満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

11.25(sat) 三上寛 special live終了。

2023-11-26 | 新規投稿
11.25(sat) 三上寛 special live終了。
"御歳でもあるので今は枯れた感じが持ち味"という前評判とは裏腹に迫力のステージで予想を裏切られる。前に観た20年ほど前と本質に変わりなし。絞り出すような細い声を多用する中、不意に現れるシャウトがインパクトを生む。MCと歌が地続きのように連なり、一つの大きな物語のように展開する。正に折々の歌が織りなす歌劇といった様相の個別の歌の時代背景が映像を伴って蘇るようなデジャブ感に襲われた。生立ち、上京しての仕事、星の流れに、藤圭子、明日のジョー・・三上寛は様々な事象や人物を'状況の歌'の語り部宜しく登場させ、現在という時代に喪われたものを取り返す表現を行う現代のグルに映った。
対バンのふくろうラヂオ(Blacky vo+福田展博g)。洋の東西を問わず、あらゆる歌を独自のアレンジで歌ってしまう。この日もOldiesや民謡、「また逢う日まで」等を福田展博gのグルーヴ感満載のアコギに乗せてBlacky voが熱唱。独特のこぶしを利かせる「ドンパン節」の凄さ、可笑しさ(失礼!)は相変わらず。しかしこの日、彼らが「星の流れに」を歌った時、おっ、三上さんを意識したのかと思った。つまり「星の流れに」のベストバージョンは藤圭子のものである。そして三上さんと藤圭子は「(圭子の)夢は夜開く」の作詞、及び三上さん自身のレパートリーとして同曲を歌う仲としてただならぬ関係に有る。ふくろうラヂオが無作為に選択した「星の流れに」に後で出番がくる三上さんにある想い出をフラッシュバックさせる事になろうとは。
2番目に登場したかもめみずに(悲しみかもめvo.g+水津樹vo.cacio tone)
「フクロウの次はかもめです」と自らナイスな自己紹介の後、ゆったりしながらも緻密なアレンジが施された'ほのぼのナンバー'の数々を披露。ハモリやユニゾンに見られる楽曲の完成度への執着に並々ならぬ手職の気質が伺えます。ニューウェーブのアンチ・エモーショナルな感性でありながら、パンチの効いたフレーズを極め文句の様に反復させるシーンに入魂も持ち得ていると感じ、ハイセンスの中に潜む感情のきめ細かさ、強さに気付かされました。
3番目は櫻井英人(歌,三線)+私(ba,sampler)
櫻井さんは私の学生時代の1年先輩で当時、ニューウェーブ勃興期の1981 年の段階でギター、キーボード、リズムボックスによる宅録で楽曲制作をしており、私は多大な影響を受けた。そして卒業後、仕事で東京へ行った櫻井さんを追うように1年後上京した私は自分が参加したロックバンドに櫻井さんを誘う事が何度かあった。当時、ロックバンドとは必然的にデビューを目指すものだったと思う。無邪気に夢を追う私は幾度も櫻井さんを"未来のない"バンドに引き入れ「このバンド、いけるでしょう!」とその盲目振りを晒していた。そんな時、櫻井さんは常に冷静に私のアホを諭していたと思う。そんな櫻井さんとライブで演奏するのは1986年以来だ。ギターから三線に持ち替え、エイサーをその活動のメインにおく彼の唄の本格派振りを聴き、共演を思いつき、提案した。私は櫻井さんの歌と三線のバッキングにサンプラーでの音響とベースでのリズムとたまにフリーに逸脱するスパイスをいれた。櫻井さんは幾分、緊張したとの事だが、何とか二人でやり切ったという感がある。次もある。続ける意志が湧いてきた。
その間、三上さんは会場後方の受付のイスに深く座り、3組の演奏を辛抱強く聴かれていた。そして満員のお客さんが待ち望む中で歌いだす。前述したようにMCの語りと歌の境界線を無効化するステージ。断片的な小噺が時代を前後に往復し、自己と世間、世界を一本の太い幹で貫いていくようである。そして意外な物語を語りだす。
「最初に出た人が歌った「星の流れに」がわたしを変えたんです」と。
即ちイベント最初に登場したふくろうラヂオが演奏した「星の流れに」が青森から上京した頃の労働者時代の重要なターニングポイントだった告白であったのだ。曰く先輩に連れられて訪れた飲み屋。戦中は春を売る仕事をしていたという店主の歌う「星の流れに」に震撼し、それまでロックンロール少年だった三上寛を言葉と旋律の表現者、弾き語りスタイルへと導いたのだと。Blackyと福田展博が無意識に演奏した「星の流れに」が三上さんにそれを思い出させた。
私は三上さんのその語りを聞いているBlackyを後ろから見ていた。彼は三上さんが語り終えると礼をしていた。
最後に歌ったのは「負ける時もあるだろう」私が最も好きな曲。単純な人生の応援歌ではない。敗者の中の負けの段階を踏みしめ、肯定性へ変換させる平衡感覚の歌。
対バン
ふくろうラヂオ(Blacky vo+福田展博g)
櫻井英人(歌,三線)+宮本 隆(ba,sampler)
かもめみずに(悲しみかもめvo.g+水津樹vo,casiotone)
@ environment 0g [ zero-gauge ]
コメント
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