満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

SIX ORGANS OF ADMITTANCE 『RTZ』

2009-04-04 | 新規投稿

家族で白浜に旅行した帰りの列車。私は買ったばかりのアルバムを聴く。
サイケデリックミュージックの最も本質的なアーティストと思われるベンチャスニー=シックスオルガンズアドミッタンスの新作。何と場違いなシチュエーション。しかし妻も子供らも疲れ果てて寝ているので、問題なし。

未発表音源による二枚組だが、最高傑作かと思わせるほどの充実した内容。従来のサイケ度に増して、スローなグルーブが全編に炸裂する動性が素晴らしい。ゆったりとしたうねり。曲が連続し、大きな流れの中に主題が見え隠れするような構築美。民俗音楽のドローン的持続、そのマイナー調で暗い音象に暗黒の闇を視る。しかも美しい。細部に渡る弦の響き、空気を伝わる音の命が静かに消え、また甦る。その反復の中に煌めくような硬質な光が放たれる。それが美しい。この表現世界は深みに滑り落ちるような暗い精神ではなく、照り輝くような光輝な美に浸る耽溺の世界。それは聴く者に高濃度な癒しの時間感覚をもたらせてくれる。私はまどろみ、醒める。

車窓から見る海原に陽光が跳ねる。その光線が一筋のロープのように列車の後を追ってくる。曲がりくねる海岸線に私の体はリズムを刻み、そのテンポに漆黒の音楽が重なり合う。乱反射する光。眩しい。もはやサイケデリアとは闇ではなく、太陽の眩しさの中にこそ、その行き場を得たかのようだ。私はいつしか眠ってしまった。

『school of the flower』(05)以来の傑作。そして臼井弘行とのユニット、AUGUST BORN(05)以来の驚異的音響。『RTZ』で実現した歌と瞑想の交錯。アコースティックによる重奏的構築が電子的快楽を凌駕する瞬間。原始回帰のような大地的、土着的なセレモニーの音楽が発信される。しかもそんな集団熱狂のような催眠的高揚の果てに時折現れる‘情’の世界。ブルースだ。はっと我に還るような覚醒。はかなさ、寂寥感に浸される。ベンチャスニーは個の内奥から外部、他者、そして人間、自然へとその感電の触手を往来する。

3曲目のタイトルナンバー、「you can always see the sun」
図らずも、私はこのアルバムを夜の部屋ではなく、太陽の中で聴いた。月光の下で浴びるルナティックワールド(=狂気)よりも鋭利で研ぎ澄まされた陽光の中にサイケデリックの本質をイメージした。しかもベンチャスニーの歌う「you can always see the sun」を単純な自然崇拝とは言うまい。むしろ張りめぐされた電子網に生きる現代人が閉塞的空間の中に微かに見いだす点のような太陽の光、その物性の発見を祝する個的な儀式だろう。

おっと、私は目覚めたようだ。
暗黒の使者ならぬ、熱沙に誘われた魂があちらへ行ったままのよう。恐ろしいくらいの吸引力を持つ音楽が終わる。列車が着き、私は家族と共に降りた。

2009.4.4

コメント
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