狼魔人日記

沖縄在住の沖縄県民の視点で綴る政治、経済、歴史、文化、随想、提言、創作等。 何でも思いついた事を記録する。

狼魔人流・沖縄語講座 オバーが造った標準英語

2006-08-21 06:53:54 | 沖縄語講座

高級レストランで食事を終えたセレブの奥様がウエイターを呼んだ。

「美味しい食事でしたわ。 でも私小食なので残しちゃいました。 家の犬に食べさいたいので持ち帰りにしてもらえません」

「かしこまりました、奥様。 それで割り箸は何本お付けしましょうか」

犬用の割り箸付き持ち帰りは、日本では笑い話のオチになってしまうが、アメリカで持ち帰りはごく普通のことで笑い話にはならないという。

もっともファーストフーズ店の普及で「テイクアウト」という言葉が一般化して何もわざわざ「うちの犬の・・」なんていう必要も無いのだろう。

先日ラジオでレストランの「持ち帰り箱」が話題になっていた。

英語の素人が考えるには「テイクアウト」と言って残り物を指差せば済むと思うし、少なくとも「テイクアウト ボックス」で通用すると思うのだが、・・・「ドギーボックス」[doggy box?]と言う便利な単語があると云う。

だが、誰も犬用と考える人はおらず家で待つ家族用か後で自分が食べることは公然の秘密なので、それに割り箸を付けても当たり前過ぎて面白くも何とも無いのだ。

この「ドギーボックス」のようにある意味が秘められた言葉を熟語と言うのだろう。

もし「ドギー・ボックス」や「テイクアウト・ボックス」という便利な単語を知らなかったら、持ち帰り用箱は・・・・
the box in which I pack the leftovers for my dog.とでも言うのだろうか。


「久し振り」と言う短い言葉には「長い間逢っていないのがやっと逢えた」と言った意味が織り込まれている。

沖縄の方言には「お久し振り」という便利で熟した言葉は無い。

強いて調べて見たら「ナガデー  ンーダン」がこれに相当する。

「ナガデー」は長い間で「ンーダン」が見ないを意味する。

長い間見かけなかったと言う意味になる。 そのまんまと言う感じだ。

英語で「久し振り」を表現したらどうなるか。

貧弱な受験英語を引っ張り出して模範解答?を試みてみると、

≪I haven't seen you for a long time.≫ 或いは

≪It has been a long time since I saw you last. ≫、・・・どうも硬すぎる。。

これも、まんまじゃないか。

だが、これで入試に合格するかどうかは保証の限りではないが、なんとなく意味は通じるだろう。

ところが沖縄発の「久し振り」の熟語が一般英語として普及していると言う。

沖縄のオジー、オバーは方言の「ナガデー ンーダン」をそのまま英単語を置き換えた。

≪Long Time No See≫

沖縄方言が標準英語になったと言う話。

沖縄パワー恐るべし。

27年に及ぶ米軍占領時代に沖縄はしぶとくアメリカから多くのものを学び取ったが、その一方でアメリカも多くのものを沖縄から学んだ。

その中の一つが≪Long Time No See・≫

即ち「久し振り」と言う意味の沖縄イングリッシュだ。

何と言う簡略にして明快な言葉だ。 くどくど説明は不要だろう。

正式な英語教育を受けていない沖縄のオジー、オバーは耳学問で色んな英語を覚えた。

レストランで出す「お冷や」は「アイスワラ」

軽食店は「コーヒーシャープ」

自動車修理工場は「バリーシャープ」

あえてスペルアウトするとbody shopとなる。

そんな中で文法も、主語も述語も無視したオジー、オバーが使う≪Long time no see.≫は純然たる沖縄イングリッシュだった。

だが、それが米軍人達の間にその簡便さゆえ愛用されるようになった。

その米軍人たちが帰国して本国で待つ知人、友人に久し振りに逢って発した言葉が沖縄仕込みの≪Long time no see≫だった。

≪Long time no see≫は本国アメリカで使われ認知され、そして正式な英語(米語)として日本に再上陸してNHKの英会話教室でも紹介された。

うーん、確かに「お久し振り」には≪Long Time No See≫が言葉としては熟している。

とは言っても英語の専門家でもない当ブログが言うと,どうせ何時ものヨタ話だろうと眉に唾つける人もいるだろう。

だがこれは何時ものヨタ話ではない。

きわめてアカデミックな応用言語学の話だ。

英語・言語学の権威でNHKの語学講師も勤めた比嘉正範教授(★)の応用言語学の成果であると言えばこの話も信憑性を帯びるだろう。

もし久し振りに逢う英語圏の友人がいたら、是非一度≪Long Time No See≫を使って欲しい。

そして、もし「文法的に間違っている云々」といわれたら、沖縄のオジーやオバーが作り出した「沖縄英語」だと説明して欲しい。

もし、「そんなスラングは使わない」といわれたら、ハーバード大大学院教育学研究科博士課程修了の専門家の応用言語学の研究成果であると説明してあげて欲しい。

きっとネーティブ・スピーカーに畏敬の眼差しで見られること請け合い、・・・いや、少なくとも会話の絶好の話題になることだけは請合える。

 

★比嘉正範(ひが・まさのり) 一九二九年、沖縄県生まれ。ボストン大教育学部英語科卒、同大学院英米文学科修士課程修了。ハーバード大大学院教育学研究科博士課程修了。教育学博士。ハワイ大文理学部准教授、筑波大現代語現代文化学系教授、放送大教養学部教授などをへて、九六年から龍谷大国際文化学部教授兼同学部長。専門は応用言語学。実生活での言語の使用と外国語の習得を研究対象にしている。

 

 

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