満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

宮田 徹也氏(日本近代美術思想史研究)より 時弦プロダクション宣伝用オムニバスCDR’jigen production omunibus 2020’に対する評を頂く。

2020-02-22 | 新規投稿
先日、渋谷公園通りクラシックスでのライブの折り、向井千恵氏から紹介された宮田徹也氏から時弦プロダクション宣伝用オムニバスCDR’jigen production omunibus 2020’に対する評を頂き、ここに転載させていただきます。過分なる評価に恐縮する思いです。

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「胎動する現代が鳴り響く」《jigen production omunibus 2020》評
宮田徹也|嵯峨美術大学客員教授

前衛音楽とは何処へ行ってしまったのか分からなくなっていたが、ここあることが判明した!向井千惠久しぶりの東京公演で、向井に共演者の宮本隆を紹介戴いた。宮本から手渡された《jigen production omunibus 2020》を拝聴し、私は驚愕したのであった。ここにこそ過去も未来も日本も外国もない、前衛音楽の「いま!ここ!」が刻まれているのだ。

1970年生まれの私は幼稚園で早速この国とその時代に絶望し、芸術に希望を求めた。流行の曲等当然無視、中学生の頃、1960年代のロック、ジャズ、現代音楽を聴き捲った。その時期、古本屋で見つけた「ロッキンf」1980年7月号を見つけた。北村昌士「アヴァンギャルド」に記載されているアーティストのレコードを求めていったのだ。

ロバート・ワイアット、デレク・ベイリー、ジョン・ケージと探求しても、なかなか自己にしっくりくるものはなかった。気がついたら高校五回留年し、大検をとって入った大学を六年掛かって卒業し、大学院は二年で修了してもその後、助手として残っていて、音楽はロイ・ハーパーくらいしか聴けなくなってしまっていた。

美術史から離れ、日本敗戦後美術の研究を始めると、私は学問を携えたまま、再び現代美術、音楽、演劇、暗黒舞踏、映像、デザイン、建築、書評の世界に返り咲くことができた。そこで出会ったのが、陰猟腐嫌であり、YAS-KAZであり、向井千惠であった。日本のアヴァンギャルドの理解を深めるために、『G-Modarn』なども中古で買って読んだ。

近年、評を掲載していた小さな媒体がなくなり、特に舞踏と音楽から遠ざかってしまっていた。現場の取材がないのであればと、文献からの研究論文を書いていた。それは、インド音楽とロックの優れた研究者である井上貴子との出会いもある。大学院の教員であった大里俊晴も読み直した。私は日本映像学会報187号に「ロックの本質と未来」を寄稿した。

ここで私は音楽の前衛の極地は現代音楽でもジャズでもなくロックであり、ロックのリフは古代バビロニアの馬車どころか、ネアンデルタール人を横目にみたホモ・サピエンスが石器を形成するために石を叩きつける音であると結論した。オリジナルなきシミュラクルの世界こそが前衛であり、前衛であることが森羅万象の本質なのである。

このタイミングで、宮本との出会いである。私は比較考察することが余り好きではないのだが、「ロックの本質と未来」を書くに当たって、剛田武(1962-)『地下音楽への招待』(Loft books|2016年)も取り上げたのだが、竹田賢一や曽我傑が現役であるのに対して、ここではまるで過去の遺物のように感じるのだ。付録のCDが正にそうである。

それに対して《jigen production omunibus 2020》は、聴く度に常に新しい発見があるのだ。これはやはりシーンの違いというよりもむしろ、編集の方針であろう。宮本は前衛ロックが、第一次世界大戦下で見出された「現代芸術」と同様であることを見抜いている。あらゆる権威を拭い去り、人間が「いま、ここに生きていていい」ことを証明する。

《jigen production omunibus 2020》は古くも、懐かしくも、レアでもなく、胎動する現代の鼓動が鳴り響いている。この詳細に耳を傾けるといい。過去に気付かなかったことを発見し、再認識すると、新しい世界が待っているのだ。再び、この現場に立ち会いたくなる。我々はロックと共に自己を取り戻し、未知の世界を切り拓いていくべきなのだ

宮田 徹也
MIYATA Tetsuya

日本近代美術思想史研究

略歴
1970年 横浜に生れる
1992年 大学入学検定試験合格
1994年 和光大学入学
2002年 横浜国立大学大学院教育学研究科芸術系教育専攻修士課程修了
2004年 東京文化財研究所美術部アルバイト
2006年 ZAIMスタッフ
2007年 横浜デザイン学院非常勤講師

主な仕事
修士論文:百済観音再考(明治美術学会誌「近代画説」14に発表要約あり)
論文:「かたちの発生とその評価―美術史的見解から」(「形の科学会誌第21巻第3号/2007年3月)
   「山口長男《軌》のマチエールについて」(「横浜美術館研究紀要」第9号/2008年4月)
雑誌掲載批評:「現代女性作家にとって〈エロス〉と〈レトロ〉とは何か」(「アート・トップ」220号/芸術新聞社/2008年3月)
連載:「ダンスワーク」「音楽舞踊新聞」「テルプシコール通信」「コルプス」「新かながわ新聞」等。
Web:アートアクセス、てんぴょう、ヒグマ春夫、その他多数。
編集委員:「コルプス」
編集:「代々木通信」
編纂:池田龍雄画集参考文献
美術研究の分野から現代美術、ダンス、音楽と範囲を拡張し、雑誌やweb等で評論を発表している。




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