拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

『TANPOPO1』/タンポポ

2008-05-03 12:56:17 | アルバムレビュー
TANPOPO1/タンポポ

1. ラストキッス★★★★
ストリングス隊に金原千恵子ストリングスを起用した、気合入りまくりのデビュー曲。身体から徐々に体温を奪っていくような冷気漂う切ないシンセと、容赦なく悲しみを煽るマイナー調のメロディーが絡みあう。メンバー3人のコーラスワークも情感たっぷり。

2. わかってないじゃない ★★★
石黒彩ソロ。冒頭で耳に飛び込んでくるウッドベースがインパクト大なジャズ風マイナーチューン。間奏ではハロプロのアルバムであることを忘れそうになるようなプレイが聞ける。一度聴いたら耳にこびりつく「わかってないじゃない」というフレーズの繰り返しを軸に曲が構成されている。曲が進んでいく程にファンキーにトタトタと暴れるリズム隊、激しくなるアコギのカッティングが耳に気持ち良い。

3. センチメンタル南向き ★★★☆
矢口真里ソロ。フィリーソウル風の流麗なストリングス、フルートと彼女の伸びやかなファルセットがよく合う。声量が足りず、やや儚すぎる部分は他の二人のメンバーのコーラスとグルーヴィーなベースでサポート。中盤エンタテイメント性の低いコール&レスポンスが入ってくるのが謎だが、全体的に非常に爽やかな一曲。

4. Motto★★★☆
ディープなR&B。オケはNYレコーディングで、ベースにはウィル・リーを起用。
グルーヴィーなリズム隊とシンセの絡み、蜃気楼のように消え入りそうなストリングスサウンドが印象的だが、
メンバーのコーラスもなかなかのもの。普通のR&Bシンガーと比べれば当然クオリティは劣るだろうが、
アイドルならではのぎこちない雰囲気は、年上男にリードされる歌詞の主人公と妙にシンクロしている。
SMAPの「BEST FRIEND」と同様、拙さが功を奏しつつある曲。

5. 誕生日の朝★★★★
じわじわと盛り上がっていく曲とコーラスが美しいミディアム曲。温かいけど消え入りそうに儚くて…つんく良いメロディー作るなぁとただただ感心。メロディーを生かした音数少なめのシンプルなアレンジで、健気な願いが切々と歌われる。

6. 片想い ★★
飯田香織ソロ。アルバムでは珍しい、シンプルなギターロック調のミディアムバラード。美人だがなんだか怖い顔をしている飯田のキャラによく似合う、表面上クールなんだけど心の内に怨念を秘めているような、悩める女子の想いを描いた曲。

7. ONE STEP ★★★★★
このアルバムのハイライト。アーバンジャズ・ミーツ・ハロプロ。ハロプロのジャズナンバーの多くはボーカルを強調したミックスになっており、豪華なオケの存在感が薄まっているが、この曲(というかこのアルバム)は例外。ムーディに空間を自在に彩るサックス、そのサックスに対抗する、ヘナチョコとセクシーの間を横断するコーラス、一瞬だけポップになる部分Bメロからサビへの繋ぎ、キメフレーズ「ONE STEP GROWIN' UP」、救いのないつんく節全開の歌詞…。ハロプロ全盛期ならではの傑作ラブソング。

8. たんぽぽ ★★★
後にリカットされた曲。前曲のアダルトなムードから一転、春らしい軽やかなポップス。曲調も歌詞もポジティブなのに対し、ボーカルは儚げ。元気一杯に歌っていないのが逆に良い。「どこにだって咲く花だけど風が吹いても負けないのよ」というフレーズが、彼女たちの全てを言い表している。本当、どこにだっていそうな歌唱力の姉ちゃんたちだけど、良い歌にしようとして凄く頑張ってんだよな…。

9. スキ ★★★☆
ガットギターを軸に展開するスパニッシュ歌謡。ジプシーが悩ましく踊っているような図が浮かぶオケ。こういうの、本当に歌謡メロディーにハマるよなぁ。間奏にはアコーディオンソロまで登場。ギターとの絡みがこれまたヨーロピアン。
それにしてもこのアルバム、泣きそうな女の子の歌多いな…。

10. ラストキッス(アルバム・ヴァージョン) ★★☆
打ち込み主体だった一曲目のオケを、フルオーケストラに差し替えたバージョン。壮大な曲調は美しいが、冷たいシンセ主体の原曲の方が歌詞の世界観と合っていると思う。「とりあえずオケだけ差し替えて、曲数稼ぎしてみました」みたいな感じもするし…。

総評★★★☆
シャ乱Q時代、『シングルベッド』『ズルい女』などの女々しいヒット曲を生み出したつんくの歌謡センスと、ジャズ、R&B、スパニッシュなどを取り入れた渋めのアレンジが混ざり合う良盤。渋さ控えめのシンプルなアレンジの曲からはキャッチーを極めたつんくのメロディーセンスも味わえる。派手さは無く、製作段階から「知る人ぞ知るアイドルポップスの名盤」を目指していたかのよう。実際『セカンドモーニング』などと並び、アイドルソングヲタを魅了する作品になった…。歌詞は「優しくて魅力的だけど裏では何やってるかわからない男」に翻弄される女の子ばかりが出てきて、全体的にやや暗い。唯一幸せムードが漂う5曲目も、「どうせこの子も数ヵ月後フラれるんだろうな」と思えてしまう程の儚さが漂っている。こんな歌詞ばかりを書いたつんくの意図が気になるが、「素人より少し歌が上手い程度のアイドルが背伸びをしてクオリティの高いポップスを歌う」という状況に、歌詞の世界観は不思議な程ハマっている。
アレンジャーは小西貴雄(1.5.7.8.9.10)、鈴木俊介(2.6)、河野伸(3.4)。少人数精鋭。この三人が揃ってれば良い作品になるのは必然のようなものである。ハロプロのエース。売れ線ポップスからフリージャズの匂いが漂う楽曲まで幅広く手がける小西の活躍が特に光る。


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