梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

幕間は変身時間

2005年09月04日 | 芝居
東京公演二日目。私個人としてはだいぶ落ち着いて来ました。演技はやはり、冷静さと集中力とのバランスだと思います。自分で(リラックスできてるな)と思えた時は、発汗量も少ないのです。逆に、ちょっとしたミスがあったり、気負いすぎている時は、少しの出番なのに滝のような汗がでてしまいまして、衣裳さんに御迷惑をかけるという次第となるのです。
まあ、とにもかくにも舞台上では涼しい顔で演技をしてゆくわけですが、ひとたび幕が閉まりますと、大慌ての<早拵え>が待っております。今回の公演のタイムスケジュールは、「歌舞伎の美/効果音」と「櫓のお七」の間が、「櫓のお七」と「松王下屋敷」の間が、それぞれ三十分の休憩となっておりますが、この間に私は、景清からお杉へ、お杉から御台所へと変わります。どちらも全然違う化粧ですから、急いで落として、塗り直し、描き直しとなるのです。
短い時間での化粧は神経をつかいます。あせると白粉がムラになってついてしまうこともありますし、筆先が定まらずに、失敗する可能性もあります。さらには前の幕でかいた汗がひかない状態となると、その処理ばかりにおわれてさっぱり化粧が進まないことすらあるのです。
なるべく滞りなく化粧ができるように、あらかじめ白粉を刷毛につけておいたり、下地につかう鬢付け油もツバキ油を混ぜて柔らかくし、伸びをよくしたりと、私なりの工夫をしておりますが、やはり時間におわれての化粧は、しんどいものです。
御台所の顔が、既婚者の役なので眉を描かなくてよいので比較的楽ですが、やはり既婚者の印である<お歯黒>がつけ忘れやすいので、要注意です。歌舞伎化粧の<お歯黒>は、お歯黒専用の固形の顔料をライターで炙って溶かし、それを指先で歯に擦り付けます。
これも慌てると、口の周りの白粉にまでつけてしまうので、油断がなりません。本当は顔の白粉を塗る前につければよいのですが、今回はとにかく早くに、一通り完成させておかないと間に合わない危険がありますから、後回しにしてしまっております。
うっかりつけないままで舞台に出てゆかないよう、気をつけております。


明日は休演日(江戸東京博物館自体が休館日なので)ですので、歌舞伎座出演中の若旦那へ、御挨拶に伺おうとおもっております。『弥次喜多』も拝見できればと存じます。