うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

唐人さんがやって来る

2013年11月08日 | ほか作家、アンソロジーなど
植松三十里

 2013年7月発行

 徳川将軍の代替わりのたび来日した、朝鮮通信使。その、大行列の様子を描いた絵図の版権を巡る、老舗版元の三兄弟の人情劇。

一章 棺桶の中
二章 怪しげな坊主
三章 献金千両
四章 不肖の三男坊
五章 てんてこ舞い
六章 利輔がゆく
七章 小火(ぼや)と泥棒
八章 いよいよ来る
九章 ようやく来た
十章 とうとう帰る
十一章 利輔が逝(ゆ)く 長編

 亡き父・利左衛門は、朝鮮通信使の「唐人行列絵図」の版権を得る事が悲願であった。その為の布石として、二男・市之丞を莫大な持参金と共に、旗本の養子にし、更にまた持参金を付け、旗本家の婿養子に送り込んだ上、「唐人行列絵図」の版元の決定に力を持つ林大学頭の元へ送り込んでいた。
 だが無念な事に朝鮮通信使の来訪が決まったのは、利左衛門が他界して間もなくの事である。
 亡き父の悲願でもあった「唐人行列絵図」の版権を求め、前回版権を得た郷野屋を打ち負かす為、荒唐堂の当主・利輔と、市之丞、そして三男坊の研三郎は奔走する。
 役目柄、豪商からの献金集めを仰せ遣った市之丞は、子細な情報を利輔へともたらし、受けた利輔共々、大枚千両もの借財をし賄賂を贈り、絵師、獣肉を捌ける料理人の手配を済ませる。
 そして兄弟は、千両回収の為の作をじょうずるのだが、意外にも遊び呆けてばかりいると苦々しく思っていた研三郎から、高級な巻物仕立てにして桐の箱に収め、贈答品としての付加価値を加え一両で販売したらどうかと、突拍子もない案が飛び出す。
 その宣伝・予約確保の為に、唐人踊りの恰好をして評判を取った研三郎。予約は上々だったのだが、ついつい遊び心に火が付き、気が付けば唐人踊りのパフォーマンスが度を越して、伝馬町送りに。
 一方「唐人行列絵図」の作成の為、利輔は絵師・妙見を伴い大坂・京へと向い、かの地で、郷野屋と四つの勝負。
 そして、昼夜を惜しまずの「唐人行列絵図」の制作に掛る。
 獣肉料理人を見付けた事から、朝鮮通信使の獣肉料理担当まで仰せ遣った市之丞は、獣肉を嫌悪する料理人を叱咤激励しながらの悪戦苦闘。
 三兄弟それぞれが最大限の力を振り絞り朝鮮通信使の行列を迎えるのだった。

 舞台は江戸を中心に、日光、東海道の宿から上方へと目まぐるしく動き、かつ兄弟・家族の在り方、それぞれの生業からくる人間関係と、贅沢禁止令などの時勢といった幅広い要素を取り込みながらもぶれる事なく進展する。
 中盤少し前より引き込まれるようにむさぼり読み、気が付けばあっと言う間に読破していた。言葉に無駄がなく、展開が早いのでだらけないのだ。
 また、思わずほろりとさせる場面も組み込まれ、人情ホームドラマを彷彿とさせる作品であった。
 時代小説好きはもちろん、ソフトタッチで難しい場面がないので、時代小説は苦手といった人でも、気負いなく読めて十分に堪能出来る。 
 カバーのイラスト同様に、楽しい話である。

主要登場人物
 鈴木利輔...日本橋の版元・荒唐堂の三代目主、長男
 草柳市之丞...荒唐堂の二男、旗本・草柳家の婿養子、林家事務方陪臣
 鈴木研三郎...荒唐堂の三男
 鈴木鹿...荒唐堂の二代目の内儀、三兄弟の母親
 鈴木福...利輔の妻
 草柳絹...市之丞の妻
 寿々...研三郎の友、端切屋の娘
 林大学頭述斎...林家八代目、昌平黌の学問所御用、儒学者
 妙見...僧侶(元浅草・本願寺の修行僧)、絵師
 梅吉...荒唐堂の番頭
 半助...彫り師(版木彫り)
 お松...半助の祖母
 杉平...荒唐堂の料理人
 孝太...杉平の長男
 新八...岩本町の彫り師(版木彫り)の親方
 郷野屋徳兵衛...神田の版元の主
 大倉山力右衛門...南町奉行所与力





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