思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

井沢元彦『猿丸幻視行』オモシロ歴史ミステリー

2019-09-05 15:03:34 | 日記
『逆説の日本史』で有名(?)な怨霊オジサン井沢元彦の
初期長編小説(デビュー作)です。
デビュー作にして井沢節はすでに全開でした。
私はキライじゃないですけどね。
(政治的な思想の話は横に置いておきます)

第26回江戸川乱歩賞(1980)受賞作。

現代(とはいえ1980年である)の大学院生が
開発中の新薬の効果で意識だけタイムスリップ!
1909年、折口信夫の意識内に居候する、というトンデモ設定である。
さっそく心配な気もちにしかならないスタートです。

が、この小説の本質は、そこじゃないので。
早々に新薬のことは忘れましょう。

この小説の魅力は、「柿本人麻呂=猿丸太夫」説と
いろは歌その他の歌に込められた謎のおもしろさです。
背景にある歴史ミステリーのワクワク感です。
新薬云々はどうでも良いし、なんなら主人公はいらないんじゃないか
(タイムスリップ設定いるか?)という気もちになります。

以下、メモですが、

・梅原猛『水底の歌 –柿本人麿論』(大佛次郎賞作)に拠った
 柿本人麻呂=柿本さる=猿丸太夫とする論、おもしろいです。
 語り口のテンションがすでに『逆説の日本史』の井沢節です。
・47文字を一度ずつ使う『いろは歌』と「沓」の「とかなくてしす」
 勉強になった!
 『仮名手本忠臣蔵』の意味も、なるほど~と。為になる。
・百人一首『奥山に もみぢ踏み分け 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋は悲しき』
 隠し文。こっちはピンとこなかったけど、おもしろかった。

いろいろと勉強になります…。おもしろいな。

ちょい役で金田一京助や南方熊楠など実在の人物も出ています。
ちなみに折口の下宿隣室に住む友人・永瀬七三郎も
実在の人物ですが、詳細は謎。
この小説では何かと飯を薦めてくるだけです。
「しちさぶろう」で良いのかな。変わった名前ですね。
(折口のエッセイに登場しますが、ルビは無い)

脱線するけど、「七五三郎」なら「しめお」ですよね。
こういう読み方は、おもしろくて好きです。
「信夫」を「しのぶ」と読むのも良い感じです。

それはさておき、この本はタイトルで損してませんかね。
私は、山田風太郎忍法帖みたいな徹頭徹尾トンデモ系かと思って
ながらくスルーしてました。

小説としては、眉唾な新薬設定とか、女性の扱いがぞんざいとか、
なんだかなあと思う部分は多いけれど、
それらを差っ引いても学びがある、オモシロ歴史ミステリーです。
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【読書メモ】2011年4月 ④

2019-09-04 15:26:36 | 【読書メモ】2011年
<読書メモ 2011年4月 ④>
カッコ内は、2019年現在の補足コメントです。


『ロシア紅茶の謎』有栖川有栖
(メモなし。
 こちらは<作家アリスシリーズ>の中でも
 <国名シリーズ>と呼ばれている短編集です。
 国名シリーズの第一作でもあり、入門篇として丁度いいと思います。
 ロジック重視というか、人物の心理描写があっさりしてるというか、
 (新本格ってそういう作風が多いのかな?)
 そんな動機で殺人するんかい…?!と思うところが、
 ちょこちょこ、ありますが笑、まあ、こういう作風ってことで。
 若いころはいちいち憤ってましたが、近ごろは
 そういうもんか、ということで淡々と読むようになりました)


『桃』久世光彦
(メモなし。
 「桃」がキーワードの、淫靡な雰囲気を持つ8つの短編集。
 官能的とか、耽美とか、言われるようですが、
 個人的には良いと思わなかったな)


『1Q84 book1』村上春樹
すごく良いと思う。
ハルキが好きだからかもしれないけど。
ここしばらくの作品の中では一番好きだ。
主人公のふたりには、あまり酷い目には合わないでほしくてハラハラする。

(補足すること…ないなあ…。
 好きな人は好きだろうし、嫌いな人は何を言っても嫌いだろうからな)


『エハイク紀行』吉田戦車
評者って誰なんだろう。どうも戦車本人ではなさそう。

ほぼ日での連載終了記念対談で本上まなみさんに突っこまれて
 明かされていました。
 吉田戦車曰く「僕のなかにいるもうひとりの人」だそうです。
 最近の氏の漫画エッセー『出かけ親』も
 「心の猫」のおかげでおもしろくなったと言及しているので
 ツッコミって大事なんだなあと思います)


『クッキング・ママの名推理』ダイアン・デヴィッドソン
つまらなくて途中で放棄。

(これ、私が思う“THEコージー・ミステリー”ですね。
 おばちゃまが料理つくりながらぺちゃくちゃお小言を並べて
 ついでにレシピもついてくる感じ。苦手だわ~。
 と言いつつ<クッキング・ママ>シリーズは
 16作も刊行されているようです。すごいな~)


『気になる部分』岸本佐知子
(メモなし。
 翻訳者・岸本佐知子の第一エッセイ集。
 『変愛小説集』もそうですが、本職で訳しているのが
 ミルハウザーやアーヴィングなど、なんつうか、
 難解でストイックでちょっとシュールなアメリカ文学が多いので
 ご本人も小難しい哲学者タイプの人なのかなあ、とか思ってましたが、
 いや、ある種、小難しい人だとは思いますが、
 間違いなくヘンテコな人です。
 短い妄想エッセイですが、電車内では読まない方がいい。
 確実に吹き出します。
 さらに磨きがかかった第二エッセイ集『ねにもつタイプ』
 講談社エッセイ賞を受賞してます)


『一九三四年冬―乱歩』久世光彦
(メモなし。
 スランプ中の乱歩がヘンテコな目に遭ったり妄想したり
 眩惑的な小説を書いたりするお話し。
 第7回山本周五郎賞(1994)。
 幻惑的とか、耽美とか、言われているようですが、
 個人的には良いと思わなかったな。
 というわけで、2冊読んで久世光彦は合わないと悟った)

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西川美和『永い言い訳』全ページすごい!

2019-09-02 11:33:25 | 日記
西川美和『永い言い訳』。
全ページ、なんかすごい。

作者は、監督業が本職の方ですね。
『ゆれる』の脚本・監督を手掛けた人。
映画はあまり観ない私ですが、こちらは公開当時に観て、
けっこう衝撃を受けました。すごいなあと。
ノベライズもご自分でされているみたいですね。

で。『永い言い訳』です。
こっちは『ゆれる』とは順番が逆のようで、
小説を書いてから、ご自身で映画化されているとのこと。

映画は観てないのでそちらはわからないんですが
小説は、章ごとに話者が変わります。
色んな人の一人称だったり、三人称だったり。

主人公は社会性がイマイチな小説家のサチオくんで、
彼の妻と、妻の友人ユキちゃんとを巻き込んだ
深夜バスの事故が核にあって。
様々な立場の人が(遺族だったり、小説家の編集だったり)
それぞれの立場と視点で、事故や、世の中や、
主人公でもある小説家の先生の様子を描いています。

どの見方にもうなずけるものがあったり、ハッとさせられたりする。
それぞれの所感の細かさがすごい。
西川美和すごい。

個人的には、小説家のタレント業マネージャーをやってる男性の
育児エピソード(育児で追い詰められた妻が子どもの多動症(?)を疑って
病院に行ったら、お医者さんに「おかしいのは奥さん、あなたですよ」
って言われちゃってなんでやねん!!って思う的な)が生々しくて、
妙に感心してしまった。
すごくわかる。
おかしいのは私かよ!!なんでやねん!って思うよ。
西川美和すごい。こわい。

ストーリーを通じて、小説家の幸夫くんも、寡夫の陽一くんも、
それぞれ妻の不在に向き合って生きるしかないっていう結論は
まあ、わかりきっていたのだけど。
そこに至るまでの人間ドラマや、人間的思考が、なんかすごい。
全ページすごいんですよ。

ただ、やっぱり年齢的にしょうがないのかもしれないけど、
ユキちゃんの遺児である真平と灯は
わかりやすい「生きる意味」への回答を得ることはできなくて
(小説は、事故からたった半年程度までしか描かれてないからね)、
日常への救いも与えられなくて(成長するしかない)、
それはしょうがないのかもしれないけど、すこし悲しい。

わかりやすい救済(鏑木先生と電撃婚とか)なんぞは
小説として陳腐だし求めていないんですが、
真平と灯に何らかの幸せの記号を与えたいと思うのは、
いち読者のワガママでしかないのだけれど。
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