うたのすけの日常

日々の単なる日記等

ステーション物語 再録

2015-03-31 05:53:03 | 物語

ステーション物語 第五話

 

 中年夫婦が夜も更けてきたホームに佇んでおります。市内に知人を訪ねた後、デパートで買い物をすませ、デパートか駅ビルの食堂で夕食を終えて、ラッシュを避けての帰りと見て取れます。二人してデパートの大きな袋を手にしております。妻が夫に話しかけます。

「電車おそいわね、行ったばかりかしら」

「もう間もなくだろう、ラッシュも過ぎたし間隔があるんだよ」「そう、ねえあんた、そろそろ帰省シーズンよ。お土産何にする」夫は屈託無く答えます「去年と同じでかまわんだろう」「去年と同じって」「でもいつも雷おこしでは芸がないよなあ」「でも今どき都会も田舎も変わりないんですもの。都会にあるものなんかなんだって田舎にあるのよ。結局同じものにおちついちゃうわよね」「うん、そうだよなあ」「だから、改まってお土産変えることしないで、その代わりに義姉さんに渡すお小遣い、思い切って奮発しましょうよ」夫は即座に賛成します。「そうだな、それのがいいかも知れない、義姉さんには親父お袋を大事にしてもらってるし」「そうよ、あたしだってお陰で大助かりですもの」「よし、そうしよう、兄貴もかみさんに大きな顔が出来るだろう。お袋にも少し奮発するか、でも年寄りって案外年金だなんだで結構小遣い貯めこんでいるんだよな。振り込め詐欺に遭わなきゃいいが。はっははは、それほどでもないか」どうやら意見がまとまったようです。夫は言葉を続けました。「子供らは昔からブーブー言ってたが、今年も汽車で帰るぞ。子供らは来たければ車で来ればいい。帰省ってものはやっぱり汽車がいい。帰省列車といった確固たる言葉もあるしな」妻も応えます。「そうよね、帰省列車って響きもいいわよね、季語にあるのかしら」「どうかな、しかし故郷に帰る男には帰省列車が似合うんだ」夫は思いなしか胸を張っています。

 

「田舎から都会に出てサラリーマンとなり、あんたと一緒になってからも、子供たちが次々と生まれてからも、いろいろあったが年に一度の帰省が楽しみだった。蒸気機関車での集団就職、そして今は新幹線での帰省、社会の移り変わりは目を見張るようだ」「そうだわよね。ねえあんた、昔サラリーマンのこと月給取りって言ったのよね。今の若い人は言わないわよね」「その月給取りをその昔は腰弁といった、腰弁だ。今どき腰に弁当なんかつけて見ろ、満員電車になんか乗れないよ。あはははっ」「おほほほっ」妻も一緒に笑います。

そして夫婦は到着した電車に笑顔のまま乗り込みました。

第五話終わり

 

 



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