★ Serena ★

カナダ暮らしのエスペランチスト、自然愛好家。
エスペラントやカナダの野草、ネーチャークラブの活動など思いつくままに。

メープル・シロップ

2005-05-03 10:24:39 | カナダの民話
カナダの春はメープル・シロップで始まると言っても過言ではないでしょう。
少なくとも東部の砂糖楓の生える地方では。。。
寒さはまだ厳しいけれど陽射しに春の優しさを感じるようになると砂糖楓の樹液を集める作業が始まります。集めた樹液は煮詰められ、メープル・シロップやメープル・シュガーとして市場に出て行くのですが、春を待ち焦がれていた人々は農園を訪れ出来立てのシロップを掛けたホットケーキを味わい、春の味を噛みしめるのです。それは単に甘い物というだけのことではありません。長い冬から開放される喜びとも重なる嬉々とした季節なのです。

原住民の伝説によると、砂糖楓の樹液は初めからこんな水のようなものではなかったそうなのです。今日はそのお話です。

昔むかし、まだ世界が新しかった時のことです。 
 ギッチー・マニトゥ㊟はなんでも人々が暮らし易いように、楽なようにと作ってくれました。
 狩猟には獲物がたくさんいましたし、天気はいつも気持ち良く晴れていて、楓の木は濃い甘いシロップに満ちていました。メープル・シロップを欲しいときはいつでも楓の木の枝先をちょっと折ってそこから滴り落ちるシロップを集めればいいのです。
 ある日マナボゾー㊟は『友達のアニシナベ族㊟がどうしているか見てこようか…』
といいながら散歩に出ました。そしてインデアン達の村に行ってみると、誰もいません。マナボゾーは廻りを捜しました。湖で釣りをしているのかと思ったのですが、湖には誰もいません。畑を耕しているかと畑に行ってみましたが、そこにも誰もいません。苺を採りに行っているかと思ったのですが、誰も苺など集めてはいませんでした。みんなは村の近くの、楓の林に集まっていました。林の中の地面に仰向けに寝て、口を大きく開けて、楓の枝先から滴り落ちるシロップを舐めていたのです。
 『何たること!』 とマナボゾーは言いました。 『こんなことでは、みんなデブの怠け者になってしまうだけだ』
 マナボゾーは木の皮で作ったバケツを持って川に行きました。そしてバケツに何杯もの水を運んできて、楓の木に登りそのてっぺんから水を注ぎ込みました。濃いシロップは薄められて、わずかに甘さが判る程度の水っぽい樹液になってしまいました。
 『今後はずうーっとこれで行く。』とマナボゾーは言いました。『もうシロップは木から直接取れないぞ。水っぽい樹液だけだ。シロップを欲しかったらバケツに何杯もの樹液を集めなきゃならん。薪を集めて火を焚かなきゃならん。石をその火の中で焼いて、木の幹をくり抜いた桶に溜めた樹液に、煮立つまで何度も何度も入れなきゃならん。わずかなシロップを取るために長い時間働くのだ。そうすればデブで怠け者にはならないし、ギッチー・マニトゥが彼等のために作ってくれたメープル・シロップをもっと有り難く思うだろう。』
 『それだけではない。樹液が取れるのは一年のうちのある期間だけと決めよう。そうすれば、狩や釣りや、苺集めや、畑を耕すことを怠けなくなるだろう。今後はずうーっとこれで行く。』とマナボゾーは言い、今も続いているのです。

㊟ ギッチー・マニトゥはThe Great Spirit、インデアンの神様。
  マナボゾーはOld man、爺ちゃん。ギッチー・マニトゥに仕え、特別な能力をもつ。
  アニシナベ族は俗にオジブェ族とかチパワ族とか呼ばれる部族の昔の名称。

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メープル・シロップの採取

メープル・シロップが取れるのはマナボゾーが決めたように一年の内の決まった時期だけです。
早春の、日中は暖かく夜は凍るほど寒い約一ヶ月余りがその時期で、この頃は芽吹きはじめる葉の先に栄養分を送ろうと木が活動を始め、樹液の流れが活発になります。そこで幹に穴を開け滴り落ちる樹液を人間が横取りするのです。
インデアンの時代にはマナボゾーが言うように木の皮のバケツを使い、それに溜めた樹液を2メートル位の長さの木を横にしてくり抜いた細長い桶に集め、熱く焼いた石を何個も入れることを気長に繰り返し煮詰めたものでした。
木の皮のバケツはアルミのバケツに変わり、木をくり抜いた桶は鉄の鍋に変わりました。それもやがて底の平らなステンレスの四角な鍋に変わり、最近では木の幹に下げるバケツは省いてビニールのチューブを幹に差込み直接小屋のステンレスの鍋まで運ぶようになっています。
一本の「砂糖楓」の木から採れる樹液は約180リッター程度で、マナボゾーが怒って薄めてしまったのですから、『水』と呼ばれることからも判るように非常に薄いものです。これを40分の1に煮詰めます。つまり一本の楓から採れるシロップは一年にたったの4.5リッター程度です。
東カナダに住む人々にとって春のこの行事は特別な意味を持つようで、各地で楓糖採取の、いささかお祭り騒ぎの行事が行われ、長い冬からの開放という喜びだけではない詩情を感じます。
最も多く採れるのはケベック州(80%)ですが、オンタリオ州(15%)やプリンス・エドワード島などマリタイム地方、米国のニュー・イングランド地方でも採れます。
ナイアガラ・フォールス付近では私営の農家の他、ボールス・フォールス自然保護区でこの行事を楽しめます。
メープル・シロップは日本語では『楓糖』ですが、最近では『メープル・シロップ』として知られるようになり、『楓糖』といっても通じなく戸惑うこともしばしば。楓なら日本にもたくさんあります。楓の木ならどの木からでもシロップを採ることが出来るので、試してみませんか?
最も糖分の多い砂糖楓の木が当然効率はいいわけですけど。

今日の写真は樹齢五百年余の砂糖楓、カンフォト・メープルです。
カンフォト家(農家)の敷地跡に今も立っていて、この種は未だに子孫を増やしています。



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3 コメント

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Unknown (glimi)
2005-05-03 22:42:20
絵本になりそうなお話ですね!
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ヒメカタクリ (雑草)
2008-04-13 08:00:33
すばらしい花、メルヘンの世界に入ったここちです。
ところでおわかりでしたらお教えくだされたく。
ご紹介のヒメカタクリは、日本のカタクリ、まだらな葉の模様があって、紫色の花がさくものとはどのようにちがうのでしょうか。
本日NHKでは茨城県の山奥にある日本のカタクリをヒメカタクリと言っていました。
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雑草さんへ (serena)
2008-04-13 18:37:32
何か勘違いしてらっしゃるようですよ。
このページにはカタクリはでてきませんし、
カタクリについての記事は黄花カタクリですし、「ヒメカタクリ」関連記事はリンクを張ってありますし。。。

それから、お宅へのリンクは繋がりませんでしたよ。
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