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今日の筆洗

2022年11月29日 | Weblog
原作者の梁石日(ヤンソギル)さんは渡されたシナリオを読んでたたき返したそうだ。タイトルも中身も原作とまったく違う▼書きたかったのは在日コリアンの抱える問題なのに監督と脚本家が相談もなく変えている。映画は『月はどっちに出ている』。監督の崔洋一さんが亡くなった。七十三歳。同作や『十階のモスキート』『血と骨』など独特でインパクトの強い作品を数多く残した▼在日コリアンを描いた映画といえば弱者の悲劇を見つめ、社会正義を訴える作品になりやすいか。在日朝鮮人の父親を持つ監督はその選択をしなかった。描いたのは「隣に住んでいる、あるがままの在日(コリアン)」。それが新しかった▼社会派と呼ばれる監督だが、主張を押しつけたりはせず、何よりも観客を楽しませることを意識していた。社会批評と娯楽性の絶妙なバランス。その結果、映画を見た後に「崔洋一」という複雑で人間くさい個性が浮かびあがる。そんな不思議なメガホンをお持ちだった▼シナリオに怒った梁さんに監督は聞いた。「ところで、おもしろかったんですか。おもしろくなかったんですか」。答えは「えらい、おもろいやん」。おもろい。おもろいを描いた上で、その裏にある人の悲しみや痛みを描けた▼渋谷の事務所の巨大な本棚を背にどっかとすわる元気な姿を思い出している。大きく優しい月。雲間に隠れたのが寂しい。