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今日の筆洗

2022年11月16日 | Weblog
人間は知らない人に対して、攻撃的になりやすい傾向があるそうだ。反対に何度も会い、その人のことを知れば知るほど心を許すようになる▼提唱した米国の心理学者の名から「ザイアンスの法則」と呼ばれる。確かにそういうことはあるだろう。だから営業担当者は顧客の元に熱心に足を運ぶし、新聞記者は取材相手のところにしつこいほど顔を出す。最初は嫌いだったジャンルの音楽も繰り返し聴くことで好きになるということもある▼だとしたら国際社会の安定化のため、このお二人にはよりひんぱんに会っていただくしかない。米国のバイデン大統領と中国の習近平国家主席がインドネシアのバリ島で会談した▼対面での首脳会談は前政権のトランプさんと習さんが顔を合わせた二〇一九年以来のこと。両国関係の悪化による影響だが、三年ぶりとはずいぶん間が空いてしまった▼無論、こじれた関係が一度の首脳会談で氷解するはずもない。十四日の会談も実質的な成果はなく、平行線に終わった。焦点の台湾問題についても習主席は中国にとっての「レッドライン(越えてはならぬ一線)」と述べたというから穏やかではない▼それでもザイアンスの法則の効力を信じ、会い続けることだ。会談前に握手をかわす両氏の写真がある。お互い笑っている。腹の中は分からぬが、その写真がどれだけ世界を落ち着かせることか。
 

 


今日の筆洗

2022年11月15日 | Weblog
「奥山に紅葉ふみわけ鳴く鹿(しか)の声きく時ぞ秋はかなしき」。百人一首にもある有名な歌だが鹿はなぜ鳴いているのか▼歌の世界では雄鹿が近くにいない雌鹿を呼び、あるいは探しているということになっている。離れ離れにでもなったのだろうか。その声がむなしく、とりわけ秋には悲しく聞こえるというのである▼なるほど野生の鹿の声はややかん高く、寂しい。別の意味もあるらしい。鳴き声を人の言葉に置き換える、「聞きなし」。鹿の声にも昔から「聞きなし」がある。「カイロ」「カイロー」だそうだ。鹿は古里へ「帰ろう帰ろう」と鳴いている▼長い間、鳴き続けている。一九七七年十一月十五日、当時中学一年だった横田めぐみさんが北朝鮮によって連れ去られ、四十五年になった。四十五年の血の出るような声が実らない▼鹿の角は一年で生え替わると聞く。家族や関係者の悲しみの角はどうだろう。けっして小さくなることはなかった。四十五年の間、ただただ大きく、重くなったはずである。進展が見られない▼お母さんの早紀江さんがめぐみさんをある場所へ連れて行きたいと語っていた。連れ去られた現場だそうだ。そこから、もう一度人生を歩み直させてあげたい。そう願っている。十三歳から五十八歳。人生の中心ともいえる、四十五年が奪われた。国中の鹿の声を合わせたい。もっと高く、もっと高く。
 

 


今日の筆洗

2022年11月14日 | Weblog
フォルテシモならば「極めて強く」。フェルマータは「音を延ばす」、カンタービレは「歌うように」▼楽譜上で曲のテンポや雰囲気を演奏者に伝える音楽用語(楽語)が使われるようになったのは十八世紀以降という。大半がイタリア語。当時、音楽文化の中心がイタリアにあったためという▼「速く」のプレスト、「歩くような速さで」のアンダンテ。曲の速度を指示する用語だけでも数多い。速度に例えるなら、岸田首相の譜面にたびたび登場するのはラルゴだろう。「極めて遅いテンポで」▼死刑執行をめぐる問題発言で葉梨前法相を交代させたが、この経緯がいかにもラルゴである。法相という職について「朝、死刑のはんこを押し、昼のニュースのトップになるのはそういう時だけ」。人の命そのものをもてあそぶかのような言葉に法相の資格はなく、ただちに更迭すべきなのにそれができない。いったん厳重注意で収めようとし、与野党の批判を見て、ようやくである▼旧統一教会との関係が問題になった山際前経済再生担当相を交代させた時もそうで、毎度、決断が遅く、結果、後手後手に回る。テンポの遅すぎる曲に国民の方はいらだち、不安さえも感じる▼首相が作曲法を改めぬ限り、政権はモレンドとなる。ドビュッシーの「月の光」の最後に出てくる。用語の意味は「だんだん弱く、消え入るように」である。
 

 


今日の筆洗

2022年11月12日 | Weblog
 プロ野球ロッテの往年のエース村田兆治さんは、現役二十三年で暴投が通算百四十八。同世代の阪急の主戦投手山田久志さんの二十年で十四と比べると、多さが分かる▼鋭く落ちるフォークはよく、捕手の手前の地をえぐった。三塁走者がいて暴投で失点するピンチでもこの決め球を投げた▼失敗を恐れず挑む人ゆえ、約四十年前の右ひじ手術も決断できたのだろう。今は珍しくないが、当時の日本で投手の利き腕へのメスはタブー。自伝によると、米国の執刀医ジョーブ博士に事前に「100%成功するとはいえない」と告げられた。術後に成功を聞かされ、帰りのタクシー内で思わず「ピンチにフォークが決まった」と口にしたという▼村田さんが自宅の火事で亡くなった。七十二歳。突然の旅立ちの報に言葉を失った▼先に空港の保安検査場で、女性検査員の肩を押したとして現行犯逮捕され釈放後、女性やファンに謝罪していた。その後を気にかけていたファンも多かっただろう。別れが切ない▼右ひじ手術とリハビリを経て、八百十八日ぶりとなった復活の一軍登板は一九八四年八月十二日、札幌円山球場の西武戦のリリーフ。私事で恐縮だが、当時中学生でスタンドにいた。「ピッチャー村田」のアナウンスにあがった「ウォー」という地鳴りのような歓声は、挑戦が人の心を揺さぶる証左だったのだろう。今も耳に残る。
 

 


今日の筆洗

2022年11月11日 | Weblog
死刑執行は法務大臣の命令によると、刑事訴訟法は定める。命じたときは五日以内に執行する規定▼『ルポ死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル』(佐藤大介著)によると命令後、拘置所は担当刑務官の人選に入る。絞首刑で、囚人が立つ床の踏み板を開けるボタンを隣室で押す担当などがある。精神的負担軽減のため、ある拘置所はボタンが三つあり、うち二つは板と連動しないダミー。分担して押せば誰が実際に開けたか分からぬが、この担当だけで三人いる▼拘置所元幹部によると、慣例で妊娠中の妻や病気の家族がいる者は選ばない。身内に何かあった際に「自分が死刑に関わったからか」と悩ませないためという▼葉梨康弘法相が会合で「だいたい法相は朝、死刑(執行)のはんこを押す。昼のニュースのトップになるのはそういうときだけという地味な役職」「法相になってもお金は集まらない」などと言った。はんこうんぬんの発言は撤回し、謝罪した▼与党からも「命の重さと法の厳正さの象徴である法相として覚悟に欠ける」との批判が出たが、その通りだろう。野党は更迭を求めている▼先の本によると、執行後は拘置所の職員全体に重苦しさが漂う。辛(つら)そうな担当刑務官を、事情を察した別の死刑囚が「今日は休んで」と労(いたわ)った例もあるという。賛否ある極刑。せめて現場に寄り添える人が大臣であってほしい。
 

 


今日の筆洗

2022年11月10日 | Weblog
 米国最高峰の競馬、ケンタッキー・ダービー。今年のダービーを制したのはリッチストライクである。補欠からの繰り上げ出走で、人気はなんと二十頭中最低。そんな馬が人気馬を次々と抜き去り、勝利した。単勝オッズ八十倍。歴史的な大番狂わせとなった▼米国の一コマ政治漫画に思わず笑った。こんな漫画である。一頭のやせたロバがリッチストライクの勝利を伝える新聞を読んでいる。吹き出しは「ぼくだって勝てる」。ただし、ロバの背中には巨漢の騎手がまたがっている。騎手の名は「インフレーション」▼ロバは民主党のシンボルなので漫画が言わんとするのは同党の米中間選挙での勝ち目の低さである。その中間選挙。やはり野党の共和党が当初の予想ほどではないにせよ、上下両院ともにやや勢いがある▼中間選挙は有権者にとって現政権に対する評価審査のようなところもあって、ただでさえ、与党は勝利しにくい。その上、経済政策が最大の争点となっては苦戦は避けられなかった▼物価高にあえぐ国民の現実。あの漫画の通り、歴史的インフレがバイデンさんと民主党の上に重くのしかかったのは間違いない。保守派には根強い人気のトランプさんの攻撃も効いたか▼政権与党と議会を主導する党が異なる「ねじれ」が起きれば、インフレを背負ったあのロバには共和党という重い足かせがはまることになる。
 

 


今日の筆洗

2022年11月09日 | Weblog

家のカキを子どもが食べすぎて疫痢にかかり、亡くなる。家族はたまらなかっただろう。祖父は孫の仇(かたき)だとカキの木を切り倒す。壺井栄の『柿の木のある家』である▼この話を聞いた男の子。自分は食べすぎないから、カキの木を切らないでと母親に願う。<あのりっぱな柿の木をきられたらたいへんだ>−▼カキの実もそろそろおしまいのころか。熟れた実の甘ったるいにおいやわずかに残った実を抱えた枯れ枝の寂しさを思う。<里古りて柿の木持たぬ家もなし>芭蕉。日本の晩秋の風景にカキの木は欠かせまい▼『柿の木のある家』はカキの木がそこに暮らす家族を静かに見守っているような物語だったが、その家族が一人また一人と消えてしまったら。そんな想像をする。人口減や高齢化の加速によって。木になったまま放置されるカキの実の話を耳にするようになって久しい▼問題がある。実にひきつけられ、クマが人里にやって来てしまうらしい。人に代わって秋の味を堪能しているのか。つい見逃したくもなるが、危険極まりない話で、クマが出没する地域では、管理できないカキの木はどうしたって切らなければならなくなる▼<柿の木の下をいったりきたり、一家は毎日、柿の木に見守られた日々をおくっているわけです>。あの物語の一節に切られる柿の木がかつて見た家族の生活を思う。晩秋が一層寂しくなる。


今日の筆洗

2022年11月08日 | Weblog
「ママ!」。おかあさんとはぐれたのか。子どもの大きな声を耳にして、あたりを見回すもそれらしい姿はない。なおも聞こえる「ママ」の声。ふと見上げるとカラスだった▼ネタに困ったコラム書きの作り話とお疑いなさるな。はっきり「ママ」と鳴く。この一、二年、東京・阿佐谷の杉並区役所の近くでよく聞く。家人に確かめるとやはり聞いたという。晩秋の夕暮れ時なんぞにあの声を聞けばカラスと分かっていても寂しくなる▼さては、「ママ」ではなく、区役所に向かって「待て!」と叫んでいたか。杉並区役所の不祥事である。同区の職員が住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)システムで取得した個人情報を漏えいしたとして住民基本台帳法違反の疑いで逮捕された▼暴力団関係者が背後にいると伝わる。別に逮捕された職員の友人が暴力団関係者から人捜しの依頼を受け、この職員が調べて住所などの情報を渡していたという▼二〇一八年以降二十人分以上の情報が漏れた可能性があるとは情けない。個人情報の取り扱いに慎重であるべき区職員が暴力団の手先になって情報を渡していたようなものだろう▼情報管理にいくら気をつけていてもアクセスできる人間の中に不届き者が一人でもいれば情報保護の壁はやすやすと突破される。事実解明と対策を。同じカラスの聞きなしでも「アホウ」と言われたくない。
 

 


今日の筆洗

2022年11月07日 | Weblog
ニューヨークに遊びに来ていた四歳の息子さんと動物園に行く予定だったそうだ。迎えにいく準備をしていると、電話が鳴る。「息子が窓から落ちて亡くなった」。一九九一年、世界的に名高いギタリストのエリック・クラプトンさんに悲劇が起きた▼隠れんぼをしていたらしい。コナー君は高層アパートの五十三階から誤って転落した。いつもは閉まっている窓が清掃のため一時的に開いていた。葬儀の後、息子の手紙を見つけた。「会いたいよ」。胸が張り裂けそうだったと自伝にある▼ふとしたことが原因となってわが子を失う。想像もできぬ痛みだろう。千葉市の高層マンションの二十五階から二歳の男の子が転落して亡くなる事故があった。ベランダにキャンプ用のチェアが置いてあったという。うっかり乗ってしまったか▼つらい事故が続く。今度は大阪で二歳児が亡くなっている。やはりマンションの四階から落ちたとみられている▼平屋か二階屋が中心だった昭和は遠く、住まいはますます高層化する。万が一、落ちればけがでは済まぬ場所に人は暮らしている。子どもが何をするかを常に想像し、「ふとしたこと」の芽を摘み取りたい▼<もし天国で会えたら君は僕の名前を覚えているかな>。亡き息子に思いをはせるクラプトンさんの「ティアーズ・イン・ヘブン」。胸が痛い。もう一度、家の点検をお願いする。
 

 


今日の筆洗

2022年11月05日 | Weblog
ユダヤ系移民が多い中東のイスラエルは一九四八年の建国以来、総選挙で単独過半数に達した政党がない。一院制の国会は党が得票を競う比例代表制のため議席が多党に分散し、政権樹立の連立交渉はよく難航する▼移民の出身国は多様で、ユダヤ教の戒律に厳格な人もそうでない人も。党も左派、右派、中道、宗教政党、少数派アラブ人系など多彩だ▼選挙後、連立交渉はおおむね一カ月以上はかかる。十年以上前の連立交渉でも閣僚ポストでもめ、「遅々としていて国民は怒らないのか」と地元の政治学者に聞くと「党を支持した人のため、いいポストを得る努力は当然。時間はかかる」と説かれた。民主主義の手続きに律義な国である▼先の総選挙で、野党系勢力が票を伸ばした。ネタニヤフ元首相が返り咲くべく連立交渉を始めるようだ。総選挙は二〇一九年以降五回目。連立協議失敗によるやり直し選挙もあったためで有権者も嫌にならぬかと思うが、投票率は70%を超え近年では高水準だったという▼ユダヤ人は昔、各国の少数派として艱難辛苦(かんなんしんく)を味わった。議論好きも多いという。政権が不安定でも、少数派を切り捨てぬ制度がふさわしいのだろう▼得票率五割未満の党が議席の六〜七割を獲得できる小選挙区制中心で、支持の実態以上に議席差が開いて議論の盛り上がりに欠く国からみると、少々うらやましくもある。