいと思う。
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