浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

ティッサンーヴァランタンによるフォーレの夜想曲第1番

2009年07月11日 | 洋琴弾き
松山への出張から帰って来て、一番に愛犬の遺影の前で線香をあげた。月命日に居てやることができなかったからだ。フォーレの洋琴作品を取り出して静かに聴いてゐる。雲間からは亡くなった日と同じやうに少し霞んだ月がのぞいてゐる。

遥か遠くから聴こえてくるやうな「夜想曲第1番」冒頭の変ホ短調の和声進行がしんみりと心に響く。回想的な音楽に始まり、中間部の紡ぎ歌風の動機で感情が動く。そして再び回想に戻り、より哀しみが深まるかのやうに曲を閉じるのだ。愛犬が息を引き取った日、きれいな夕焼けが見えた。愛犬はこの美しい夕焼けを見ることなく逝ってしまったのかと思ふと涙をこらえてゐられなくなった。目を閉じると、そのときの様々な光景が鮮明に蘇ってくる。

ヴァランタンの洋琴は少し影のあるとても良い響きだ。フォーレと同時代を生きた洋琴家、ヴァランタンの演奏には、現代には無い憂いや優しさが感じられる。肩に力の入らない自然な間のとり方とともにしっとりと心を落ち着かせてくれる音色も僕にとって魅力的だ。あまり知られてゐない洋琴家だがヴァランタンの演奏が僕の知る限りでは最も良い部類に入る。

盤は、仏蘭西VocaliseによるCD 32611。


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