さて、なんで関数なのかは考えてはいけない第511回は、
タイトル:海神の晩餐
著者:若竹七海
文庫名:講談社文庫
であります。
若竹七海のミステリ長編です。
資産家の三代目である主人公が、横浜~バンクーバーまでの船旅で遭遇する事件を描いた力作。
唯一の取り柄である英語力を利用して、欧米の探偵小説を読み漁る日々を続けている青年・本山高一郎。
資産家の三代目であり、何不自由なく暮らすことに慣れきっている彼は、先行きを心配した家族の提案により、渡米することになる。
面倒な手続きを終え、ようやく乗船というところで、一人の友人が尋ねてきた……あるものを買って欲しいと言うのだ。
豪華客船・氷川丸での船旅が始まった。
偶然乗り合わせていた友人・牧野や日系カナダ人のサラ等、気のいい人々と共に高一郎は楽しい時間を過ごす。
酔って記憶を無くすハプニングもあったが、おおむね旅は順調だった――誰かが船室に忍び込むという事件が起こるまでは。
一九三二年という時代設定をフルに生かした作品です。
加奈陀(カナダ)、晩香波(バンクーバー)といった表記もそうですが、登場人物達の会話、思想に当時の情勢が色濃く出ているのが上手い。
のほほんとした高一郎が旅を経て、日本・中国・アメリカの関係について真面目に考えるようになるという、成長物語の要素も入っています。
話の鍵になっているのものの一つが、出発前に高一郎が友人から買った短編小説。
ジャック・フュートレルという、かのタイタニックと運命を共にした作家の遺稿で、これを巡ってちょっとした事件が起こります。
ただ、これ絡みのミステリは……盛り上げるだけ盛り上げといて、かなり中途半端な形でケリが付けられているので、期待しすぎると肩すかしを食うかも。
船旅の描写はかなり秀逸です。
いつものように何かを食べるシーンは多いし、低気圧に襲われることもあるし、サラの弟・ミチオの視点によるちょっと変わった描写などもあり、と盛りだくさん。
高一郎は一等船客ですが、事件の絡みで三等船室を訪れるシーンもあり、そこで両者の格差が上手く描かれています。
登場人物がとにかく多いのですが、犯人候補、というよりは気のいい旅仲間といった描かれ方をしているのもポイント高し。
特に各人強烈な個性を持っているわけではないけど、ちょっとした枝葉のエピソードで、背後にあるものを見せてくれます。
ある意味探偵役である、刑事・張大人が国籍について語る下りは結構好き。
ミステリとしてはイマイチだけど、青春小説としてはいい感じです、オススメ。(何かこれ、『閉ざされた夏』の時も書いた気が……)
賛否両論なエピローグですが、私はかなり好きです。
ハッピーエンドで笑い合う――そういう物語ではないと思うので。
――【つれづれナビ!】――
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タイトル:海神の晩餐
著者:若竹七海
文庫名:講談社文庫
であります。
若竹七海のミステリ長編です。
資産家の三代目である主人公が、横浜~バンクーバーまでの船旅で遭遇する事件を描いた力作。
唯一の取り柄である英語力を利用して、欧米の探偵小説を読み漁る日々を続けている青年・本山高一郎。
資産家の三代目であり、何不自由なく暮らすことに慣れきっている彼は、先行きを心配した家族の提案により、渡米することになる。
面倒な手続きを終え、ようやく乗船というところで、一人の友人が尋ねてきた……あるものを買って欲しいと言うのだ。
豪華客船・氷川丸での船旅が始まった。
偶然乗り合わせていた友人・牧野や日系カナダ人のサラ等、気のいい人々と共に高一郎は楽しい時間を過ごす。
酔って記憶を無くすハプニングもあったが、おおむね旅は順調だった――誰かが船室に忍び込むという事件が起こるまでは。
一九三二年という時代設定をフルに生かした作品です。
加奈陀(カナダ)、晩香波(バンクーバー)といった表記もそうですが、登場人物達の会話、思想に当時の情勢が色濃く出ているのが上手い。
のほほんとした高一郎が旅を経て、日本・中国・アメリカの関係について真面目に考えるようになるという、成長物語の要素も入っています。
話の鍵になっているのものの一つが、出発前に高一郎が友人から買った短編小説。
ジャック・フュートレルという、かのタイタニックと運命を共にした作家の遺稿で、これを巡ってちょっとした事件が起こります。
ただ、これ絡みのミステリは……盛り上げるだけ盛り上げといて、かなり中途半端な形でケリが付けられているので、期待しすぎると肩すかしを食うかも。
船旅の描写はかなり秀逸です。
いつものように何かを食べるシーンは多いし、低気圧に襲われることもあるし、サラの弟・ミチオの視点によるちょっと変わった描写などもあり、と盛りだくさん。
高一郎は一等船客ですが、事件の絡みで三等船室を訪れるシーンもあり、そこで両者の格差が上手く描かれています。
登場人物がとにかく多いのですが、犯人候補、というよりは気のいい旅仲間といった描かれ方をしているのもポイント高し。
特に各人強烈な個性を持っているわけではないけど、ちょっとした枝葉のエピソードで、背後にあるものを見せてくれます。
ある意味探偵役である、刑事・張大人が国籍について語る下りは結構好き。
ミステリとしてはイマイチだけど、青春小説としてはいい感じです、オススメ。(何かこれ、『閉ざされた夏』の時も書いた気が……)
賛否両論なエピローグですが、私はかなり好きです。
ハッピーエンドで笑い合う――そういう物語ではないと思うので。
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