ファンタジアランドのアイデア

ファンタジアランドは、虚偽の世界です。この国のお話をしますが、真実だとは考えないでください。

苦しみを軽減する臨床心理  スモールアイデア NO357

2020-02-15 18:08:31 | 日記


 世界中で、多くに人が苦しみ、悩みを持ちながら生活をしています。ある文化人類学者は、人間は苦しみ、悩みながらも、前向きに生き抜く動物であるといいます。「苦しみ」の度合いが進むと、それを乗り越える前向きなシステムを持っているというのです。私たちが20万年前に、ホモサピエンスとなる以前から、この仕組みが作られてきたという説を述べています。苦しみや悩みに耐えて、それをプラスにする遺伝子を増やしてきたというわけです。確かに、成功した人たちを見ていると、困難を克服して、新しい局面を作り出しているケースがあることがわかります。苦しみを克服した遺伝子が、生存や繁殖に有利な結果をもたらしているということです。そして、それを次世代に伝えている進化の過程があるというわけです。
 現在、苦しみや悩みから抜け出す手法として、臨床心理の支援があります。臨床心理の視点から見ると、人の苦しみや悩みは4つに分類できます。「人が恐い」、「自分を責める」、「人と上手につき合えない」、「死ぬのが恐い」になります。この4つには共通の構造があります。一つは、「こうしたい、こうすべきだ」などの希望や理想に関することになります。もう一つは、「そうできないので、悩み苦しむ」など理想は分かるが、できない現実の自分に苦しむというものです。この理想とできない現実の対立構造が、悩みや苦しみの根源になります。
20万年前から進化してきた人間は、生存や子孫を残すためにいくつかの仕組みを持っています。発熱や下痢という症状は、遺伝子に組み込まれた適応の一つになります。人間はウイルスなどの病原体に感染したとき、発熱したり下痢をしたりします。熱に弱い病原体を、発熱によって殺すことが人間の適応行動になります。または、体温をあげることで、免疫を作る化学反応を速めていくわけです。発熱する症状は、体の抵抗力を高める仕組みにもなっているのです。腸内に増えた病原菌を下痢によって体外に排出し、体を守る適応行動もとります。発熱と下痢と同じように、苦しみや悩みにも遺伝子の適応行動によって解決するような仕組みが人間にはあるようです。
深刻な悩みや苦しみに耐えられない場合、人間は押しつぶされてしまいます。現代社会は、うつ病などの精神疾患が増えています。このことは、押しつぶされる人が増えていることを意味しているかもしれません。ある人に大きな苦しみが生じたとき、コルチゾールが分泌されます。コルチゾールは、ストレスホルモンともいわれ、苦しみに対抗し、体内の環境を非常事態に備える働きをします。軽い苦しみならば、すぐに正常に戻ります。でも、苦しみが続くと、コルチゾールが分泌され続けることになります。このストレスによる非常事態が続くと、脳や体内の組織が弱体化していきます。この事態になると人間の体は、次の適応行動を取ります。副腎皮質からデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、脳の視床下部からニューロペプチドY (NPY)が分泌され始めるのです。DHEAやNPYはコルチゾールの作用を抑制し、苦しみの感覚を低下させる効果をもっています。脳には、苦しみや悩みに打ちひしがれた心理状態を切れ目なしに続くことを防ぐ仕組みも備わっているのです。
 余談ですが、ホモサピエンスよりも何億年も前に誕生したゾウリムシは、現在でもバクテリアなどを食べながら生息しています。ゾウリムシは、水中で障害物を避けて餌に到達します。危険な化学物質や捕食者から、離れようとします。分裂によって固体を増やし、子孫を残していきます。ゾウリムシの外界の把握は、現在までそれほど間違わずに来ているようです。もし、外界の把握が間違っていたならば、ゾウリムシは現在生き残ってはいなかったでしょう。当然、現在の地上の覇者であるホモサピエンスも、ゾウリムシのような適応戦略を遺伝子の中に秘めていいます。人間には、何万年も生き延びてきた適応戦略が、今でも活動していることになります。
「理想とできない現実の対立構造」が、悩みや苦しみの中核になります。こうしたいのだけれど、そうできないので、悩み苦しむ、という構造を取わけです。この苦しみを和らげる専門家が、臨床心理士といわれる人たちです。彼らの手法の一つに傾聴の技術があります。クライアントのお話を傾聴することは、心理的苦痛を伴うと言われています。お話を聞いている中で、クライアントが「愚痴をこぼし続ける」時期があると言います。何の生産性もない愚痴に思えますが、傾聴という視点からは重要な分岐点です。愚痴を言い尽くすと、クライアントは変わります。愚痴の中にある苦しみや悩みを吐き出す段階を過ぎると、自分を見つめたり、考えようという意欲が出てくると言います。悩みや苦しみをじっくり聴いてもらえると、自分自身を改めて考える機会を得るようです。蛇足ですが、理想を下げるとこの苦しみや悩みから解放されるケースが多くなるようです。ようは、要求水準を下げれば、苦しまなくとも良い状況が生まれるということです。このことに、自分自身で気が付き、自分で克服することが大事な点です。
 最後に、現代社会では、苦しみや悩みなどでうつ病になる方も増えています。臨床心理にかかわる専門家は、この軽減に多くのエネルギーを使っています。でも、苦しみや悩みを持つクライアントは増加する傾向にあります。臨床心理士の方だけでは、この事態を防げないという現実があります。であれば、人間が進化の過程で培ってきた適応規制を強化することで、乗り切ることはできないものでしょうか。幸いにも、脳科学の進歩により、ホルモンの研究は進んでいます。コルチゾールやデヒドロエピアンドロステロン、ニューロペプチドY などの分泌状況は、量的に把握されることも近い将来可能になるでしょう。臨床心理士のカウンセリング技術と併せて、人間の持つ適応規制を数量的に利用した診療体系ができれば、苦しみ悩むうつ病などのクライアントを軽減することができるかもしれません。そんな診療体制を作ってほしいものです。