『日本の戦後補償問題』、1996年執筆
日本の戦争責任認識の表出のかたちのひとつとして、繰り返される政治家の問題発言がある。これがしばしば、いわゆる「妄言」、問題発言というかたちでとりあげられる。この「妄言」が、実際にどれだけの日本国民の認識を代弁しているのか疑問ではあるが、いずれにせよ、日本国民の過去認識として国外で受け止められることになったことだけはたしかである。
「妄言」の例をあげれば、1994年5月の永野法相の「日本は植民地を解放する、大東亜共栄圏を確立するということをまじめに考えた」、「南京事件というのは、でっち上げだと思う」という発言、8月の桜井環境庁長官の「日本も侵略戦争をしようと思って戦ったのではない。戦争が始まれば異常な精神状態になることはある」との見解、1995年6月には渡辺美智夫元副総理がおこなった「日韓併合条約は円満に結ばれた」などがある。11月には江藤防衛庁長官が、過去の植民地支配を正当化する発言をしたとし、韓国側から激しい抗議を受け、辞任するに至った。
韓国には、こうした日本の政治家によって繰り返される過去認識に関する発言を、そのまま日本国民大半の過去認識を表したものであると解釈し伝えるものがある。永野発言について、『ソウル新聞』1994年5月7日付の「社説」は「日帝の蛮行を蛮行として考えない日本人の多さを示す証拠であるといわざるをえない」としており、また1995年の渡辺発言に関しても6月6日の『朝鮮日報』は、日本人はその多くが、彼の言葉を内心嫌がっていないというところに問題がある」と指摘する。
しかし、はたしてそのような解釈が適当であるかどうかは疑問である。多くの日本国民が、必ずしもこのような「妄言」に不快感を覚えないわけではない。1995年6月6日の『朝日新聞』は「歴史も恥も知らぬ政治家」と題した社説で、「外相経験者の発言としてはお粗末すぎる」などと述べ、渡辺発言を痛烈に批判している。そして「ともすれば植民地支配の正当性主張しがちな日本人の意識も次第に変わり、最近は被害者の気持ちを素直に酌む謙虚さと余裕も生まれつつあった」と、日本国民の過去認識の変化についても触れている。日本国内では「妄言」が発せられるたびに、こうした非難の声が少なからずあがるのであり、韓国国内であたかも「妄言」に賛同する日本国民ばかりが多いという点を強調する報道がなされているのは非常に残念である。
しかし同時に、日本の国民意識のなかに戦争に対する責任認識や罪悪感に欠ける構造的な問題があることもまた否定しえない。先述したような東京裁判と日本国民との関係に、その理由の一端を求めることができるだろう。東京裁判ですでに処罰された罪については、もはや論じる余地がないとする日本国民の過去認識に対する意識構造と、今日の日本の政治家が繰り返しおこなう「妄言」には、その点で共通性が存在する。したがって日本の政治家が度々発するこうした「妄言」の数々は、日本国民の過去に対する意識構造への問題提起として真剣に受け止める必要がある。
「妄言」が発せられるたびに、アジアから浴びせられる激しい非難は、東京裁判をはじめとする当時の日本の戦争責任の追及過程への非難でもあろう。つまり、東京裁判を含む日本の戦争責任追及の過程に、参加することができなかったアジアゆえになされる非難なのである。「東京裁判でのアジア不在が、アジアが日本の戦争責任の問題をあらためて問う歴史的理由である」とする議論は、まさにそうしたアジアゆえの「妄言」非難の本質を指摘しているのではなかろうか。
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実況放送・現状報告のたぐいの話だけでは、人は心を通わせることはできない。「それで、どうした」の問いに対する答が必要である。
その答えは、実況放送・現状報告の延長線上には存在しない。未来構文という次元の違った構文の中にある。
日本語には未来構文がないので、話はあくまでも現在構文の中にとどまる。すると、歌詠みのようなものになる。無為無策でありながら感情に訴えることになる。
空理・空論であるから、何事も起こらない。現実の世界を動かすことはできない。
教育には金がかかる。だが、無知にはもっと金がかかる。
日本人の大きな間違いは、日本にいても英米の高等教育と同等なものが受けられると思っていることである。
日本は、自国語で教育を全うできる ‘たぐいまれな国’ であると思い込んでいるようだ。
英語と日本語は別の言語であり、日本語で英語の考え方を学ぶことはできない。
そのような教育の事情を深く理解している結果かどうかは知らないが、中国の富裕層の85%は、自分たちの子供を海外で教育させたいと思っている。
アメリカの大学の留学生の22%は中国からであるという。次にインド (14%)、韓国、カナダ、台湾 (3%) と続く。日本は、五指にも入らない。
はたして、我が国は教育の満ち足り足りた国なのであろうか。このところ、国力は下降線をたどっている。
我が国は、英国、仏国、ドイツなどと同じような国であると考えられているのであろうか。
中国から米国に留学して成功して有名になった人に宋三姉妹 (three Soong sisters) がある。
特に宋美齢 (Soong May-ling) は英語に堪能で、ヘミングウェイに ’中国の女王’ (empress of China) とまで褒められた。
彼女は、有名な大学 (Wellesley College) を優秀な成績で卒業した。主専攻は英文学、副専攻は哲学であった。