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訴訟大国アメリカの限界

2010年02月25日 | 社会

トヨタのリコール問題について、公聴会が開かれ、社会の耳目を集めています。この報道を見ていると、訴訟大国とも言われるアメリカの限界を感じるとともに、同国の行く末も見えるような気がしてきます。

今回の一連の流れの中で、トヨタに非がないとは言いません。顧客の声を真摯に受け止めず、問題と向き合ってこなかった姿勢は、厳に反省を求めるべきでしょうし、またそれは至極、理に叶っているものだと思います。ただ、今回の公聴会の議論には、そうしたトヨタの隙を突いて、過度な言いがかりをつけている可能性も否定できず、それは偏に今日のアメリカ社会の限界であるかもしれないと思うのです。

公聴会の最初の証人、ロンダ・スミスさんの証言は非常に興味深いです。

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2006年10月、新車の「レクサスES350」を運転中、高速道路に合流したところで、アクセルの制御が利かなくなった。ギアをニュートラルやバックに変えたり、両足でブレーキを踏みながらハンドブレーキを使ったりしたが、車は時速160キロまで加速を続けた。
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この証言から、当初、アクセルの不具合はフロアマット等の物理的要因と言われていましたが、電子制御部分の問題である可能性が指摘されているわけです。これに対して、トヨタ側はその可能性を否定し続けています。こうした問題について、断定することは極めて難しいですが、私の感覚として、指摘されているような電子制御系の問題であるとするならば、これは自動車が自動車として成り立たなくなるほどの極めて重大な欠陥であろうと思います。ブレーキ、それもハンドブレーキやミッションも効かないというのは、自動車の基本的な機能障害と言わざるを得ません。

要はアクセルを踏まず、一方でブレーキを踏んでも、ミッションを切り替えても、勝手に走ってしまうのですから、もうどうすることもできないわけです。ほとんど自動車が勝手に動き出す、SF映画の世界に近い状態です。これについて、トヨタはいろいろな調査をしており、電子制御には問題ないと言っていますが、それは当り前でしょう。なぜなら、そんなことが本当にあり得るのであれば、もっといろいろなところで(SF映画でロボットが人間に反乱を起こすように)自動車が暴走しているはずです。同型車種が、どれくらい出回っているのか分かりませんが、少なくともトヨタが作っている大量の車が走っている中で、(単なるアクセルが戻らないというレベルではない)そんな暴走車両の事例がろくに報告されていないのに、その証言をそのまま信じろというのは、いささか無理がある話です。この無理な話を円滑に説明しようとなると、二つの可能性に絞られます。それは、それだけあり得ないことが証言者であるロンダ・スミスさんの車に起こったか、あるいはロンダ・スミスさんが偽証しているかのどちらかということです。

この公聴会は、そうした可能性があるにもかかわらず、証人の発言に対する信憑性を見極める機能が不十分で、かつその証人に「恥を知れ」等という一方的な罵声を許すという極めて歪な仕組みであると言わざるを得ません。

私なりに、ここには訴訟大国とも言われるアメリカの事情が、深く関わっているのだろうと考えます。そして、そのことから今後のアメリカという国の衰退への道筋も見えてくるではないかとも思っています。

以下、ロンダ・スミスさんが偽証しているという可能性に絞って、訴訟大国アメリカの限界について考察してみたいと思います。

今回のトヨタの件もそうですが、消費者が企業等を相手取って行なう集団訴訟というものがあります。これについての詳述は避けますが、要は、企業の商品やサービスに問題があった場合、消費者が企業を相手取って多額の損害賠償を求められるのです。この方式自体、善良な消費者を守るためという目的で、きちんと作用していれば、特段、問題が認められるものではないでしょう。むしろ消費者を守るための社会システムとして、有効なものであると考えるべきだと思います。しかし、実情を見ると、金銭目的で訴訟を起こすような人々がいたり、日本に比べて大量に存在する弁護士を食わすためのシステムとして機能しているような側面を否定できないのも事実です。

もちろん、広義における集団訴訟自体は、アメリカ特有のものではなく、またそれは単にそうしたネガティブな側面があるというだけなので、それで事の善悪が決するわけではありません。ただし、今回の公聴会に登場しているロンダ・スミスさんのケースを含めて考えた時、その原告となり得る人々の言い分、立ち振る舞いを想像しないわけにはいかないのです。

即ち、アメリカで事業を行なう場合には、そうした消費者たちによる集団訴訟リスクをどのように考えるかということが、非常に大きな課題であろうということです。逆の言い方をすると、そうした事業リスクを抱えるような国において、真剣に事業を展開しようとする企業は、今後、減っていくかもしれないということです。順調に事業がうまくいっているかと思ったら、言いがかりのような理由から高額の賠償金を支払わされるようでは、たまったものではありません。これは企業にとってのマイナス以上に、世界の企業が撤退してしまうアメリカという国にとってのネガティブインパクトにもなるでしょう。そして、私なりには、こうした状況が続くようなら、その流れは間違いなく顕在化し、結果として、アメリカという国にとって非常に大きな打撃になるだろうと思います。

別に、アメリカという国が嫌いなわけではありません。むしろ、これまでアメリカという国が、世界をリードしてきたことについて、素直に敬意を表したいと思います。ただし、今回のトヨタリコール問題を巡る一連の議論から、訴訟大国とも言われるアメリカの限界について、ちょっと考えてみたのでした。

《おまけ》
アメリカという国の流儀に沿って、同地にて事業を展開し、それによって収益を得てきた企業については、上記のようなリスクと向き合って然るべきだろうと考えます。そういう意味で、今回のトヨタの件、特段、同情したり肩を持ったりというつもりはありません。トヨタという会社がアメリカという国のおかげで、これまで享受できた恩恵を考えれば、今回の件でのダメージは、それほど大きなものではないとも言えます。ただし、「どこで事業を展開するか」ということは、それだけ慎重に考えなければならないということは間違いないでしょう。例えば、今日、「中国が成長市場」等と言って、次々と中国に進出していく企業がありますが、それらには必ずリスクがあるということも重要です。それをきちんと認識せず、不用意に他国に出ていくということは、後々、相応の代償を払わなければならなくなるかもしれない点、注意を払う必要があるだろうと考えます。

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8 コメント

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哲学 理論 (Fifty-fifty)
2010-02-25 21:36:11
【時間平面】

『1=1'』

左側の『1』と, 右側の『1'』が同等であるならば, 必ず同じ時間平面上に両者は存在しなければならない。但し質的に連続する時間平面上にあればよいので, 一方が視界(平面上)より質的に消え, また一方が視界(平面上)に質的に現れる場合は極端な例として含まれる。最も安定した例は紙の上に書かれた記号である。例えば紙の上に『A』と書いたとすると, この『A』は絶対変化系『±A=0』となり, 厳密にその形を保つことは出来ない。つまり『A=A'』(同等)として扱う場合は, 必ず質的に変化する前の『A』とは質的に変化する平面ごと重なり合わなければならなくなる。よって次の様に表される。

『A→A'=A←A'』

【解説】
時間平面AはA'方向へ変化すると言う【過程】『A→A'』と, 時間平面A'はA方向より変化して来たと言う【過程】『A←A'』は同じ時間平面上に一致する。(『→《右向きベクトル》』は, その方向への経過。『←《左向きベクトル》』は経過してきた方向を表す無方向ベクトル。)

±A=0《絶対変化系》

±(A→A')=0

(A→A')=(A←A')《一致》


念のために確認しておくが, 『±A=0』(絶対変化系)は如何なる観察場に於いても成り立つ。『0』は特別な記号で, 絶対性・不可分性・識物性・変化性の森羅万象の真理を表すと考えられている。尤も, これを記号として繋いだなら他の記号と変わりないのだが, 便宜上こうなっていると考えて構わないだろう。『A』と【0】(真性)はぴったり重なる。と言うより真理なる性質を与えられていると考える方が正確かも知れない。『A』は時間平面に嵌まらないこの裏側(の絶対無)と不可分であり, 拡がりがなく, 絶対的で, つねに質的に変化する。識物性とあった通り, この裏側(の絶対無)に支えられている時間平面上のすべて, 即ち時間平面を構成する絶対的要素のすべてが『A→A'』を成しており, 分けてゆけば無限大である。(ノートブックの紙, 黒鉛など‥)


問題は, 質的に連続する観察場時間平面上から切り離された【記憶】の2つ以上の時間平面の関係, 特に心象的時間平面的複雑系は, 如何にして心象的時間平面的単純系(記号)と関係を持っているか, である。

複雑系P=P'

記号系A=A'


{P→P'=P←P'}≠{A→A'=A←A'}

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世界観と宇宙論 (竹内一斉)
2010-02-26 00:30:08
Fifty-fiftyさん、コメントありがとうございます。

お使いになっているそれぞれの言葉の概念が、私が考えるものとどのように符合するのか分からないところもありますが、Fifty-fiftyさんが持たれている世界観や宇宙観を表現しているものとしては、なかなか興味深いものが含まれていると思います。
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米民主党 (Half Boiled)
2010-03-02 02:05:38
米国民主党は、かつて日本を日米開戦にまで追い詰めた伝統的に反日政策を掲げる政党である。フライングタイガースという米軍飛行機部隊を義勇軍という名目で、日米開戦の前から、中国に派遣して、日本に戦争をしかけてきた政党である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%82%B9

従軍慰安婦の問題も米国民主党になると取り上げられる。民主党の日本叩きは、別にトヨタの件が初めてではなく、伝統的なお家芸であり、それは、過去の歴史が証明している。

米国、中国、ロシアは覇権主義をもってして、否応なしに国益を貪欲に追求してくる。

日本も今までにみたいに、お行儀良くしていると、単に国の富を奪われるだけ。
トヨタは淡々と、米国の工場を閉鎖し、製造拠点を海外に移していけば良い。困るのは、トヨタアメリカに雇用されていたアメリカ人だろう。
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賛成です (竹内一斉)
2010-03-02 09:56:38
Half Boiledさん、コメントありがとうございます。

トヨタの米国撤退、賛成です。もちろん、簡単にはいかない事情はあるでしょうが、これは武器を使わない戦争です。ふっかけられたら、とことん戦うつもりでいかないといけないだろうと思います。

このあたり、日本の政党・政治家がまったく機能していないところが、今の日本らしい気がします。世代&プレイヤー交代は必然でしょう。
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大西洋会談 (Half Boiled)
2010-03-25 01:43:41
米国は、先の大戦を振り返る時に、こう言う。

"Remember Pearl Harbor!"

パールハーバーの卑怯な日本軍の奇襲攻撃で、米国は日米開戦に引き込まれたという主張だ。

この会談では、戦争後の枠組みを合意した大西洋憲章が調印された。しかし、この憲章の裏では、対日戦争が決定している。
この大西洋会談に関するアメリカ外交文書は、いまだに公開されていない。

1941年8月9日から12日にかけてイギリス首相のウィンストン・チャーチルと、アメリカ合衆国大統領のフランクリン・ルーズベルトによる大西洋会談が行われ、大西洋憲章が調印された。太平洋戦争開戦前で合衆国はまだ参戦していなかったが、この憲章は戦後の世界構想を述べたものである。

8項目からなり、その内容は要約すると以下になる。
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1.合衆国と英国の領土拡大意図の否定
2.領土変更における関係国の人民の意思の尊重
3.政府形態を選択する人民の権利
4.自由貿易の拡大
5.経済協力の発展
6.恐怖と缺乏からの自由の必要性
7.航海の自由の必要性
8.一般的安全保障のための仕組みの必要性
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日本政府は米国政府に対して、外交文書の公開を求めるべきだ。
文書が公開されれば、戦争を始めた罪で裁かれた東京裁判の正当性が失われ、日本の正しい歴史認識が生まれる。

西村議員もブログで、この件指摘をしている。
http://www.n-shingo.com/cgibin/msgboard/msgboard.cgi?page=467
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歴史研究 (竹内一斉)
2010-03-25 10:18:38
Half Boiledさん、コメントありがとうございます。

東京裁判については、まったく同じ思いです。また開戦時に関する歴史研究は、きちんとなされるべきだし、それは学者だけでなく、おっしゃるとおり外交文書の開示など、政治が果たすべき役割があるのだろうと考えます。

「歴史とは勝者が作るもの」というのは、それはそれとして、ひとつの側面で正しいのでしょうから、それを否定するつもりはありません。ただし、それだけでも済まない側面もあるだろうと考えます。
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あんたが大将 (Extremely Boiled)
2011-02-15 02:20:42
一年前の指摘が当たりましたね。
トヨタの電子制御システムには、問題がないこと、アメリカが認めました。トヨタが泣いて、GMが復活した後に、アメリカが認めるのは、アメリカらしい。で、日本側は、もちろん鳩山さんやマスコミを始め、誰も責任をとりません。いつものごとく。
アメリカも、日本がTPPに参加しなければ、「また仕掛けるぞ」という警告&脅しを込めてのメッセージ。アメリカ、中国、ロシアに腰砕けの日本政府には、馬耳東風。

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トヨタ:電子制御システムに欠陥なし 米運輸省が最終報告
【ワシントン斉藤信宏】トヨタ自動車の大規模リコール(回収・無償修理)につながった急加速問題について米運輸省は8日、「電子制御システムの欠陥は発見できなかった」とする最終報告をまとめた。電子制御システムと急加速との関連を否定してきたトヨタの主張をほぼ全面的に認めた形で、1年以上に及んだ一連の大規模リコール問題は、収束に向け大きな節目を迎えた。

 「意図しない急加速」で事故を起こしたとされるケースについて、米道路交通安全局(NHTSA)と米航空宇宙局(NASA)が昨年春から調べていた。

 報告書は、一連の急加速の原因を「アクセルペダルとフロアマットの機械的な不具合」と断定。さらに、車載のコンピューターの電子回路や28万行以上のプログラムなどを調べた結果、「電子制御の問題は見つからなかった」とした。

 8日午後、米運輸省で記者会見したラフード運輸長官は「入念な、徹底した調査を実施した結果、トヨタ車の問題は機械的なもので、電気系統の問題ではなかったことが明らかになった」と説明。「娘もトヨタ車を買った」「安全に運転できる」などと、トヨタ車にお墨付きを与えてみせた。また、10カ月に及んだ長期調査に関して「トヨタは責任ある態度で協力的だった」と強調した。
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そうですね (竹内一斉)
2011-02-15 07:05:12
Extremely Boiledさん、コメントありがとうございます。本当にそうですね。

当時、鳩山さんが本件について、米国政府に抗議したり、疑問を呈するということもなかったことが、とても残念だったことを覚えいます。もちろん、今の菅さんにもありません。

まぁ、今の政治家さんには期待してもダメだというメッセージとして、重く受け止めつつ、ますます我々は、自分たちの役割を強めていかなければならないのだろうと思います。
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