満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

E.D.P.S    『DECEMBER 14th 1983 MAY 27th 1984』

2007-07-29 | 新規投稿


ロックの要素を一言で言い表すとしたらそれは何か。エッジだろうか。ではロックの何が鋭角なのか、そして何が美しいのか。巷にはロックのようでロックでないものがたくさんある。それは主観の問題?いや、そうじゃないと思う。「本質的なものは好き嫌いを超えたところにあった。それは選択を許さぬ情け容赦ないものとして在った。」(間章) これからはロックと非ロックが明確に線引きされるかもしれない。グレイの事をロックとは誰も言わない。まして昨今のリスペクトブームともいうべきアーティスト間のべたべたした感性は何なのだ。ラブピース、ロングホットサマー思想の蔓延?

20年以上、聴き続けているLPがCDになり、買ってしまった。ロックとは?と訊かれたら「はい、これがそうです」と聴かせてあげればいい。そんな演奏である。洋楽の出る幕ではない。これが世界のロック。

フリクションを脱退したツネマツマサトシは1981年にソロアルバムを制作した。多重録音による興味深い音楽であったが、私はこれを聴いたとき、言葉の選び方、発声、創作リズムの独創性等が確実にフリクションを幹とする自己表現サウンドになっており、バンドへの発展を期待した。そのアルバムの中の一曲「E.D.P.S(エディプス)」をグループ名にし、始動したのは83年。フリクションの『SKIN DEEP』と同時期であり、この作品にあまり好感が持てなかった私はE.D.P.Sに過剰に入れ込んだ。残したアルバムは三枚。鮮烈な印象をシーンに残し、確か85年に早々と解散した。

『DECEMBER 14th 1983 MAY 27th 1984』はE.D.P.Sが残したライブアルバム。ロックトリオの極限を実現したような美がある作品だ。演奏は激しく決闘のようである。ツネマツ(g,vo)BOY(ds)バニラ(b)の三人はいつバラバラに弾け飛んでもおかしくないような純粋でリアルなロック演奏をしていた。これ以上無いと言うほどのギリギリ感がある。高く舞い上がるギター音。ソリッドファンキーなベースにヘヴィタイト且つ、揺れるようなグルーブのドラム。自己主張のぶつかり合いが相乗効果を生み、究極の一体感を実現させるかのようだ。

レックの事を「オレよりすごい奴がいる。」というライバル心でフリクションに加入したツネマツマサトシは演奏意識を対人関係における融合でなく、対峙とするタイプだろうか。確かにこんなギターは誰にも弾けるものではない。誰が来ても打ち負かすだろう。86年に渋谷ラママで観たジョンゾーンとのデュオでもツネマツに喧嘩精神を感じた事を覚えている。キムドクス(サムルノリ)が「セッションとは対戦である」と言っていたのもその頃だ。

ロックとは抽象的な観念の鋭角さよりも具体的な演奏行為に於ける必殺の精神、そのスピードだと思われる。そんな切り込みの行為がロックらしさであり、お互いがピストルで心臓を打ち抜くような瞬時に生死が入れ替わるほどの速度。それがロックだろう。曲の速さの事ではない。動性を感じさせる演奏がそこにあるか否かなのだ。E.D.P.Sの圧倒的なワイドレンジと中心に微動だにせず在り続けるエネルギーの磁場。最大風速を受ける快楽。まるで瞬時の夢のようだ。瞬きしたらもう過ぎ去っていた。残った私は元気が出てくる。何かをしたくなってくる。

 

2007.7.27

 

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