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耐震補強について考える③「偏心率は正確に算出できるのだろうか」


※ちょっと難しい話になってしまいましたスイマセン

壁の補強を行う際に注意しなければならないのは、どの壁に補強したり、どの部分に壁を増設するべきかという点です。やみくもに壁を増やせばいいというわけでもないですし、手当たり次第に既存の壁を補強すればいいわけではありません。

では、どうやって適切な部分に補強するかを判断するのかという話になりますが、これは「偏心率」を頼りにする場合が多いです。その他に壁配置のバランス計算(四分割法、壁量充足率・壁率比)もありますが、耐震診断の場合は偏心率が一般的でしょう。

当然ですが偏心率って何?と質問される方は多いです。
実は偏心率の説明って難しいんですよね。完全に理解してもらうには時間もかかりますし、建築士でさえパソコン使って算出している方が大半だと思うのでそのすべてを説明できる方は意外と少ないでしょう。
私もきちんと説明できる自信がありません。
でもそれもどうかなと思いますので教科書のような説明をさせて頂きます。偏心率とは、重心と剛心のへだたりのねじり抵抗に対する割合であり、重心とは建物平面形状の中心、剛心とは水平力に対抗する力の中心となります。でもこんな説明では分からないですよね。

偏心率を正確に算出するためには、建物の形(平面図)とスジカイ等の耐力壁の配置を正確に把握しなければなりません。よく耐震診断で家の形とか壁の位置とか調べたり、図面があるかどうか聞いたりするのは偏心率を算出するために必要だからです。
偏心率が悪いとどうなるかといいますと地震の際に揺れが大きくなります。ようするに壁がバランスよく配置されてれば偏心率はいいわけでして、南面にやたら窓が多くて北側に壁が多かったら偏心率が悪いと考えていいでしょう。建物の四隅にしっかり壁があれば偏心率がよい可能性が高いですね。だから、よく建物の隅に壁があるかどうか質問したり、調べたりするわけです。

・・・とこれまでは当たり前というか、知っている方も多い内容だと思います。
これから今まで診断した経験から私の考えを述べます。
(賛否両論あるとは思いますが)
古い木造住宅(それも昭和56年5月31日以前着工)に対して正確に偏心率を算出しようと思ってもはっきりいって無理です。かなり誤差がでる場合があります。主な理由として、壁の配置や耐力壁の種類を正確に把握することは難しく、工場ではなく現場でいわば生産する住宅の場合、図面どおりに作業しているかどうかは不明であり施工した大工さんによってかなりバラつきがあることがあげられます。図面にはスジカイが表示されているのに補強工事を行ったら実際は入っていないことがわかったなんてことも意外とあります。(写真参照)
ようするに大手ハウスメーカーがつくるような完全工場生産でないかぎり正確な偏心率を算出したり、数値を実証することは困難だということです。これは大手ハウスメーカーの建てるような規格住宅がすばらしいということをいいたいのではなく、古い木造住宅の偏心率を正確に算出することに固執するのは無理があるといいたいのです。もちろん固執しなさすぎも危険ですけど。

偏心率は耐震診断総合評点を大きく左右させます。もちろん耐震補強計画においても同様です。その偏心率を正確に算出するには限界がある以上、多少の誤差を考慮して補強計画を立案しなければならないと私は考えています。
私は、耐震精密診断の際に偏心率と壁配置のバランス計算(四分割法、壁量充足率・壁率比)を両方実施して、なるべく正確に壁をバランスよく配置できるようにしていますが、偏心率にこだわりすぎてもきりがないという考えは常にあります。逆にいえば耐震診断結果で1.01とか1.05という数値が算出され、「一応安全である」と判定されたとしても決して安心はできないということです。

耐震診断の総合評点は重要ですが、この数値をすべてだと考えてしまうのは非常に危険であると思います。これは、昨年改正された新しい耐震診断法も同様です。新しい耐震診断の方がまだ以前の方法を採用しているTOUKAI-0耐震診断よりいいと思いますが、こと偏心率に関しては変化はありませんので、同様の印象をもっています。下手をすればただの数字ゲームになりかねません。

私は耐震診断の総合評点をひとつの目安でしかみていません。それは耐震精密診断でもほぼ同様です。総合評点ばかり目を向けて、とにかく評点を上げればいいのだという考えを元に耐震補強計画を立てることは、非常に危険であるということを今までの診断経験から得ました。

「偏心率と剛心」解説

<写真解説>
先日実施した耐震補強工事写真。図面に表示されていた既存スジカイが実際にはなかった。
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耐震補強について考える②「壁の補強が最優先2」

前回からずいぶん間が空いてしまいました。申し訳ありません。このところ、耐震診断や補強工事だけでなく、保険会社に提出するための図面等を作成していたりしていたものですから、なかなか文章を書く余裕がありませんでした。
しかし、それも落ち着いたので壁の補強がなぜ最優先なのかという理由について述べたいと思います。

私は、大井川町役場の依頼という形で100件以上耐震診断を行いました。現地調査やPC入力(計算)、報告書作成も随分スムーズにできるようになりました。平成13年度から今年度までとにかく経験(多くの診断を行う)を積むことができたことは幸運だったなと思います。
私がこれまでの診断でよく思うことは、耐震診断における総合評点(調査した建物にどの程度の耐震性があるかを示す数値で基準値は1.0)は「地盤の状態」と「偏心」「水平抵抗力」に大きく左右されるということです。屋根の軽量化や基礎の補強は費用のわりには総合評点を上げることができないケースが多かったですね。

そもそもなぜ地震で家が倒れるのか考えてみるとしましょう。
当たり前ですが、柱が家を支えています。
柱がなければ家は建つことができません。
ということは、支えている柱が倒れるから家が倒れているわけです。逆の言い方をすれば柱が折れたり倒れたり、もしくは抜け落ちたりしなければ家は倒れないことになります。ですから、まず柱の抜け落ちや倒れないようにすることを最優先にすることは当たり前のことといえばそれまでなんです。支えている柱が多ければ多いほど良いということも何も建築士でなくても誰でも知っていることです。そう考えると耐震補強というものは何も難しいことではなくて、当たり前のことをただやるだけといえばそれまでなんじゃあないかと思えてならないときが結構あります。難しいのは。どの程度まで地震に対する強さを補う工事を行うかであり、これは建物の状態や予算、持ち主の意思で大きく変わります。
言い方が悪いですが、いくら屋根を軽くしようが、基礎を強くしようが柱が倒れれば家は倒れます。もちろん、屋根を軽くすることや基礎を補強することは家を倒れにくくさせる効果を生み出しますが、それは柱が壁によってしっかり固定されている建物(伝統工法除く)が次の段階として行うものでしょう。それに特に劣化もない瓦を軽量化させる必要まであるのか疑問です。瓦は瓦で良さもありますしね。
屋根工事は足場も必要になりますし、既存屋根材(瓦)の処理費あるのでかなりの費用がかかります。一方、基礎の補強は床下で行うケースが多いため、様々な別途工事費が追加されることが多く、これも屋根同様、低価格で可能な工事とはいえません。対して壁の補強はどうかといいますと方法によってはかなり低価格で補強することもできますし、SDU(複合鋼板耐震壁)のような制振性のある補強も可能です。価格もやり方も効果も幅広く選択できるのが壁の補強の特長です。

断っておきますが、屋根の軽量化や基礎の補強が必要ないわけではありません。
屋根が老朽化して雨漏りしていたり、古くなってどうしようもないということで葺き替えを検討している方は軽量化を検討してみることはいいことだと思います。
基礎は、本当に補強という点で考えると難しいですね。基礎が破壊されれば倒壊しなくても建て直ししなければならないと主張する方もいますが、命が助かればいいという方に対してまで基礎補強を強制していいものなのか疑問があります。地震後も普通に暮らせるようにしたいという方に対してだけ基礎補強を補強計画に含めるように私はしています。

次回は、耐震診断でよく登場する「偏心」について書きたいと思います。
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