<奥祖谷二重かずら橋>
眠りから覚めたばかりの朝のかずら橋には、
谷川の流れる音だけが静かに鳴り響いていました。
両側を急峻な崖に挟まれた深い谷の底に降り、
たくさんの巨石が転がる川原に腰を下ろして、
そっと息をひそめていると、あちらこちらから
精霊の気配が漂ってくるような気がします。
今では剣山観光のスポットとなっていますが、
その昔はまさしく「秘境」だったのでしょう。
ちなみに、こちらの奥祖谷二重かずら橋は、
源平の戦いに敗れた平家一族が、
剣山・平家の馬場での訓練に通うために架設されたという説や、
弘法大師が困っている村人を見かねて作ったという説……等々、
様々な伝承が取り沙汰されているものの、
正確な用途は未だによくわかっていません。
地元の方の話によると
「近年観光用に作った(架け替えた?)」
とのことで、 元々かずら橋の向こうに集落はなく、
「生活のために作られたものではない」
というような話も聞きます。
いずれにせよ、この祖谷の地が、
日本の三大秘境のひとつと言われるように、
「何かから隠れる場所」「何かを隠す場所」
であったのは、確かなのかもしれません。