田牧大和
2013年6月発行
永代橋の崩落を予見して、長屋の店子の命を救った不思議な三毛猫・サバに因んでいつしか鯖猫長屋と呼ばれるようになった宮永町の割長屋に、次々と起こる不思議な出来事に巻き込まれていく、飼い主・青井亭拾楽。
だが、当の青井亭拾楽にも曰くがあり…。
其の一 猫描(ねこか)き拾楽(しゅうらく)
其の二 開運うちわ
其の三 いたずら幽霊
其の四 猫を欲しがる客
其の五 アジの人探し
其の六 俄(にわ)か差配
其の七 その男の正体 計7編の短編連作
其の一 猫描(ねこか)き拾楽(しゅうらく)
青井亭拾楽の斜め向いに、長屋には似つかわしくない育ちの良さそうなお智が越して来た。その手伝いの男・三次は、お智を「お嬢様」と呼ぶ。
そのお智からの依頼で拾楽は、お智の絵姿を描く事を承諾するのだった。
其の二 開運うちわ
白紙の団扇を買い込み、拾楽に絵を描かせ、開運団扇として一儲けを狙った貫八だったが、その口上と折り合わない結果に、逆に脅され、示談金の為に、妹・おはまを遊女に売れと脅される。
其の三 いたずら幽霊
北海奇譚などで一時代を築いた、読本作家・長谷川豊山が鯖猫長屋へ家移りして来た。と同時にサバの姿が見当たらない。
蓑吉の様子がおかしいと気付いた拾楽が問い質すと、サバは豊山の部屋に監禁されていた。
夜毎に起きる怪奇現象に悩み、苦しむ豊山だったが、サバが居ると不思議とそれが収まるのだと言う。
其の四 猫を欲しがる客
お店者が、奉公先の嫡男が「どうしても三毛の雄が欲しいと言っている」と、サバを譲って欲しいと拾楽を音訪った。
首を縦に振らない拾楽に、男は金子を詰み挙げ句は、脅しに掛る。
其の五 アジの人探し
胡麻塩柄の大きな犬が拾楽の元へ迷い込んで来た。見掛けによらず大人しい犬で、サバの弟分となっていったのでサバの子分ならアジと命名。
そのアジ、いつしか浪人者・木島主水介の片腕となる働き振りを大道芸で示すも、ある日、ひとりの浪人者に噛み付いたのだった。
其の六 俄(にわ)か差配
差配の磯兵衛が風邪に倒れ、急遽差配代理を務める羽目に陥った拾楽。長屋の修繕やら花見の手配やらで大わらわの中、店子たちが留守の間に、お智の部屋が荒される事件が起きた。
また、磯兵衛の快気祝いの最中、おはまの行方が知れなくなる。
其の七 その男の正体
おはまの行方を探す拾楽。拾楽の素性に勘付いた北町奉行所定町廻り同心・掛井十四郎。
一方、三次が何者かに殺められ、その遺骸を確認したお智は、人違いだと証言する。
そして拾楽が追い詰めた犯人は、意外な人物であり、その目的は、以吉の命を奪ってまで手に入れたい物であったのだが…。
物語全編に流れる大きな筋は、父母の仇を拾楽と見据えたお智。その為か拾楽に仕掛ける罠。
そして、次第に明らかになる真実といったところなのだが、お智の存在を神秘的にする為か、佐助という左官職人との件や、三次がほかの事件の裏で糸を惹いていたりと、必然性を感じないエピソードがあり、それが残念に思えた。
三次が偽物だったといった件も、合点がいかないものがある。
だが、拾楽の弟分である以吉の死、それに巻き込まれたお智の両親。その真実を探るといった単純さに置き換えれば、それを本筋に据えながら、幾多の不可思議な事件が起き、拾楽の英知で解決していく、二部構造の展開は素晴らしい着眼点だろう。
落ちのお宝も当方の乏しい理解力では、納得出来なかった。
特に表題の「ふしぎ草紙」を押し出した「いたずら幽霊」は大変に面白い作品であり、落ちもまた素晴らしかった。
収録作品中、最も心をうたれたのが、「アジの人探し」である。忠犬・アジが可哀想な目に遭った時には、思わず鼻の奥がつんと熱くなり、終末には目頭が潤んだ。
サバの可愛らしさや、拾楽と掛井十四郎との関係性など、キャラも楽しめる。
主要登場人物
☆鯖猫長屋の店子
青井亭拾楽...絵師、義賊・黒ひょっとこ
サバ(三毛猫の雄)...拾楽の愛猫
以吉...盗人、拾楽の朋友
磯兵衛...鯖猫長屋の差配
おてる...与六の女房
与六...大工 蓑吉...野菜の振売り
お智...藤沢の旅籠の娘
三次...お智の請人
貫八...魚の棒振り
おはま...貫八の妹、通いの女中
利助...居酒店の雇われ料理人
おきね...利助の女房、居酒店の女中
清吉...小間物の行商
おみつ...清吉の女房
木島主水介...浪人、大道芸人
長谷川豊山...読本作家
掛井十四郎...北町奉行所定町廻り同心
九平次...神田下白壁町の左官の親方
佐助...左官職人、九平次の弟子
おてい...九平次の娘
徳右衛門...京橋小間物問屋の主
白糸...吉原の花魁
山吹...吉原の新造
加藤木...浪人
神谷修五郎...御家人・次男坊
書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村

永代橋の崩落を予見して、長屋の店子の命を救った不思議な三毛猫・サバに因んでいつしか鯖猫長屋と呼ばれるようになった宮永町の割長屋に、次々と起こる不思議な出来事に巻き込まれていく、飼い主・青井亭拾楽。
だが、当の青井亭拾楽にも曰くがあり…。
其の一 猫描(ねこか)き拾楽(しゅうらく)
其の二 開運うちわ
其の三 いたずら幽霊
其の四 猫を欲しがる客
其の五 アジの人探し
其の六 俄(にわ)か差配
其の七 その男の正体 計7編の短編連作
其の一 猫描(ねこか)き拾楽(しゅうらく)
青井亭拾楽の斜め向いに、長屋には似つかわしくない育ちの良さそうなお智が越して来た。その手伝いの男・三次は、お智を「お嬢様」と呼ぶ。
そのお智からの依頼で拾楽は、お智の絵姿を描く事を承諾するのだった。
其の二 開運うちわ
白紙の団扇を買い込み、拾楽に絵を描かせ、開運団扇として一儲けを狙った貫八だったが、その口上と折り合わない結果に、逆に脅され、示談金の為に、妹・おはまを遊女に売れと脅される。
其の三 いたずら幽霊
北海奇譚などで一時代を築いた、読本作家・長谷川豊山が鯖猫長屋へ家移りして来た。と同時にサバの姿が見当たらない。
蓑吉の様子がおかしいと気付いた拾楽が問い質すと、サバは豊山の部屋に監禁されていた。
夜毎に起きる怪奇現象に悩み、苦しむ豊山だったが、サバが居ると不思議とそれが収まるのだと言う。
其の四 猫を欲しがる客
お店者が、奉公先の嫡男が「どうしても三毛の雄が欲しいと言っている」と、サバを譲って欲しいと拾楽を音訪った。
首を縦に振らない拾楽に、男は金子を詰み挙げ句は、脅しに掛る。
其の五 アジの人探し
胡麻塩柄の大きな犬が拾楽の元へ迷い込んで来た。見掛けによらず大人しい犬で、サバの弟分となっていったのでサバの子分ならアジと命名。
そのアジ、いつしか浪人者・木島主水介の片腕となる働き振りを大道芸で示すも、ある日、ひとりの浪人者に噛み付いたのだった。
其の六 俄(にわ)か差配
差配の磯兵衛が風邪に倒れ、急遽差配代理を務める羽目に陥った拾楽。長屋の修繕やら花見の手配やらで大わらわの中、店子たちが留守の間に、お智の部屋が荒される事件が起きた。
また、磯兵衛の快気祝いの最中、おはまの行方が知れなくなる。
其の七 その男の正体
おはまの行方を探す拾楽。拾楽の素性に勘付いた北町奉行所定町廻り同心・掛井十四郎。
一方、三次が何者かに殺められ、その遺骸を確認したお智は、人違いだと証言する。
そして拾楽が追い詰めた犯人は、意外な人物であり、その目的は、以吉の命を奪ってまで手に入れたい物であったのだが…。
物語全編に流れる大きな筋は、父母の仇を拾楽と見据えたお智。その為か拾楽に仕掛ける罠。
そして、次第に明らかになる真実といったところなのだが、お智の存在を神秘的にする為か、佐助という左官職人との件や、三次がほかの事件の裏で糸を惹いていたりと、必然性を感じないエピソードがあり、それが残念に思えた。
三次が偽物だったといった件も、合点がいかないものがある。
だが、拾楽の弟分である以吉の死、それに巻き込まれたお智の両親。その真実を探るといった単純さに置き換えれば、それを本筋に据えながら、幾多の不可思議な事件が起き、拾楽の英知で解決していく、二部構造の展開は素晴らしい着眼点だろう。
落ちのお宝も当方の乏しい理解力では、納得出来なかった。
特に表題の「ふしぎ草紙」を押し出した「いたずら幽霊」は大変に面白い作品であり、落ちもまた素晴らしかった。
収録作品中、最も心をうたれたのが、「アジの人探し」である。忠犬・アジが可哀想な目に遭った時には、思わず鼻の奥がつんと熱くなり、終末には目頭が潤んだ。
サバの可愛らしさや、拾楽と掛井十四郎との関係性など、キャラも楽しめる。
主要登場人物
☆鯖猫長屋の店子
青井亭拾楽...絵師、義賊・黒ひょっとこ
サバ(三毛猫の雄)...拾楽の愛猫
以吉...盗人、拾楽の朋友
磯兵衛...鯖猫長屋の差配
おてる...与六の女房
与六...大工 蓑吉...野菜の振売り
お智...藤沢の旅籠の娘
三次...お智の請人
貫八...魚の棒振り
おはま...貫八の妹、通いの女中
利助...居酒店の雇われ料理人
おきね...利助の女房、居酒店の女中
清吉...小間物の行商
おみつ...清吉の女房
木島主水介...浪人、大道芸人
長谷川豊山...読本作家
掛井十四郎...北町奉行所定町廻り同心
九平次...神田下白壁町の左官の親方
佐助...左官職人、九平次の弟子
おてい...九平次の娘
徳右衛門...京橋小間物問屋の主
白糸...吉原の花魁
山吹...吉原の新造
加藤木...浪人
神谷修五郎...御家人・次男坊

