拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

『クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁』感想

2010-04-25 12:24:29 | 映画
『クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁』の感想。『アリスインワンダーランド』と迷ったが、あれは大ヒット作だからロングランするだろう、と。でもしんちゃん映画はゴールデンウィーク終わるといつのまにか公開終わってるイメージがあるから早めに見ておこうってことで。何しろ今作は前評判がとても良かった。タイトルからしてもうね。「ん?しんちゃん結婚すんの?つーかタイムスリップもの!?」とテンション上がったもの。そのような人は他にも沢山いたようで、興行収入は去年より大分良いみたい。
で、内容は………惜しいなー、勿体無いなー、という感じ。良い所は凄く良いのにダメな部分はとことん気になる。「2004年公開の『嵐を呼ぶ! 夕陽のカスカベボーイズ』以来の良作」というのは認めるが、それは近作がダメダメ過ぎたからだもんな。本当、良い所は物凄く良いんだ。まず世界観が良い。しんのすけがタイムスリップする数十年後の未来世界『ネオトキオ』。隕石の衝突(!)で気候が変わり、太陽の光が一日中届かぬ暗く荒廃した世界である。ここを支配するのが今回の悪役である電機メーカー社長・金有(かねあり)。暗くなってしまった街に自社の電気製品を大量投入し、ギラギラの電飾が眩しい未来都市につくり変えてしまった。これが、『ブレードランナー』に出てくるような、きらびやかだけどうさんくささもプンプン漂うゴテゴテの未来都市。ギラギラしてるのは都市の中心部だけで、その周辺はこれまた『ブレードランナー』の裏路地のように薄暗い廃墟のような建物がゴチャゴチャ蠢いている。絵に描いたようなディストピアっぷり全開の世界観は「裏オトナ帝国」とでも形容したいぐらいだ。
そしてキャラが良い。しんのすけ一行(風間・ネネ・マサオ・ボーちゃん。今回は野原一家は参加せず)を未来世界へ連れていく未来の花嫁タミコの、恋人・しんのすけへのベタ惚れっぷりはバカバカしくもロマンチック。大人になったしんのすけも素敵だ。大人なので「オラ~だゾ」なんてしゃべり方はしてないが、言葉選びのチョイスはしんちゃんそのもので絶妙なおちゃめ感がある(いや、冷静に見たらダメな大人なのだが…)。また、大人になった風間・ネネ・マサオ・ボーちゃんも登場。ディストピアな街に住む彼らは心の荒んだ大人に成長していて、とても味わい深かった(あ、ボーちゃんは違ったな)。そして未来のひろし&みさえ。老けこんで酷く笑えるルックスになってた二人だが、過去から来たしんのすけ一行を温かく迎える姿には和まされた。
で、味わい深いキャラが揃っているのに…全然活かしきれてないんだよな…。ダメ~な感じの風間くん達がイマイチ活躍できないのは仕方ない。でも、過去からやってきた子どもの頃の自分と再会した後はもうちょっと熱い展開になっても良かったのに。あんな中途半端な形で大人になった彼らを出すんだったら、大人になった春日部防衛隊メインにして一本長編作ってくれー。
悪役・金有社長に魅力が全くないのもダメだったな。しんちゃん映画の悪役って基本嫌な奴ばっかりなんだけど、過去の良作を振り返ると面白過ぎるギャグシーンが用意されてたり、同情の余地があったり、ヴィジュアルが異様に良かったり、逆にヴィジュアルがマヌケ過ぎたりと、何かしらの魅力があった。でも今回は本当にただの嫌な奴。未来のしんのすけの花嫁タミコの父親である強欲な金有社長。金有は、金にならないタミコとしんのすけの結婚を邪魔するため、あの手この手でタミコを追い詰める。「お前本当に父親かよ!」というツッコミすらアホらしくなるほど酷い仕打ちをしまくる、型にはまりきった悪役ぶりに呆れてしまった。娘に対して愛情のかけらもない父親を悪役にするのは別に良いんだけど、キャラの作りこみが薄っぺらいとひたすら不愉快なだけだぞ。「可愛い娘をしんのすけなんかと結婚させてたまるか」みたいな動機が見え隠れしてれば全然良かったのになぁ。あるいは、『カリオストロの城』方式で、父親ではなく大金持ちで性格悪いフィアンセがタミコとしんのすけの恋を邪魔するとか。それなら彼がただの薄っぺらい嫌な奴でもまだ納得できたよ。あと生身のしんちゃんVSロボット、あればっさりカットしてもOKだと思う。グダグダ。
ただ、『オトナ帝国』がウケて以降しつこく続いてきた「親子愛押し」から脱却してたし、花嫁強奪モノクラシック映画『卒業』のパロディーのようなシーンなど、個人的に笑いが止まらなかった場面も沢山あった(ハゲオヤジの頭の上で仁王立ちしたしんちゃんが真剣に「その結婚待った!」みたいなこと言ってるシーン、誰も笑ってなかったけど妙に私のツボにハマってしまい笑い堪えまくった)。そして、大人しんちゃんが子どもしんちゃんに言ったセリフ。「好きに生きろよ」…これ良かったなぁ。原作者、臼井儀人さんが亡くなってもアニメは続行すること、原作者の手を完全に離れてもしんちゃんの世界はまだまだ広がっていくことを、すぐさま思い出してジーンとした。エンドロールも感動的だった。

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