秋月達郎、薄井ゆうじ、大久保智弘、菊地秀行、佐藤賢一、高橋三千綱、南原幹雄、藤水名子、村松友視、山本一力
2004年2月発行
藤水名子監修・第3弾。武士道をテーマに綴られる、10編の短編時代小説アンソロジー。
あいのこ船 秋月達郎
マン・オン・ザ・ムーン 薄井ゆうじ
死ねぬ 大久保智弘
才蔵は何処に 菊地秀行
ルーアン 佐藤賢一
消えた黄昏 高橋三千綱
留場の五郎次 南原幹雄
黒のスケルッォ 藤水名子
泪雨 村松友視
鈍色だすき 山本一力 計10編の短編集
あいのこ船 秋月達郎
名主の娘・美津を語り部に、幕末、藩命にて、洋式の御用船を造る事に使命を掛けた音無清十郎。妻子を顧みず、私財を費やしての大作事となった。そんな中、縁者であり勘定方筆頭である音無兵庫が、洋式船に当てられた公金を横領が発覚する。
事を明るみに出さぬよう、兵庫の始末を清十郎は命じられる。
一途な男と、それに共鳴する女心。そこに家庭内の不破や、現代でもありがちな、家庭と仕事の選択や、夫婦の価値観。そして時代小説には良く見受けられる上役の横領などを絡め、御用船作事の偉業を描いている。
この作家は、時代小説専門ではないだろうと感じた。なぜそう感じたかと言うと、背景が幕末(時代物)でない方が、作者の持ち味が生きるのではと思った次第。
調べてみたら、ミステリーやファンタジー、架空物が専門。
主要登場人物
音無清十郎...尾張師崎・千賀藩の作事頭
美津...西之浦の名主の娘
マン・オン・ザ・ムーン 薄井ゆうじ
栂川の中間務めを始めた作吉は、時折共をして野萩町の裏長屋を訪れていた。そこでは、栂川と絵師・玄兎が屋根に上り、月を見ているのだった。
どこか掴みどころのない栂川を玄兎は、「月から来た人」と言う。真実であるか否か、ある日、栂川も玄兎も忽然と姿を消した。
天文に親しむ風流な武士と絵師の親交。そこに興味を抱く中間として3人の交流を軸に、栂川の仕える藩存続問題を絡め、テーマの武士道を説いている。
が、掴みどころのない話に感じた。この作者も時代小説家ではないだろう。テーマの武士道を無理矢理織り込んだ感が否めず、しかも切腹といった古典的ワードで。
このストーリなら、時代小説でなく現代物のほうが良かったのでは。
主要登場人物
作吉...渡り中間
栂川...某藩の下級武士
玄兎...野萩町の絵師
死ねぬ 大久保智弘
東軍流の剣術修行に明け暮れる阿賀野喜三郎。世の中は、祖父の代に徳川の政権となり、もはや武士が戦場で命をかけることもない。だが、彼は、華のある死を望んでいた。
武士道を重んじ、版で押したような日々であったが、家庭には恵まれず、息子の不始末で閉門蟄居。そして放逐された。老いてなを華のある死を思い描く喜三郎に、息子の嫁が手を差し伸べる。
前半は剣術の話。中盤山場の奉納試合のシーンで、華のある死に方を考え、後半は、うらぶれていくひとりの男の生き様である。
難解だった。監修の藤氏は、奉納試合の華やかさが、主人公の晩年に生きてくると書いておられるが、赤穂浪士の武士道や、家庭の不和など、どうも結び付かない。
主要登場人物
阿賀野喜三郎...弓月藩士
鵡川昌次...弓月藩士
八巻彦六...弓月藩士
才蔵は何処に 菊地秀行
剣に覚えのない、祐筆小役の馬場多岐之介は、筆頭家老・柿生主膳より、見た事も聞いた事もない、滝川才蔵なる男を討ち果たす藩命を受けた。
以後、日本全国を滝川才蔵を探して旅を続け三十余年。大目付の楡信三より、「間違いだった。滝川才蔵なる男は存在しない」と告げられ、帰参を促されるも、多岐之介は己の武士道を全うすべく、更に才蔵を討ち果たす旅を続けるのだった。
滝川才蔵とは実存する人物なのか。最後まで分からせない。シュールな一編である。
主要登場人物
馬場多岐之介...祐筆小役
楡信三...大目付
ルーアン 佐藤賢一
ジャック・ドゥ・ラ・フォンテーヌという修道士の語り部による、百年戦争にてオルレアン解放のために戦い、コンピエーニュで捕虜となり、ルーアンで刑死したジャンヌ・ダルクの物語。
申し訳ありません。読んでいません。
主要登場人物
ジャック・ドゥ・ラ・フォンテーヌ...ドミニコ会の修道士
消えた黄昏 高橋三千綱
突然、平岡丈左衛門に呼び出さた岡和三郎。石井孫七と共に江戸屋敷の前藩主の忘れ形見である国松の警護を命じられた。
それには、側用人の原雅之進一派の厳粛も込められた役目であった。
だが、江戸表に出向いて、調べていくうちに、丈左衛門始め家老たちが、不正隠遁のために原雅之進の命を狙っている事を知る。
そして討ち果たした後は、和三郎も孫七も命を奪われるであろう事も伺えた。
本誌6編目にして、ようやく時代小説らしい読み物に出会えた。「藩校早春賦」、「夏雲あがれ」を思い起こさせる岡和三郎の活躍と、爽快な結末がほっとする。
途中、「ああ、高橋三千綱だなあ」と思わせるエロチックさはあるが、概ね爽やかである。
主要登場人物
岡和三郎...野山藩士、部屋住み
石井孫七...野山藩下士、部屋住み
平岡丈左衛門...野山藩年寄り
原雅之進...藩主・義孝の側用人
留場の五郎次 南原幹雄
芝居小屋での諍いを収め裁くのが生業の止め男(留場)の五郎次。芝居町に五郎次ほどの留場はいないと言われるくらいの仲裁ぶりである。
そんな五郎次に興味を引かれた江戸屋弁之助は、五郎次は武士であったのではないかと思う。
ある日、斬り付けられた五郎次を助けた弁之助は、五郎次が留場に居るのは、女仇討ちの為だと知る。
仇討ちなど止め、留場で生きていく事を進める弁之助。五郎次とて女仇討ちなど空しいだけだが、武士の一分は捨てられないのだ。
仇討ちシーンの件は意外に呆気ないように感じたが、五郎次と弁之助の交流・友情をメインにした読み応えのある一編。作品自体は全く違うが、男同士の信頼感や親交といった面で、山本一力氏の「欅しぐれ」が思い起こされた。
主要登場人物
五郎次(田毎孫兵衛)...中村座の留場、元小田原藩大久保家馬廻り役
江戸屋弁之助...芝居茶屋の主
鶴吉...目明かし
松原庄左衛門...浪人、元小田原藩大久保家馬廻り役
黒のスケルッォ 藤水名子
裏長屋に相応しくない、整った容姿に、ぱりっとした出で立ちの武士・秋草右京之介がやって来た。長屋の店子たちは、口々に仇討ちの為の潜伏ではないかと噂する。
しかも、楠見主膳が岡惚れの梅香まで、右京之介にぞっこんな様子。面白くない楠見主膳は、右京之介毛嫌いするも、いつしか酒を酌み交う仲となる。
だが、実際には右京之介は仇持ちであり、その残忍さで返り討ちにするのだった。
裏長屋に住まう、ひねた性格の楠見主膳の視線で描いた、秋草右京之介という男の本性。
まあ、人は見掛けに騙されがちとでも言ったところだろうか。藤氏の作品では先に読んだ「リメンバー 」よりもずっと面白かった。
主膳の俗に言う嫌な性格が面白さを倍増させている。
ただ主膳風にひねたひと言を…。仇、かたき表記の不統一(仇はあだと読ませるのか?)、深川芸者は男の名前で座敷に出ています。
主要登場人物
楠見主膳(咲次郎)...浪人
秋草右京之介...浪人
梅香...深川芸者
泪雨 村松友視
山岡鉄舟の死を目前に、次郎長が振り返る鉄舟との交流の日々。幕末から明治へと移りゆく中で、次郎長の功績を実話を元に執筆された一編。
武士道がテーマの作品集にあり、敢えて侠客を取り上げ、武士道に劣らぬ大いなる男の気概を描いている。
主要登場人物
山岡鉄舟...徳川幕府幕臣・若年寄格幹事、明治政府政治家・子爵
清水次郎長(山本長五郎)...侠客
鈍色だすき 山本一力
柏原浩太郎は、深川八幡宮参道にて、札差平野屋の対談方・良ノ助と渡世人・達磨の猪之吉一家の仙吉が一触即発になったのを仲裁した縁で、平野屋伝兵衛、七代目・猪之吉双方と交流を持つ事になった。
次第に伝兵衛の娘・みそのと惹かれ合うようになるが、時は寛政元年、棄損令が発布され、札差への武家の借金は棒引きとなった。この事で、武家と札差との関係は悪化し、伝兵衛も浩太郎への嫌悪を露にし、みそのと引き裂くのだった。
静かに自体を見守りながら、度量の大きな七代目・猪之吉と浩太郎の関係が、同氏の「欅しぐれ」を彷彿とさせる。
武士道を徳と説かれて育った浩太郎が、人として本物の気配りや大きさを兼ね備えた猪之吉に男道(=武士道)を見る。
主要登場人物
柏原浩太郎...御家人・時田家家士
平野屋伝兵衛...蔵前・札差の主
みその...伝兵衛の娘
七代目・達磨の猪之吉...平野町の侠客
収録作では、「才蔵は何処に」、「消えた黄昏」が好みだった。「ルーアン」においては、後書きにて藤氏が敢えて中世ヨーロッパ騎士もので書いていただいたと記しているのだが、日本の時代小説ファンと、西欧の時代小説ファンとは、異なるのではないだろうか。
仮に、別の機会であれば「ルーアン」自体は、面白く読めたと作品ではないかと思うが、如何せんお侍モードで読んでいる中での異色作は厳しいものがある。
しかし、中国物を得意とする藤氏に日本の時代小説の監修を任せた意図とはどこにあるのだろうか。それこそがミステリアスだ。
あと1冊「夢をみにけり」があるのだが、こちらに期待しようと思う。
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2004年2月発行
藤水名子監修・第3弾。武士道をテーマに綴られる、10編の短編時代小説アンソロジー。
あいのこ船 秋月達郎
マン・オン・ザ・ムーン 薄井ゆうじ
死ねぬ 大久保智弘
才蔵は何処に 菊地秀行
ルーアン 佐藤賢一
消えた黄昏 高橋三千綱
留場の五郎次 南原幹雄
黒のスケルッォ 藤水名子
泪雨 村松友視
鈍色だすき 山本一力 計10編の短編集
あいのこ船 秋月達郎
名主の娘・美津を語り部に、幕末、藩命にて、洋式の御用船を造る事に使命を掛けた音無清十郎。妻子を顧みず、私財を費やしての大作事となった。そんな中、縁者であり勘定方筆頭である音無兵庫が、洋式船に当てられた公金を横領が発覚する。
事を明るみに出さぬよう、兵庫の始末を清十郎は命じられる。
一途な男と、それに共鳴する女心。そこに家庭内の不破や、現代でもありがちな、家庭と仕事の選択や、夫婦の価値観。そして時代小説には良く見受けられる上役の横領などを絡め、御用船作事の偉業を描いている。
この作家は、時代小説専門ではないだろうと感じた。なぜそう感じたかと言うと、背景が幕末(時代物)でない方が、作者の持ち味が生きるのではと思った次第。
調べてみたら、ミステリーやファンタジー、架空物が専門。
主要登場人物
音無清十郎...尾張師崎・千賀藩の作事頭
美津...西之浦の名主の娘
マン・オン・ザ・ムーン 薄井ゆうじ
栂川の中間務めを始めた作吉は、時折共をして野萩町の裏長屋を訪れていた。そこでは、栂川と絵師・玄兎が屋根に上り、月を見ているのだった。
どこか掴みどころのない栂川を玄兎は、「月から来た人」と言う。真実であるか否か、ある日、栂川も玄兎も忽然と姿を消した。
天文に親しむ風流な武士と絵師の親交。そこに興味を抱く中間として3人の交流を軸に、栂川の仕える藩存続問題を絡め、テーマの武士道を説いている。
が、掴みどころのない話に感じた。この作者も時代小説家ではないだろう。テーマの武士道を無理矢理織り込んだ感が否めず、しかも切腹といった古典的ワードで。
このストーリなら、時代小説でなく現代物のほうが良かったのでは。
主要登場人物
作吉...渡り中間
栂川...某藩の下級武士
玄兎...野萩町の絵師
死ねぬ 大久保智弘
東軍流の剣術修行に明け暮れる阿賀野喜三郎。世の中は、祖父の代に徳川の政権となり、もはや武士が戦場で命をかけることもない。だが、彼は、華のある死を望んでいた。
武士道を重んじ、版で押したような日々であったが、家庭には恵まれず、息子の不始末で閉門蟄居。そして放逐された。老いてなを華のある死を思い描く喜三郎に、息子の嫁が手を差し伸べる。
前半は剣術の話。中盤山場の奉納試合のシーンで、華のある死に方を考え、後半は、うらぶれていくひとりの男の生き様である。
難解だった。監修の藤氏は、奉納試合の華やかさが、主人公の晩年に生きてくると書いておられるが、赤穂浪士の武士道や、家庭の不和など、どうも結び付かない。
主要登場人物
阿賀野喜三郎...弓月藩士
鵡川昌次...弓月藩士
八巻彦六...弓月藩士
才蔵は何処に 菊地秀行
剣に覚えのない、祐筆小役の馬場多岐之介は、筆頭家老・柿生主膳より、見た事も聞いた事もない、滝川才蔵なる男を討ち果たす藩命を受けた。
以後、日本全国を滝川才蔵を探して旅を続け三十余年。大目付の楡信三より、「間違いだった。滝川才蔵なる男は存在しない」と告げられ、帰参を促されるも、多岐之介は己の武士道を全うすべく、更に才蔵を討ち果たす旅を続けるのだった。
滝川才蔵とは実存する人物なのか。最後まで分からせない。シュールな一編である。
主要登場人物
馬場多岐之介...祐筆小役
楡信三...大目付
ルーアン 佐藤賢一
ジャック・ドゥ・ラ・フォンテーヌという修道士の語り部による、百年戦争にてオルレアン解放のために戦い、コンピエーニュで捕虜となり、ルーアンで刑死したジャンヌ・ダルクの物語。
申し訳ありません。読んでいません。
主要登場人物
ジャック・ドゥ・ラ・フォンテーヌ...ドミニコ会の修道士
消えた黄昏 高橋三千綱
突然、平岡丈左衛門に呼び出さた岡和三郎。石井孫七と共に江戸屋敷の前藩主の忘れ形見である国松の警護を命じられた。
それには、側用人の原雅之進一派の厳粛も込められた役目であった。
だが、江戸表に出向いて、調べていくうちに、丈左衛門始め家老たちが、不正隠遁のために原雅之進の命を狙っている事を知る。
そして討ち果たした後は、和三郎も孫七も命を奪われるであろう事も伺えた。
本誌6編目にして、ようやく時代小説らしい読み物に出会えた。「藩校早春賦」、「夏雲あがれ」を思い起こさせる岡和三郎の活躍と、爽快な結末がほっとする。
途中、「ああ、高橋三千綱だなあ」と思わせるエロチックさはあるが、概ね爽やかである。
主要登場人物
岡和三郎...野山藩士、部屋住み
石井孫七...野山藩下士、部屋住み
平岡丈左衛門...野山藩年寄り
原雅之進...藩主・義孝の側用人
留場の五郎次 南原幹雄
芝居小屋での諍いを収め裁くのが生業の止め男(留場)の五郎次。芝居町に五郎次ほどの留場はいないと言われるくらいの仲裁ぶりである。
そんな五郎次に興味を引かれた江戸屋弁之助は、五郎次は武士であったのではないかと思う。
ある日、斬り付けられた五郎次を助けた弁之助は、五郎次が留場に居るのは、女仇討ちの為だと知る。
仇討ちなど止め、留場で生きていく事を進める弁之助。五郎次とて女仇討ちなど空しいだけだが、武士の一分は捨てられないのだ。
仇討ちシーンの件は意外に呆気ないように感じたが、五郎次と弁之助の交流・友情をメインにした読み応えのある一編。作品自体は全く違うが、男同士の信頼感や親交といった面で、山本一力氏の「欅しぐれ」が思い起こされた。
主要登場人物
五郎次(田毎孫兵衛)...中村座の留場、元小田原藩大久保家馬廻り役
江戸屋弁之助...芝居茶屋の主
鶴吉...目明かし
松原庄左衛門...浪人、元小田原藩大久保家馬廻り役
黒のスケルッォ 藤水名子
裏長屋に相応しくない、整った容姿に、ぱりっとした出で立ちの武士・秋草右京之介がやって来た。長屋の店子たちは、口々に仇討ちの為の潜伏ではないかと噂する。
しかも、楠見主膳が岡惚れの梅香まで、右京之介にぞっこんな様子。面白くない楠見主膳は、右京之介毛嫌いするも、いつしか酒を酌み交う仲となる。
だが、実際には右京之介は仇持ちであり、その残忍さで返り討ちにするのだった。
裏長屋に住まう、ひねた性格の楠見主膳の視線で描いた、秋草右京之介という男の本性。
まあ、人は見掛けに騙されがちとでも言ったところだろうか。藤氏の作品では先に読んだ「リメンバー 」よりもずっと面白かった。
主膳の俗に言う嫌な性格が面白さを倍増させている。
ただ主膳風にひねたひと言を…。仇、かたき表記の不統一(仇はあだと読ませるのか?)、深川芸者は男の名前で座敷に出ています。
主要登場人物
楠見主膳(咲次郎)...浪人
秋草右京之介...浪人
梅香...深川芸者
泪雨 村松友視
山岡鉄舟の死を目前に、次郎長が振り返る鉄舟との交流の日々。幕末から明治へと移りゆく中で、次郎長の功績を実話を元に執筆された一編。
武士道がテーマの作品集にあり、敢えて侠客を取り上げ、武士道に劣らぬ大いなる男の気概を描いている。
主要登場人物
山岡鉄舟...徳川幕府幕臣・若年寄格幹事、明治政府政治家・子爵
清水次郎長(山本長五郎)...侠客
鈍色だすき 山本一力
柏原浩太郎は、深川八幡宮参道にて、札差平野屋の対談方・良ノ助と渡世人・達磨の猪之吉一家の仙吉が一触即発になったのを仲裁した縁で、平野屋伝兵衛、七代目・猪之吉双方と交流を持つ事になった。
次第に伝兵衛の娘・みそのと惹かれ合うようになるが、時は寛政元年、棄損令が発布され、札差への武家の借金は棒引きとなった。この事で、武家と札差との関係は悪化し、伝兵衛も浩太郎への嫌悪を露にし、みそのと引き裂くのだった。
静かに自体を見守りながら、度量の大きな七代目・猪之吉と浩太郎の関係が、同氏の「欅しぐれ」を彷彿とさせる。
武士道を徳と説かれて育った浩太郎が、人として本物の気配りや大きさを兼ね備えた猪之吉に男道(=武士道)を見る。
主要登場人物
柏原浩太郎...御家人・時田家家士
平野屋伝兵衛...蔵前・札差の主
みその...伝兵衛の娘
七代目・達磨の猪之吉...平野町の侠客
収録作では、「才蔵は何処に」、「消えた黄昏」が好みだった。「ルーアン」においては、後書きにて藤氏が敢えて中世ヨーロッパ騎士もので書いていただいたと記しているのだが、日本の時代小説ファンと、西欧の時代小説ファンとは、異なるのではないだろうか。
仮に、別の機会であれば「ルーアン」自体は、面白く読めたと作品ではないかと思うが、如何せんお侍モードで読んでいる中での異色作は厳しいものがある。
しかし、中国物を得意とする藤氏に日本の時代小説の監修を任せた意図とはどこにあるのだろうか。それこそがミステリアスだ。
あと1冊「夢をみにけり」があるのだが、こちらに期待しようと思う。
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