拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

めくるめく浮世絵の世界

2006-11-30 21:08:04 | 日記
昨日、所属するゼミの皆様と、松坂屋栄本店で催されている浮世絵の展覧会「四大浮世絵師展」に行ってきた。美人画の頂点を極めた喜多川歌麿、幻の天才絵師東洲斎写楽、世界一有名な日本画家葛飾北斎、ゴッホも愛した風景絵師歌川広重。近世を代表する4者の作品群が一堂に会すという貴重な展覧会らしく、閉館間近にも関わらず沢山の人々が訪れていた。浮世絵、展覧会形式でじっくりと眺める機会は久々だったが、一瞬で魅了されてしまった。着物や髪の毛の先などを細部まで緻密に描きながらも豪快な構図は迫力満点だ。あまりにも美しい作品はその場からしばらく動けなくさせる…。
喜多川歌麿の描く、女性への憧れ、理想を詰め込んだ美人画。江戸時代と現代では美人の条件が違うので、初めこそ「これが美人…?」と多くの人が思うかもしれないが、何枚も見続けると描かれる女性たちがどんどん美しく見えてくるから不思議だ。遊女や江戸の評判の町娘の日常をとらえた美人画が特に印象的。バチっとキメた姿ではなく、ちょっとした隙を見せた瞬間を垣間見るようでドキドキする。馴染みの客を想って手紙を書く遊女の可愛らしさには息を飲んだ。頬を紅潮させながら筆を取る遊女。心地良い「酔い」を感じた。さすが遊女。また、鏡に向かい化粧をする女の絵に描かれた真剣な表情は、女性の真実を捕えているようで感心。風俗が違っても、今も昔も変わらないのだ、人間て。遊郭の一日を一時間毎に一枚ずつ描いたという作品は全部展示して欲しかったな。こういう美人画って、今でいう水着のグラビアみたいな感覚で楽しまれていたのだろうか…。
突如江戸の町に現れ、当代の人気歌舞伎スター達の浮世絵を大量に描き残し、わずか10ヵ月で姿を消したという謎だらけの絵師・東洲斎写楽。身元不詳の天才(著名な絵師の変名か?という説もある)の作品に描かれた俳優たちは皆、迫力のある凛々しさとコミカルな親しみやすさを持ち合わせた不思議な魅力を放っていた。歌舞伎ファン向けにブロマイドとして売られた一連の作品。写真の無い時代なのでその分絵を本人に似せてリアルに描いた結果、俳優たちから「かっこよくない部分まで実物そっくりに書かないでくれ」と囁かれたとか。そういえば江戸時代には既に追っ掛けが存在したらしく、芝居小屋の楽屋付近には歌舞伎スター目当ての女子たちが溢れていたようだ。思わず憧れの役者に求婚する娘もいたとか。いつの時代も芸能人はモテモテだ。そして熱を上げる女子パワーは不変。また、写楽は俳優の他に当時の人気力士たちの絵も描いていた。江戸っ子達に親しまれた、7歳にして体重70キロオーバーの超肥満児力士の絵には衝撃を受けたね…マジに実在したのか…?
ゴッホやモネなど、19世紀ヨーロッパの所謂「印象派」の画家たちに多大な影響を与えた葛飾北斎。西洋人達の注目を浴びた大胆な構図と鮮烈な色彩が特徴の彼の作品で一番有名なのはやはり、日本各所から見える富士山の様子を描いた「富嶽三十六景」だろう。作品群を眺めていると絵の中に吸い込まれそうになるような気にさせる、どこまでも深く綺麗な藍色が素晴らしい。見ていて鳥肌が立ったり、涙が出そうになった作品もあった。荒れた海と背景にそえられた美しい富士が有名な「神奈川沖浪裏」(画像)は、間近で見てると渦巻く高波にのまれるかと思ったぐらいだ。北斎の目が捕らえた高波の姿、写真にでも写したかのようなリアルさ。そんなリアルなものが、浮世絵という超アナログな媒体に表現されているのだ…感動。そんな感動作とは対象的に、なんとも滑稽な漫画風の作品も展示してあって驚いた。男の変顔が羅列してるだけの絵、とか。
江戸・日本橋から京都・三条大橋を結んだ東海道の各宿場を描いた「東海道五十三次絵」で有名な歌川広重。彼の絵は、ゴッホによって模写されている。浮世絵の構図や色使いの手法を取り入れた作品を数点残したゴッホは広重の絵を通して、遥か彼方の江戸の地に思いを馳せたのだろう。広重といえば「東海道~」なので風景画のイメージが強かったが、この人は美人画を描かせても凄いようだ。今回の浮世絵展で最も心を奪われた作品は、広重の「東都名所・両国夕すずみ」という作品。江戸・両国橋のそばで夕涼みをしている三人の女性を描いた絵である。ただ涼んでいるだけではなく、まるでファッションショーのようにポーズをとる女性たち。季節は夏なのかかなり薄着で、着物がはだけて生肌がチラりと見えるその姿は勿論色っぽい。そんな女性達の背景には、やはり風景画の名手ということで何とも味のある色合いの江戸の町が描かれている。川は沢山の屋形船で賑わっており、川の対岸では料亭の明かりが輝いている。そして漆黒の夜空…。江戸っ子たちはこんな風にして夏の夜の江戸の町を楽しんでいたのだな…と思うとワクワクしてくる。
実際両国辺りは江戸時代の人々の遊び場だったりデートスポットだったりしたそうだ。「もしもタイムスリップできたら江戸で遊びたいなぁ…」という私の叶わぬ願望を刺激しまくった鮮烈な作品だった。川沿いの料亭で屋形船を眺めながらのんびりお酒飲んだりしたーい…もしかしたらゴッホもそんなような事、思ったかも。そう、両国といえば江戸東京博物館である。これまで二度ほど訪れたが、展示物があまりにも私好みな素敵な博物館だったな…日本橋や中村座の複製とか。また行きたい。今すぐ。イメージキャラクターの「えどまる」はまだ健在だろうか…。
展覧会を見た後はもちろん飲み会である。ゼミのみんなでぞろぞろと居酒屋に入り、お酒を飲みまくりながら教育実習の思い出やら今後のことやらくだらない世間話やらをダラダラ語って終了。やっぱ明太子ポテトは美味しかった。生牡蠣を食べた先輩は今朝嘔吐しまくったらしい。…これからの宴会シーズン、牡蠣に気をつけよう。
書き忘れたが「四大浮世絵師展」、かなりおすすめである。松坂屋栄本店の南館で12月3日まで。



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