拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

イローン―『TO-Y』

2007-01-05 19:28:29 | 漫画
数年ぶりに上條淳士原作の『TO-Y』という漫画を一気に読む。約20年前に週刊少年サンデーで連載されていたこの漫画。類稀なカリスマ性をもつボーカリスト、トーイこと藤井冬威を主人公とした音楽漫画で、今でいうと『BECK』や『NANA』と同じようなジャンルになるのだろうか。自分が生まれた頃に連載されていた漫画なので時代背景などはよくわからないが、ちょうど世間ではバンドブームだったのかな?ボウイとかが流行ってたころだろうか。あと吉川晃司とか。この漫画は後の世代のミュージシャンにいろいろな影響を与えてる気がします。
インディーズでパンクバンドのボーカリストを務め一部の若者たちに熱烈な支持を得ていたトーイが大手芸能ブロダクションの敏腕マネージャーの目に留まり、紆余曲折を経てソロとして歌手デビューし、芸能界でのし上がっていく様を描いた漫画。久々に読んだら「こんなに面白かったっけ???」とびっくりするほど熱中してしまった。とにかく天才ボーカリストであるトーイをとりまく脇役たちのキャラの濃さにヤラれた。
主人公のトーイがあまり感情の起伏を表に出さず、彼の内面さえも殆ど描かれないため、周囲の脇役たちの存在感は相当に濃くなっている。というか『TO-Y』と聞いてまず思い浮かぶのは主人公のトーイじゃなくて魅力的な脇役たちだ。トーイのライバルにして人気アイドル・哀川陽司(吉川晃司がモデルとされている)は、クールなトーイとは対照的に、カッコいいくせに妙に熱くてドジで、道化役を一手に引き受ける様に男気を感じさせるナイスキャラだ。そして、トーイの従姉妹であり恋人(?)である美少女で、トーイの芸能界入りのきっかけをつくった小石川日出郎(ヒデロー。女の子だよ)。当時彼女の美しすぎるヴィジュアルにヤラれた少年たちはかなり多かったのではないか。私も久々に読んでちょっとクラクラしてしまったぞ。最近の漫画でもこんなに綺麗な女の子、お目にかかれないもの。「森ヶ丘園子」という芸名でブリッコアイドルとして大活躍している彼女だが、オフの時は男勝りでサバサバとした性格に変貌。トーイと二人きりの時は色っぽく彼にせまるがいつも邪魔が入るのがお約束。まぁ少年漫画だし、園子は15歳って設定だししょうがないのか?…15歳であの色気…さすが少年漫画。アイドルとしてテレビ番組で歌うシーン、華麗です。あと、トーイに憧れてバンドを組んだものの、ソロで芸能界デビューしてしまったトーイを「堕落した」と位置づけ、トーイの抹殺をたくらむ危ないバンド少年・カイエ(画像参照)。「ペニシリンショック」というバンドでボーカルを務める彼の、80年代UKゴスを彷彿とさせる黒服を纏ったルックスは、後のヴィジュアル系のアーティストに少なからず影響を与えている気がします(大昔のSUGIZO、カイエにそっくりだ)。バンド名も某バンドを思わせるし。他にもトーイ、哀川、園子を支えるそれぞれのマネージャーやスタッフ、名門の旧家である園子の実家の人々、トーイの昔のバンド仲間たちなどなどなど、登場する数多のキャラたちがいちいち個性が強すぎて、読んでいて一瞬も飽きさせない。凄すぎるぜぇ…。『TO-Y』を読んでる最中に私が感じるドキドキ感を煽ってるのは主に園子とカイエだな。この二人が見たくて今回読み直したようなもんだ。
シャープでクールでエレガントな絵柄にもかかわらず、2~3ページに一度の頻度で挿入されまくるギャグの応酬もたまらない。物語の本筋とはまったく関係ないところで展開されるベタベタだったりシュールだったりするギャグシーン、ツボにハマればどれも相当な破壊力。物語の本筋で堂々と描かれるギャグもたまに登場。意表を付きまくりでビビります。あの綺麗な絵で描かれるのがまた良いんだろうなぁ…。妙なタイミングとテンポで構築されるギャグは、音楽漫画ならではの華麗なライブシーンと並んでこの漫画の肝だろう。今回再読したときもストーリーそっちのけでギャグシーンを真剣に追ってしまったよ。ペンギンの群れに紛れてるカイエや園子の家族は最高ですなぁ…。
第一話序盤に、哀川や園子に並ぶ…いや、それ以上の主要キャラで、トーイの熱烈なおっかけ中学生の「ニヤ」という少女が登場する。どこまでも純粋にトーイを思い、トーイを応援する神出鬼没な彼女はいつのまにかトーイと園子が二人で暮らす家に住み着く。普通ならトーイを愛するもの同士で対立しそうなニヤと園子だが、ニヤのもつ天性の人懐っこさと純粋さは物語を単なる三角関係な恋愛ものにすることを許さなかった。あの不思議な三角関係は今読んでも結構新鮮だし面白い。いつもニヤが一緒にいることが当たり前で、急に居なくなると一気に不安になってしまうトーイと園子。彼らの気持ちが読者にも自然に伝染してくる気がするのが凄い。
この漫画、当時は大ヒットしたらしいが巻数は少年漫画にしては全10巻と結構少なめ。掲載紙が少年ジャンプだったら絶対に無理矢理引き伸ばされてたんだろうなぁ…というか、当時のジャンプにこれが載っててもあっさり打ち切られてそうだ。「友情・努力・勝利」のどれもしっくりあてはまらないクールな漫画だもんな。20年も前の漫画なので今となっては文庫版すら中古屋でしか手に入らないと思われるが、未読ならぜひ読んでみて欲しい漫画の一つ。漫喫とかで。


●今日の一曲
「END OF SORROW」/LUNA SEA




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