後趙石勒稱天王、尋稱帝。嘗大饗羣臣、問曰、朕可方古何主。或曰、過於漢高。勒笑曰、人豈不自知。卿言太過。若遇高帝、當北面事之、與韓・彭比肩耳。若遇光武、當竝驅中原。未知鹿死誰手。大丈夫行事。當礌礌落落、如日月皎然。終不效曹孟・司馬仲達、欺人孤兒寡婦、狐媚以取天下也。勒雖不學、好使人讀書而聽之、時以其意論得失。聞者悦服。嘗聽讀漢書、至酈食其勸立六國後、驚曰、此法當失。何以遂得天下。及聞張良諌、乃曰、頼有此耳。後遣使修好于晉。晉焚其幣。勒卒。子弘立。
後趙の石勒、天王と称し、尋(つ)いで帝と称す。嘗て大いに群臣を饗し、問うて曰く「朕は古(いにしえ)の何(いず)れの主に方(くら)ぶべきか」と。或るひと曰く「漢高より過ぎたり」と。勒笑って曰く「人豈(あに)自ら知らざらんや。卿の言(げん)太(はなは)だ過ぎたり。若(も)し高帝に遇(あ)わば当(まさ)に北面して之に事(つか)うべく、韓・彭と肩を比べんのみ。若し光武に遇わば当に中原に並駆(へいく)すべし。未だ鹿の誰が手に死するを知らず。大丈夫、事を行うや、当に礌礌落落(らいらいらくらく)たること、日月(じつげつ)の皎然(こうぜん)たるが如くなるべし。終(つい)に曹孟・司馬仲達が、人の孤児、寡婦を欺き、狐媚(こび)して以って天下を取るに效(なら)わざるなり」と。勒学ばずと雖も、好んで人をして書を読ましめて之を聴き、時に其の意を以って得失を論ず。聞く者悦服(えっぷく)す。嘗て漢書を読むを聴き、酈食其(れきいき)が六国(りくこく)の後(のち)を立つるを勧むるに至って、驚いて曰く「此の法当(まさ)に失すべし。何を以ってか遂に天下を得たる」と。張良の諌めを聞くに及んで、乃ち曰く「頼(さいわい)に此れ有るのみ」と。のち、使いを遣わして好(よしみ)を晋に修(おさ)む。晋、其の幣(へい)を焚(や)く。勒卒す。子弘(こう)立つ。
漢高 前漢の高祖。 北面 君主は南面。臣下は北面して見えたから。 韓・彭 韓信と彭越。 鹿 「中原に鹿を遂う」は帝位を争うこと。 礌礌 磊磊におなじ、小事に拘らないさま。 落落 度量の大きいさま。 皎然 明らかなさま。 曹孟 曹操。 司馬仲達 司馬懿。 狐媚 人を惑わすこと。 悦服 よろこんで従うこと。 酈食其 既出2009.9.8ただし(れいいき)と誤ってルビを振った。 頼 おかげで、都合よく。 好を修む 修好 国と国とが仲良くすること。 幣 礼物、進物。
後趙の石勒は天王と称し、やがて帝と称するようになった。あるとき群臣を集めて饗応の席で「朕はいにしえの君主のうちでだれと比肩しうるであろうか」と言うと、一人が「漢の高祖にもすぐれておりましょう」と言うと、笑って「何のおのれの器量ぐらい知らずにどうする。そなたの言はちと過ぎるぞ、もし高祖と巡り合えたとしたら、臣下の礼を取ってせめて韓信や彭越と肩を並べる位いのものだ。もし光武帝に出会えたなら、中原に馬を駆ってどちらが覇権を手にするだろうか。大丈夫たるもの、事を成すにもこせこせせずにからりと日月の輝きの如くやってのけたいものだ。曹操や司馬懿のように孤児や寡婦をたぶらかすようなまねはしたくないものだ」言った。石勒は学問はしなかったが、好んで人に書物を読ませてそれを聞き、時に自分の考えでその得失を語るのだが、それが周りの者を感服させた。あるとき漢書を読ませていたが酈食其が六国の王の子孫を再び封ずるように進言する場面になると石勒は驚いて「まさかそんなことを聞き入れて、どうして天下が取れたのか」といぶかった。そして張良の諌めるに至って「なるほど、そのせいか」と納得した。後に使いをおくって晋と修好を結ぼうとしたが、晋はその礼物を焼いて、拒絶した。
石勒が亡くなった。子の弘が立った。
後趙の石勒、天王と称し、尋(つ)いで帝と称す。嘗て大いに群臣を饗し、問うて曰く「朕は古(いにしえ)の何(いず)れの主に方(くら)ぶべきか」と。或るひと曰く「漢高より過ぎたり」と。勒笑って曰く「人豈(あに)自ら知らざらんや。卿の言(げん)太(はなは)だ過ぎたり。若(も)し高帝に遇(あ)わば当(まさ)に北面して之に事(つか)うべく、韓・彭と肩を比べんのみ。若し光武に遇わば当に中原に並駆(へいく)すべし。未だ鹿の誰が手に死するを知らず。大丈夫、事を行うや、当に礌礌落落(らいらいらくらく)たること、日月(じつげつ)の皎然(こうぜん)たるが如くなるべし。終(つい)に曹孟・司馬仲達が、人の孤児、寡婦を欺き、狐媚(こび)して以って天下を取るに效(なら)わざるなり」と。勒学ばずと雖も、好んで人をして書を読ましめて之を聴き、時に其の意を以って得失を論ず。聞く者悦服(えっぷく)す。嘗て漢書を読むを聴き、酈食其(れきいき)が六国(りくこく)の後(のち)を立つるを勧むるに至って、驚いて曰く「此の法当(まさ)に失すべし。何を以ってか遂に天下を得たる」と。張良の諌めを聞くに及んで、乃ち曰く「頼(さいわい)に此れ有るのみ」と。のち、使いを遣わして好(よしみ)を晋に修(おさ)む。晋、其の幣(へい)を焚(や)く。勒卒す。子弘(こう)立つ。
漢高 前漢の高祖。 北面 君主は南面。臣下は北面して見えたから。 韓・彭 韓信と彭越。 鹿 「中原に鹿を遂う」は帝位を争うこと。 礌礌 磊磊におなじ、小事に拘らないさま。 落落 度量の大きいさま。 皎然 明らかなさま。 曹孟 曹操。 司馬仲達 司馬懿。 狐媚 人を惑わすこと。 悦服 よろこんで従うこと。 酈食其 既出2009.9.8ただし(れいいき)と誤ってルビを振った。 頼 おかげで、都合よく。 好を修む 修好 国と国とが仲良くすること。 幣 礼物、進物。
後趙の石勒は天王と称し、やがて帝と称するようになった。あるとき群臣を集めて饗応の席で「朕はいにしえの君主のうちでだれと比肩しうるであろうか」と言うと、一人が「漢の高祖にもすぐれておりましょう」と言うと、笑って「何のおのれの器量ぐらい知らずにどうする。そなたの言はちと過ぎるぞ、もし高祖と巡り合えたとしたら、臣下の礼を取ってせめて韓信や彭越と肩を並べる位いのものだ。もし光武帝に出会えたなら、中原に馬を駆ってどちらが覇権を手にするだろうか。大丈夫たるもの、事を成すにもこせこせせずにからりと日月の輝きの如くやってのけたいものだ。曹操や司馬懿のように孤児や寡婦をたぶらかすようなまねはしたくないものだ」言った。石勒は学問はしなかったが、好んで人に書物を読ませてそれを聞き、時に自分の考えでその得失を語るのだが、それが周りの者を感服させた。あるとき漢書を読ませていたが酈食其が六国の王の子孫を再び封ずるように進言する場面になると石勒は驚いて「まさかそんなことを聞き入れて、どうして天下が取れたのか」といぶかった。そして張良の諌めるに至って「なるほど、そのせいか」と納得した。後に使いをおくって晋と修好を結ぼうとしたが、晋はその礼物を焼いて、拒絶した。
石勒が亡くなった。子の弘が立った。
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