今なにしてる         (トミーのリペイント別館)

カメラ修理などについてご紹介します。
富塚孝一
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すわ、オリジナルPEN-Fブラック?の巻

2020年05月14日 13時20分00秒 | ブログ

どこまで書いて良いか躊躇しますが、もう時効ですから簡単に・・このPEN-Fブラックは私が見てもオリンパス純正の焼付塗装に見えます。オーナーさんはペンスケ展のメンバーさんですが、当時オリンパスにお勤めの方で、工場の廃棄品捨て場で見つけた方から後年譲られたようです。ではブラックモデルの製品化を検討した試作品 ? 彫刻文字の色入れは後に追加されたようです。

アンダーカバーの塗装を見てもFTブラックと同一の純正塗装に見えます。

 

 

取付けネジは頭のフラットな底部に使われる皿ネジでメッキタイプを黒く塗ってあります。オリジナルは丸頭のメッキスリ割りタイプです。

 

内側を見ると少し印象が変わります。真鍮の地肌がプレス上がりの状態ではないようです。

 

レリーズボタンのガイドは接着ですが、その部分を予めマスキングをして塗装してあります。しかし、真鍮肌が荒れています。私の経験上、このような肌になるのは、すでにメッキをされたカバーを酸洗いのような強引な方法でメッキを除去した場合に似ています。試作であればプレス上がりのカバーを使うはずです。

アンダーカバーの内側。やはり肌が荒れた状態で塗装をされたように見えます。

 

 

不思議なのはトップカバーのシリアル№ 2553XXと本体の仕様が合っていること。本体の製造は1966年1月ですが、私の資料によると#252471が同年月の製造で、使われているユニットの特徴もトップカバーのシリアルと一致します。別に入手をしたカバーであれば、本体との差があっても良いと思うのですが、偶々の一致なのかな? 画像のように25万台の後期型は、レリーズのリンケージがFTと同様の方式になっており、シャッターユニットのチャージギヤ地板も、それまでの平板形状からFTと同じ丸くプレス成形された形状になっています。

PEN-Fは古いので、洗浄をすると茶色の汚れが出ます。乾燥を終えたところ。

 

 

では、洗浄後に組み立てていきます。モルトを貼ってスプロケット軸、スプール軸、巻上げ機構を組みました。

 

底部を見て分っていましたが、この個体は過去に修理を受けていますが、あまりきれいな作業ではありません。事前の印象では、巻き上げが重いと感じていましたが、シャッターのテンションが異常の強く張られているようです。

ははぁ、シャッターバネの調整ネジが何度もいじられているようです。やはりテンションを上げていますね。

 

時代を考慮すれば当然ですが、ブレーキは全く利いていません。

 

 

すべて分解しましたが、過去に分解を受けたネジがすべて緩んでいました。ネジロックをしていないからです。超音波洗浄の上、組み立てていきます

 

ここまで組んで、シャッター幕とドッキングです。ブレーキは調整が必要ですので、本体に組み込んでから組み立てます。

 

中央のOリングがブレーキで両側のリングの間に入って摩擦によりプレーキ効果を発生します。今回はゴムのOリングがカチカチに硬化して機能を果たしていないため新品と交換することにしました。

 

ブレーキは正常に作動します。仮組で作動させてみると、どうしても巻上げが重い傾向が強いので、テンションを1段下げておきました。作動は快調で巻上げゴリ感が改善されて感触も改善しました。前回の修理でテンションを上げた理由はあったのでしょうね。「シャッタースピードが出ない」「作動が安定しない」など。元々このシャッターはテンションを上げてもスピードは出ませんね。バネの力を強くするよりフリクションを低下させる方向で考えた方が良いと思います。

ミラーユニットですけど、何か怪しいことになっていますよ。この個体は過去に修理歴がありますが、ミラーユニットも地板から取り外されているため、組立完成時にファインダーの調整が必要になります。しかし、調整用のイモネジ(M1.4X2.5)は緩み止めが塗布されているため、無理にスリ割りを回そうとすると画像のようにスリ割りの片方がカケてしまい回せなくなります。そこで、イモネジを無視してファインダーの調整をしたため、イモネジと地板の間に隙間が出来ています。社員の所有カメラなのにどんな修理なんだよ ?

緩み止めをじっくり溶かして、スリ割りを目立てヤスリで応急に作り取り外しました。

 

プリズムは後期なのでPEN-Fに多く発生する黒点の腐食はありませんが、墨塗りの剥離部分から腐食が始まっています。

 

色々問題がありましたが、組立はほぼ完成しました。私の場合、PEN-F系の組立時に灰色の緩み止め塗料を塗られたネジ頭をすべて溶かして清掃しないと気持ちが悪いので余計に手間がかかるのです。

 

結局のところ、この個体の素性はハッキリしませんが、シンクロソケットの取付ナットを見ても緩み止めの痕から推測して、製品化のための試作ではなく、社員の方が個人的に通常の梨地クロームボディーから改造したものではないかと推測します。元の所有者と現在の所有者とも社員でいらしたので、オリンパス製と言えなくもないのかな・・

底部の状態。他の部分に比べて表面処理の腐食が進んでいます。

 

 

まぁ、なんです。すでに製造されてから半世紀の時間が経過し、元の所有者様もすでに他界されている現在、正確な事情を推測することは不可能です。現オーナーさんも、元のご同僚さんにも聞き取りをされているそうですが、あまりにも時間が経過し過ぎました。私の推理としては、一技術者の個人的な興味によって非正規に工場で塗装されたカバーではないかと思います。どちらにしてもオリンパス社員の手を渡って現存する特異な個体には違いありません。

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