ファンタジアランドのアイデア

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公営事業を民間に委託するメリットデメリット  アイデア広場 その 602

2020-06-27 18:43:21 | 日記


 2007年に日本でも、PFIの官民共同刑務所が開設されることになりました。PFI刑務所は、従来の刑務所より低いコストで運営ができるようにしてあります。一つの刑務所を国が建設し、20年間運営すると565億円かかるのです。それを民間が行うと、517億円で運営が可能になるというわけです。受刑者の監視は、民間人の職員によって行われ、刑務官は異常のあるときのみ出動する形式になります。PFI刑務所は、社会の要請に合う職業訓練と就労支援を目指しています。従来の単純技能の習得だけでは、出所後の就労が難しくなっているのです。島根県のあさひ社会復帰センター(刑務所)では、受刑者の着衣にGSPを付けて監視をしています。山口県の美祢社会復帰促進センター(刑務所)は、高い塀などはなく、赤外線などのハイテク技術を使って監視を行っています。法務省でも費用軽減を考えて、民間会社の導入を考えたわけです。PFIとは公共施設の建設と運営を民間の資金や民間の持つノウハウを活用して行う手法ということになります。水道、電力、地域交通、ゴミ収集、教育、健康・福祉サービス、自治体サービスなど民間企業が、参画できる事業が増えたということです。この趣旨から、刑務所も民間企業が運営に参加することができるようになりました。
 PFI刑務所は、スーパーA級と呼ばれる受刑者が集まっています。これらの受刑者は、社会復帰がすぐにも可能な能力を持っている人たちです。PFI刑務所に集められた受刑者は、高学歴者も多く、社会復帰の目的も明確に持っている人たちとも言えます。この施設は 教育や改善指導が充実した施設になっています。全国から募ったITスキルを待った受刑者が、民間受注会社のプログラミングを開発することも行っています。小学館集英社は、PFI刑務所でITスキルの習得や資格取得などのプログラムを実施しています。出所後は、民間IT会社がこれらの受刑者を採用するということも行われています。また、島根あさひ社会復帰センターでは、盲導犬の訓練センターを開設しました。島根のセンターは、盲導犬の育成と視覚障害者のリハビリラーションの拠点になりつつあるほどです。PFI刑務所の職員は、受刑者を指導する士気が高いことが知られています。
 民間であれば、良いことばかりというわけでもないようです。これは、アメリカの事例になります。アメリカでは、1980年代から厳罰化キャンペーンが始まり刑務所の過剰収容が始まりました。50万人の受刑者が、現在250万人になっているのです。受刑者を1年間収容すると、一人300万円かかります。250万人ですから、7.5兆円を刑務所にかけていることになります。日本は、裁判員制度で厳罰化が少し進みましたが、刑務所の収容人数は7万人程度で推移しています。これは、社会復帰を早めに促し、刑務所内で過ごす期間を減らす処置を行っているためです。アメリカで問題になっているのは、移民法に関連して収監に特化した民間刑務所の存在のようです。この民間刑務所の収容人員が、増え続けているのです。不法移民の収監数が増えることには、民間刑務所による事情があります。収容者が増えれば、民間刑務所は、利益を上げ経営が豊かになるとのです。民間刑務所が、移民犯罪の取締りを積極的に実施するように政府に働きかけている姿があります。
 近年になり欧米では公営から民間企業に運営を移管したが、経費が以前より高騰していることが問題になり始めています。これは、刑務所に限らず、移管した民間企業に出てきている現象のようです。フランスのニース市議会は「保守」の地盤でした。そのニースで、「再公営化」が始まったのです。再公営化は、民間企業による事業から公的事業へ公共サービスを市民の手に取り戻すことです。フランスのニース市議会は、水道以外にも民営化された公共サービスの再公営化に着手し始めました。交通システム、学校給食、水泳プール、ジャズフェスライバル、農産品市場の民営化を廃止し、「再公営化」を行っているのです。この「再公営化」を進めている団体は、急進左派と言われています。でも、保守基盤の固いニースでも「再公営化」が行われたことに、「再公営化」の運動の勢いが感じられます。
 「再公営化」の流れに勢いをつけたのは、フランスのパリ水道局「パリの水」でした。パリの水道料金は1985年の民営化以降、2009年までに265%も値上がりしたのです。1985年から2009年までの間のパリの物価上昇率は、70.5%でした。物価上昇を大幅に超える値上げを、民間水道事業体は行ったわけです。そこで、2010年からパリ市の水道事業体「パリの水」が、再公営化を行いました。「パリの水」は、翌2011年の水道料金を8%下げることに成功しています。さらに、初年度から約42億円もの経費を節約したのです。この流れを受けて、EUの域内における2019年の調査では、再公営化および公営化の流れは激増しているのです。
 アメリカやフランスのPFIの運営を見ていくと、いくつかの問題点が出てきます。市民の利益よりも、会社や株主の配当に重点を置いているのです。会社の役員報酬や株主配当、そして会社の利益を確保した上で、事業を行っています。事業に赤字が出れば、料金を値上げするという手法を取っています。最初の契約で、この利益確保ができるような仕組みを作っています。ここにも、契約の法律家に多くのお金を支払う仕掛けがあります。民営事業では必要のない役員報酬や株主配当があるために、長い期間を経ると、インフラ投資が減り、維持や修理に使うお金が増えます。値上げを行う体質になっていくようです。
 最後に、ヨーロッパの水メジャーには、厳しい時代になりつつあります。厳しさから逃れ、楽天地を開拓しなければ会社は衰退します。彼らが向かう楽天地は、アジアになります。経済成長著しい地域は、上下水道は不可欠です。水メジャーの歴史を見ると、EUの国々や他の国家上層部と結託していく傾向がありました。独裁国家や強い政権と癒着して、権利を獲得していく姿が浮き彫りになります。他人事ではなく、日本にもその触手が伸びてきています。官民連携や民営化を推進する司令塔が、内閣府にある「PPP/PFI推進室」です。ここの部署に、水メジャーの民間企業から出向したスタッフが働いていました。水メジャーの大手ヴェオリア社日本法人の社員が、政策調査員としてこの推進室に2017年から在籍していました。彼らは、世界の水事情に精通しています。その知見は、大いに見習うことが必要です。水道や、道路やエネルギー供給施設、通信網などは縮小しない限り、維持管理負担が増えることが道理です。この道理の中で、最適化する手法を日本の各自治体に教えていただきたいものです。企業秘密化もしれないけれど。