つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

十一人いるかも知れない

2006-04-18 23:06:38 | ミステリ
さて、ここの所ずっとミステリ漬けな第504回は、

タイトル:陽だまりの迷宮
著者:青井夏海
文庫名:ハルキ文庫

であります。

お初の作家さんです。
両親の再婚の関係で十一人に膨れあがった姉弟、の末っ子として生きる主人公が、身近に起こる事件に振り回されていく連作ミステリ。
子供の立場だけど中身は大人といった感じの主人公は、自分一人では問題を解決することができず、最後に下宿人のヨモギさんに頼る、というのがパターン。

連作短編なので、一つずつ感想を書いていきます。

『黄色い鞄と青いヒトデ』……十一人姉弟の末っ子にして、生まれつき身体の弱い小学三年生、大村生夫。自宅で寝込んでいた彼は、窓の外の叫び声を聞いて目を覚ました。よくある自転車同士の正面衝突事故。だが、それはある事件の前触れだった――。姉九人、兄一人という凄まじく偏った人口比の中で育ち、つつましく生きることを覚えた主人公を描く一作目。と言っても、実際に出てくるのはすぐ上の姉三人ぐらい。問題を持ち込んできた兄弟のいびつな上下関係に、どこか羨望を覚えてしまう生夫の心情が丁寧に描かれている。トリックと呼べる程のものはないが、ヨモギさんの謎解きはかなり筋が通っていて、いい。

『届かない声』……今まで取ることを許されなかった電話に、生夫も出ていいことになった。喜び勇んで電話対応するが、なぜか、彼が取る時に限って無言電話がかかってくる。それと時期を同じくして、既婚者である上から二番目の姉が一つのトラブルを持ち込んできた――。自分の身近な出来事を全部一つの線にまとめてしまおうとする主人公の悪戦苦闘が微笑ましい。ある意味、推理物の王道なのだが、そうそうすべての事件がつながるものかという作者の笑い声が聞こえてきそうだ。にしても、友達の家の弟(主人公のこと)をダシにして自分の意志を通そうとする今回のゲストさんって……腹立つなぁ。

『クリスマスのおくりもの』……ある雨の日、玄関に置かれていた絵本。誰かに対するプレゼントにしてはあまりにぞんざいな扱いだったが、双子の姉はその絵本を渡せば両思いになれるという噂話を持ち出して盛り上がる。生夫は、他の姉弟にも心当たりがないか尋ねてみるが――。なんかすっきりしない話。この話に限ったことではないが、本作の推理はすべてヨモギさんの推測、だけで終わるようになっている。それでも前二作に関しては、まー仕方ないか、みたいな終わり方してたのでいいが、これに関しては謎が放り投げられたままで終わっている。

えーと……。
秋吉家シリーズって言っていいですか?(笑)

三つの短編の前後にプロローグとエピローグがあり、十五年後の生夫が他の姉弟と再会するシーンが描かれています。
身体弱い、女性陣は強い、唯一の男兄弟である兄はハッキリ言って冷たい、とかなり縮こまって生きてきた生夫が過去を振り返る形式は結構好き。
ヨモギさんに関する話は無茶苦茶強引だけど……そこから生まれるラストシーンが凄く綺麗なのでアリにしときます。(笑)

実際の小学生でも遭遇しそうな事件をさらりと描いています、オススメ。
何か身勝手な人ばっかり出てきますが、主人公の立場が弱いだけ……と思っておこう。