うたのすけの日常

日々の単なる日記等

うたのすけの日常 山田風太郎の「戦中派不戦日記」を読む33

2010-03-03 06:53:33 | 日記

提灯行列の夢<o:p></o:p>

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 朝七時半空襲警報。敵機動部隊近接。艦載機群来襲。粉雪霏霏としてふる。空に爆音満てど、敵味方わからず。<o:p></o:p>

十時ごろ、耳近くたばしる機銃掃射の音にびっくり仰天して机の下にもぐりこむ。午後マリアナのB29呼応して大挙殺到。雪雲暗き東京のはるか上空より無差別盲爆、投弾の爆裂音しきりなり。(連日の猛爆に人間の神経いつまで真っ当でいられるのでしょうか。小生も疎開先で艦載機の機銃掃射を経験していますが、それはたった一回の恐怖でした。)<o:p></o:p>

雪ふる壕にひそむこと数時間、壕中の土、霜柱に板のごとくめくれて崩れおち、惨憺たり。つらら下がり、霜柱立ち、粉雪舞い込み、あたかも氷獄中にあるがごとし。……。<o:p></o:p>

一編隊去りて一編隊来らざる間、野菜の配給あり。この五日間、野菜の配給まったくなかりしゆえ、女たち、B29もあらばこそ家々を走り出ず。配給いくばくぞ、一人大根の輪切り二寸ずつ、その値三銭なりと。<o:p></o:p>

(夕方に噂話を聞きます。その内容とは相も変らぬ期待を込めた希望過多の話のようです)<o:p></o:p>

この五月ごろ米国を粉砕すべき秘策なり、目下都下の提灯やは提灯の大量生産に大童なりと。<o:p></o:p>

その噂なら最近む他にて聞きしことあり。都下の提灯やが提灯を作りおること或は事実ならん。されどこれが勝利の行列に備うるものなりや否や。頗る眉唾ものなり。もし然るならばこれほど歓天のことなし。しかれどもおそらくその提灯は、現時の官制、闇黒の都下に犯罪防止その他不便のこと多く、懐中電灯の生産見込みなきゆえに提灯の生産を督促しおるものなるべし。<o:p></o:p>

多数の提灯を見て、提灯行列を思う。敵本土に迫り、敵機国土に乱舞する近時、弱者の描きそうな夢想なり。希望の化物なり。(風太郎氏、見事根もない噂を砕いております)