the big bang theory: The Dumpling Paradox, part2

2010-11-20 14:07:57 | the big bang theory
ギョーザ矛盾問題を解け! その2

「それに、ペニー、ゲームにはゲームの倫理ってものがあるんだ」
 シェルダンがまだぶつぶつ言いながらリビングへ戻ってきた。
「ペニーはもう帰ったよシェルダン」
「えっ!あっそう。バイバイくらい言ってくれてもいいのに」
 シェルダンが上げた手の下ろし場所に困っていると、ドアを開けてペニーが戻ってきた。
「問題が起きたの」
 するとシェルダンがすかさず言った。
「分かってるよゲームで手が痛いんだろ、それは手根管症候群というやつだよ、当然の報いと言える」
 ペニーはこの人は一体なにを言うのだろうという表情でシェルダンを眺めた。レナードが、何の問題が起きたのさ、と聞くと、ペニーは「うーんとね、なんていうかハワードとクリスティが私の寝室でそういうことしてるみたいなの。。。」と言い、オエッという表情をした。
「本当に?」
「農場育ちの私に言わせれば、もしもセックスの音じゃないとしたらあれはハワードが搾乳器に搾られている音よ」
 シェルダンがその光景を想像して顔をしかめた。
「今日、私ここで寝ていい?」
「もちろん。このカウチで寝ればいいさ。それか僕のベッドでもいいよ。うん僕のベッドでも。新しい枕買ったばかりだし、低アレルギー性のいいやつをさ」
 レナードはそれとなく自分の寝室で寝ることを薦めたがペニーは全く取り合わない。
「あー、うん、このカウチでいいわ私、ありがと」
 そこへシェルダンが口を出した。
「ちょっと待った、レナード、ちょっと話がある」
 シェルダンが台所の方へ歩いていき、レナードはまた始まったという顔でシェルダンの後について行った。
「言わなくても分かるよ、ペニーを泊めることに反対なんだろ」
「というか誰も泊めない主義なんだよ。正直なところ、もしも僕がここの家賃を一人で払えるなら君にも出ていってもらってる」
「それはずいぶん素敵な友情だこと。他には?」
「緊急避難セットだよ。うちには2日間分の緊急避難セット2人分しかない」
「だから?」
「だから、もしも地震が来て僕たち3人がここに閉じ込められたら翌日の午後には食料がなくなる」
「まさか地震が来たら僕たちが共食いする羽目になるからペニーを泊めたくないって言うわけ?」
「極限状態では何が起きるかわからない」
 もういいという風にレナードは頭を振ってペニーの元へ戻った。
「ペニー、寝てる間に僕たちの肉を噛みちぎらないと約束してくれるなら泊まっていいよ。毛布と枕を持ってきてあげる」
「オッケー、わかった。どうやら僕の意見は完全に無視されているみたいだね。明日の朝のスケジュールについて話させてもらおう。僕はトイレやお風呂を7時から7時20分まで使うから、それ以外の時間に顔洗ったりトイレしたりするようにペニーは時間調整して」
「トイレの時間なんてどうやって調整するのよ」
「11時以降は何も飲まないことをお勧めする」
 とシェルダンが言い放ったとき、レナードが、枕と毛布を持って戻ってきてカウチの上に置いた。
「はい、ペニー、どうぞ」
「ありがとう」
 枕と毛布を整えるペニーを見てシェルダンが「ククッ、間違ってるなあ」と言った。
「何が、間違いなわけ」
「枕の位置さ。頭は反対側にしなきゃ」
「なんでよ」
「どこの文化圏においても普遍的なことだけど、寝るときは足をドアの方に向けるんだよ。襲撃者から身を守るため人々は古くからそうしてきた」
「あっそ、私襲われてもいいから」
「へー、そうかい」
「他に何か私が知っとくべきことある?」
「あるよ。もしも間違って僕の歯ブラシでも使おうものなら、そしたら僕は窓から飛び降りて死ぬから。そしてどうかお葬式には来ないで下さい。おやすみ」
 シェルダンは窓を指さしてそれだけ言うと寝室へ歩き去った。
「ごめんね、シェルダンがあんな感じで」
 レナードが代わりに謝った。
「いいわよ。全然」
「一応言っておくと、シェルダンの歯ブラシは強化ガラスのケースに入れて紫外線の殺菌ランプの下に置いてある赤いやつだから」
「らしいわね」
「うん、じゃあ、おやすみ。ぐっすり寝て」
「ありがとう」
 でもレナードはペニーのもとをなかなか離れずにどうでもいいようなことを言い出した。
「ぐっすり、って考えてみたら変な表現だよねー。ねっ。なんでぐっすりっていうんだろう。昔の人は。。。」
 ペニーは腕を組んでそれを冷たい目でじっと見てレナードを追い払った。
「おやすみ」
 ペニーはリビングの電気を消してカウチの毛布に潜り込んだ。

 シェルダンが「無視されている」と言っていたけれど、本当に無視されていたのはシェルダンではなくラジェシュだった。シェルダンとレナードが寝室に引き上げ、ペニーがリビングの明かりを消したとき、ラジェシュはキッチンでサンドイッチを食べていた。ペニーがいたから照れ屋の彼は話すことができず、黙ってサンドイッチを食べていたのだ。仕方がないのでラジェシュはこっそりと部屋を出ていくことにした。サンドイッチを軽く振ってみんなにバイバイをして、ソロリと部屋を開けて外に出た。

「えっ?誰」ラジェシュがドアを閉める小さな音でペニーは目を覚まし、不安そうに周囲を見渡した。そしてシェルダンの言っていた”文化的慣習”を思い出して枕の方向を反対に変えた。

 翌朝、一番に起きてきたのはシェルダンだ。シェルダンはシリアルの入ったボウルを持って、いつものカウチに座ろうとした。でもそこにはまだペニーがぐっすりと眠りこけていて、シェルダンは座ることができない。他のイスに座ればいいんだけど、シェルダンはいつも同じ場所じゃないと気が済まないのでペニーの顔の上に座ろうかとか色々まごまごしているとレナードが起きてきた。
「何やってるんだよ!?シェルダン」
 シェルダンはレナードの所へ駆け寄って言った。
「この部屋に住み出してから土曜日の朝はいつも6時15分に起きてボウルにシリアルを入れてそこにカップ4分の1の脂肪分2パーセントの牛乳を入れてカウチのここの部分に座ってテレビのBBCアメリカを点けて”ドクター・フー”を見てるんだ」
「でも今日はペニーがまだ寝てるじゃん」
 レナードが怪訝な表情で諭すと、シェルダンは全く同じことをまた言い始めた。
「この部屋に住み出してから土曜日の朝はいつも6時15分に起きてボウルにシリアルを入れてそこにカップ4分の1の。。。」
「分かってる分かってる」
 レナードは遮って言った。
「自分の寝室にもテレビあるんだから、ベッドの中でシリアル食べながらテレビ見ればいいじゃん今日は」
「でも僕は病人でも母の日のお母さんでもないから、そういうことはしない」

 2人がそういう会話をしているとペニーが目を覚まして寝ぼけた声で言った。
「うーん、おはよー、今何時ぃー」
「6時半になるところ」レナードが答える。
「えっ!ほんとに!私丸一日寝てたの?」
「いや、そうじゃなくて朝の6時半だよ」
「なによ、あなた達こんな朝っぱらから」
 ペニーは顔をしかめてまた毛布に潜った。
「こんなことをしている間に僕のシリアルは分子の結合が緩んでしまった。もうここにあるのはシリアルじゃなくて細切れでベトベトの小麦ペーストだよ」
 シェルダンがシリアルを捨てようとするところにドアを開けて向かいの部屋、つまりペニーの部屋から、クリスティと実りある一夜をすごしてハイテンションのハワードがやって来た。
「オッハー! 非モテの諸君!」
 うるさいハワードの挨拶を聞いてペニーが再び毛布から顔を出して起きあがった。
「あんた達なんでそんなに寝るのが嫌いなのよ、もー。っていうか、ハワード、あなたが着てるのって、ひょっとして私のローブじゃないの?」
「うん、そう、勝手に使ってごめんね。ちゃんと洗濯して返すよ」
「もう要らないからとっといて」と、ペニーは頭を抱えた。
「それでクリスティは?」
「今シャワー浴びてるよ。あっ、そうそう。そういえばさ、あの体洗うスポンジってどこで買ったの? あれいいね。うちのじゃ届かないところまでちゃんと洗えたよ」
 ペニーはもはや呆然とした表情だった。
「あなた、私のスポンジまで使ったの。。。」
「僕っていうか、正確に言うと、僕たち、だけどね」
 ハワードは嬉しそうにフフフと笑った。
「スポンジも上げるから、もう要らないから、とっといて。。。」
「うん。それから、君のクマのぬいぐるみコレクションも見ちゃったよ、クククっ」
 そして廊下からクリスティの声が聞こえてきた。
「ハワード、どこ?」
「ここ、ここ、こっちだよ、僕のかわいこちゃん」
 クリスティがドアを開けてこっちの部屋にやって来て「いたいた、私の小さいエンジンちゃん」と言い。ハワードがエンジンの物真似をして音を立て2人は抱き合ってキスをした。それから彼女はみんなに挨拶をした。
「こんにちは、私クリスティ」
「こんにちは、僕はシェルダン」
「僕はレナード」
「2人のことはハワードに聞いてるわ。いつもハワードの後をくっついて歩いてるって」
 レナードとシェルダンは複雑な表情をしたが反論するのはやめておいた。
「それで、クリスティ、あなたどういう予定になってるのよ」
 ペニーが尋ねると、クリスティはハワードがビバリーヒルズに買い物に連れていってくれることになっていると答えた。
「うん、そうじゃなくて、泊まるところの話なんだけど、正直なところ、うちに泊めてあげるのってちょっときついのよね」
「それについては何の問題もないよ、クリスティはうちに泊まればいいんだから」
 ハワードが言った。
「でもハワード、君はお母さんと住んでるじゃないか」レナードが水を差す。
「なに言ってるんだよ、お母さんなんかと住んでるわけが、あるんだよなー、それが、うんお母さんと住んでるんだ」
「よし、それで決まり」と少しイライラしたシェルダンが言った。「クリスティはハワードのところに泊まる。そうすればペニーは自分の部屋に戻れるし、僕はカウチに座ってドクター・フーの残り24分を見れる」
「シェルダン、そんな勝手にさっさと全部決められないよ」
「もう話はオシマイ、みんな出てって、僕はテレビを見る」
 シェルダンの解散宣言によってみんなはリビングを出ることになった。
「お母さんいるけど、ウォロウィッツ家に来てくれるよね」
 ハワードがクリスティに聞くと、クリスティは「ウォロウィッツ家って何、メキシコ料理やか何か?」と聞き返した。
「そうか、言ってなかった。僕の名字はウォロウィッツって言うんだよ。僕のうちに泊まることにするよね?」
「わー、そうなんだ、ウォロウィッツって名字なんだ、わお、じゃあユダヤ人でしょ。私ユダヤ人の男は初めてよ、みんな!」
 クリスティは嬉しそうにそう言って、身支度をしにペニーの部屋へ戻って行った。
「クリスティってかわいいだろ。クローン人間の技術が確立されていたら12体はクローン作るね」
「あのさ、ハワード、君さ、あの子にいいように使われてるの分かってる? これから買い物で色々買わされるんだろ、どうせ」
 レナードがちょっと気まずそうに言った。
「そんなの構うもんか。昨日彼女が服を脱いだの見て嬉しくて涙が出たくらいだぜ」
 それでも尚うれしそうなハワードを見てペニーが言った。
「ハワード、聞いて。私はクリスティのこと昔からよく知ってるの。あの子は物を買ってくれる男となら誰とでも、その人が物を買ってくれる限りセックスする女なのよ」
「本当に?」
「ええ、本当に」
「やったー!」
「えっ・・・・」
「ユダヤ人にはこういう時の為に蓄えがあるんだ、お金持ちでごめんよ」
(その3へ)

the big bang theory; the dumpling paradox, part 1.

2010-11-18 14:53:43 | the big bang theory
 僕の大好きな海外ドラマ"The Big Bang Theory"をいくつか書き起こしてみることにしました。ただ台詞を書き起こしただけではシナリオみたいで読み難いし、かと言ってノベライズすると一から小説を書くのと同じくらいの労力がいるので、シナリオに少し肉付けした程度になっています。
 それなりに忠実に訳したつもりですが、僕はそれほど英語が堪能ではないので、分からない所、あるいは文化的に日本人には理解できないところは端折ったり好きなように書き換えたりしています。
 最初の方の回は好きではないので飛ばしました。

・主要な登場人物(多分みんな二十代半ばです)

 レナード : 実験物理学者。オタクだけど仲間うちでは一番まとも。シェルダンと二人で暮らしている。向かいに引っ越してきたペニーに恋心を抱いている。

 シェルダン : 理論物理学者。IQ187の天才で、11歳で大学に入学している。オタク。屁理屈ばかりこねる。

 ペニー : レナード達の部屋の向かいに引っ越してきた今風の魅力的な女の子。

 ハワード : 工学者。オタク。ユダヤ人。数ヶ国語を操る、と少なくとも自分では思っている。無類の女好き。母親と二人で暮らしている。

 ラジェシュ : 理論物理学者。インド人。オタク。女の子が苦手で話すことができない。ペニーがいるときに言いたいことがあると誰かの耳元で囁いて代わりに言ってもらう。

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「ギョーザ矛盾問題を解け!!!(その1)」

「この新しいケータイすごいんだぜ」
 ハワードはポケットから取り出した携帯電話に向かって言った。
「レナード・ホフステダー、に電話を掛ける」
 すると携帯電話は例のゆっくりとした合成音声で返事をした。
「ヘレン・ボクスレイトナー、に電話、でよろしいでしょうか?」
「違う。レナード・ホフステダー」
「テンプル・ベス・セダー、に電話、でよろしいでしょうか?」
「違うってば。もー」
 見かねてレナードが、ちょっと僕にやらしてみてよ、とハワードの携帯を手に取り、そしてふざけて「オバカ・バカバーカ。ふふっ」と言った。
「ラジェシュ・クータパリ、に電話、ですね」
 隣にいたラジェシュが、えっ、という表情を浮かべた瞬間、ラジェシュの携帯から呼び出し音が鳴った。
「へー、これは優れた技術だ。全くすごい。バカって言ったらインド人の僕に掛かるわけだね。この携帯作ってる会社は人種差別するってわけだ」

「あのさ、君たちはその携帯電話で遊ぶためにここへ来たわけ? テレビゲームしに来たんでしょ。早く”ヘイロー”やろうよ。8時からしようって言ってたのに、もう8時6分じゃないか」
 ソファーに座ったシェルダンはそう言って手に持ったゲームのコントローラーをヒラヒラさせた。
「オッケー、ごめんごめん、やろうやろう」
 レナードがシェルダンに返事をして、全員がソファーに座りコントローラーを手に取る。”ヘイロー”というのは4人が今夢中になっているバトル・シミュレーションゲームで、今は少し携帯で遊んでいたけれど、もちろんみんなこのゲームを早くやりたくてうずうずしていた。
「ゲームを始める前に、この6分のロスを、ゲームの時間、トイレ休憩、ピザ休憩、のどこから捻出するか決めないと」
 シェルダンがまた細かいことを言う。
「ゲーム、トイレ、ピザ、からそれぞれ2分2分2分で」
 ラジェシュがさらりと素早く決めて、もしもピザがアンチョビのピザだったら、とハワードがなにやら言いかけた時、誰かがドアをノックした。すでに時間が6分遅れていてイライラしているシェルダンは「まったく誰だよ、こんな時に」と毒づいてドアの方を見る。
 レナードがドアを開けると、入ってきたのはやはり向かいの部屋のペニーだった。
「ちょっと困ったことになってて。しばらくこの部屋に匿ってくれない?」
「もちろんいいよ。でもどうしたのさ?」
 レナードが聞いた。
「ネブラスカにいたときの知ってる女の子が、クリスティって名前なんだけど、電話してきたの。それで”カリフォルニアはどう?”って聞くから、”すごくいいわよー”って返事したわけ。分かるでしょ、元いた所から別の場所に移ったら、新しい場所が本当に素敵かどうかに関係なくみんなそう言うわよね。そしたら彼女うちに泊めてほしいって」

 またまたソファーからシェルダンが「もう8時8分だけど」とコントローラーをヒラヒラさせて、レナードはうるさいと軽くあしらった。

「そしてまあ今日うちに来たわけ。もう喋りに喋るわけよ。オマハで彼女がエッチした男たちについて。オマハにいる男全員と寝たんじゃないかしらってくらい。それで見たこともないようなヤらしい下着の数々を洗面台で洗ってるの」

「下着1枚づつ洗ってるの、それとも一気に全部洗ってるの、どっち!? 一気に全部だったらまるでエロスのブイヤベースだ」
 ハワードがソファーから身を乗り出して聞いたのでペニーは冷たい視線を投げかけた。
「この人は本当に頭がどうかしてるわね」
 レナードは「よく知ってるよ」と答えてハワードをたしなめ、それからペニーに言った。
「でもさ、そのクリスティって子のことが嫌いなら泊めなけりゃいいんじゃないの?」
「そういうわけにもいかないわよ。彼女は昔私の兄と付き合ってて、それと同時に私の従兄弟と結婚してたんだから、家族みたいなものなの」

 そこへまたシェルダンがコントローラーを持ったまま「うるさく言うようで悪いけれど、ヘイローしないの? オマハの娼婦の話の方が楽しいってわけだね」と言った。
「別に娼婦ってわけではないと思うよ」
 レナードはそう言ったけれど、ペニーは娼婦という表現に賛成した。
「いいえ、彼女はまさに娼婦よ、いつも男をとっかえひっかえしてるの、昔一度こんなこともあったのよ、っていうかハワードどこ行ったの」
 振り返るとソファーにハワードの姿はなく、代わりに開いたドアの向こう側から声が聞こえてきた。
「ボンジュール、マドモアゼル。この辺りに引っ越してきたばかりらしいですね」

「これはまたややこしいことになった」とシェルダンが言った。

 ペニー、レナード、シェルダン、ラジェシュが廊下に出てみると、すでにハワードはペニーの部屋の中だった。ドアは閉まっていて内側からはスローな音楽が聞こえている。
「信じられない。クリスティ、私の部屋に勝手にハワードを入れた。ほんとに信じらんない」
「僕はわざわざお金を払って星占いしてもらう人々がいることの方が信じられないけれどね。そしてもっと信じられないのはもう8時13分なのにまだ僕たちがヘイローを始めていないってことだ」
 シェルダンは腕時計を見てイライラしながら言った。
「わかったわかった、じゃあもうハワードとクリスティは放っておいてヘイロー始めよう」レナードは部屋の中に戻りながら言った。「でもハワードがいなくなっちゃったから2対2の対戦はできないね。ハワードが戻ってくるまでは1対1でやろう」
「1対1なんてイヤだよ。2対2のチームプレイがしたいんだ。1対1なんて。1対1なんて」シェルダンは、1対1なんて、とどうしてか2回つぶやいた。
「しかたないだろ3人しかいないんだから。じゃあラジェシュを半分にぶった切って2人にするか?」
「ほー、僕を半分にぶった切るだって、いいさ、やれよ。哀れな外国人にそんなことしたらインドから10億人が押し寄せてお前なんてボコボコにされるから」
「あのさ、一人足りないんだったら私がやってあげてもいいわよ」
 ペニーが見かねて申し出てレナードが「本当に?それはいいアイデアだ」と言ったが、またしてもシェルダンはノーと言った。
「車輪の発明はいいアイデアだった。相対性理論もいいアイデアだった。でもこれは違う。ちょっとした思いつきっていうか、むしろくだらないアイデアだよ」
「なんでよ。私がやってあげるって言ってるのに」
「なんでよ、だって。おバカなペニーちゃんペニーちゃんペニーちゃん」
「なになになに、なんだってのよ」
「これはとても複雑で難しいゲームで高い学習能力が要求される。多種多様な武器、乗り物、作戦、そういうのを分かってないとできないし、それだけじゃなくて入り組んだ物語が背景にあるんだよ。君が急にやってできるわけ・・・」
 ペニーがシェルダンを無視してコントローラーを掴み適当にボタンを押してみると画面の中で弾丸が発射されて誰かの頭が吹き飛んだ。
「わー、面白いじゃないの! 吹き飛んだの誰の頭?」
「僕のだ」
 シェルダンがペニーをにらみ付けた。
「オッケー、だいたい分かったわ。始めましょうよ」
 レナードが「こうすれば2対2でできるんだからさ」とシェルダンを促した。
「けど、誰が初心者のヘタっぴペニーと組むんだよ」
 シェルダンは喋り続け、ペニーは勝手にゲームをはじめた。「ははー、おもしろい、またシェルダンの頭吹っ飛ばしちゃった」
「ちょっと待てペニー、そういうのはスポーツマンシップに反するんだぞ。反撃するチャンスの全くない相手に攻撃をするなんて一体君は・・・クソッ」
 ペニーはそんなのお構いなしに攻撃を続け、シェルダンは慌ててコントローラーを握りゲームに参加した。
 
「これでも食らえ」とか「死んでしまえ」とか「どうだ」とか叫び声と笑い声を上げながらゲームは長時間続き、そしてレナードとペニーのチームはシェルダンとラジェシュのチームをこてんぱんにやっつけた。
「こんなのインチキだ」負けたシェルダンは立ち上がって言った。「どうやってるのか知らないけれど彼女はインチキしてるに違いない。魅力的でモテモテでゲームまで上手いなんて人間はこの世界にいないんだ」
 立ち去ろうとするシェルダンに向かってペニーが言った。
「シェルダンちょっと待って、忘れ物」
「なに?」
「プラズマ・グレネード砲よ!」
 ペニーは画面の中にまだ残っているシェルダンのキャラクターを木っ端微塵に破壊して大笑いした。「今に見てろ」シェルダンは捨て台詞を残して彼の寝室へと引き上げていった。
「なんて不機嫌な負けっぷりかしら、たかだかゲームで」
「公平の為に言っておくと、彼は勝ったときも全然喜ばないよ」とレナードは言って笑った。
「あー、面白かった。じゃあ、私そろそろ部屋に戻るわね」
 立ち上がりドアから出て行くペニーをレナードは見送る。
「君はヘイロー上手だし、今日は楽しんでくれたみたいだし、僕らいいチームだったし、これからも時々さ、一緒にヘイローしないかな?良かったら」
「あー、うん、それより私はリアルな生活を楽しむことにするわ、ごめんなさい。ラジェシュ、いつも通りあなたとの会話楽しかったわ。おやすみなさい」
 ペニーが部屋を出て行ってドアを閉めると、彼女は何を言ってるんだ、僕は彼女と一言も喋ってないのに、とラジェシュが肩を竦めた。
「彼女は暗号製造機みたいな謎の塊なんだよ。ラジェシュ」
(その2へ続く)