梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

眉の上に

2008年05月09日 | 芝居
公家や女官など、宮中の男女のお役で見られる、<位星(くらいぼし)>と呼ばれる化粧がございます。
普通に描いた眉の上に、さらに墨でポチッと丸い点を入れるのですが、実際の宮廷化粧史には見られないものですから、独自に生み出されたものなのかも? と考えたりもするのですが、各地の祭礼に登場する、<お稚児>さんも、多くこの化粧をしていますから、なにか謂れがあるのかもしれませんね。

『一條大蔵譚』の大蔵卿・常磐御前、『六歌仙』の業平・小町、『毛抜』の勅使桜町中納言などありますが、『関の扉』の関兵衛は、本性をあらわして大伴黒主となりますと、舞台上で化粧を変え、この位星をつけて身分が変わったことを示します。
同じように、今月の『義経千本桜 渡海屋・大物浦』の安徳帝も、最初は銀平の娘お安ということになっていますから普通の化粧ですが、場面が変わりますと、装束が改められるとともに位星がつくのです。

一方、『源氏物語』の諸作では、全編これ宮中が舞台ですから、位星のオンパレードになりそうですけれど、逆に全然登場いたしません。先にも述べました通り、史実の化粧法ではないわけで、時代考証をふまえた演出では使えないわけですね。

宮中人は、自前の眉は剃り、それより上部に眉をひき直していたそうですが、あるいはこれが位星のルーツなのでしょうか。ああ、気になります。