つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

死人が見ている……

2006-04-19 19:34:58 | ミステリ+ホラー
さて、そういえば読んでなかった第505回は、

タイトル:夏と花火と私の死体
著者:乙一
文庫名:集英社文庫

であります。

業界を震撼させた、乙一のデビュー作。
死人の視点で語られる、ひと夏の恐怖の物語です。

九歳の夏、五月は友人の弥生とともに木登りをしていた。
弥生の兄・健を待ちながら、二人はとりとめもない話を続ける。
話が家の事情の話になった時、弥生は意外な告白をした。

弥生の秘密を知ってしまったことに気後れして、五月も一つの告白をした。
それがどういう意味を持つかも解らずに……。
健がやってくるのが見えた直後、弥生の手に押されて、五月は木から転落した――。

石の上に落ちて死んだ後も、五月は健と弥生を見ていた。
弥生は自分が殺人を犯したことを伏せたまま泣きじゃくっている。
いつも優しい笑みを見せる健が言った――死体をどこかに隠そう。

非常に合理的な話です。
弥生が主人公を殺すことから、健がその死体を隠そうとして計画を立てる所まで、登場人物の行動は非常に理に適っています。
乙一作品には、異常なシチュエーションに置かれた人々が、道徳とか人情とかすっぱ抜いて計算だけで動く話が多いのですが、これもその一つかと。

あらゆる登場人物を観察し、ついでに心まで覗いてしまう五月の視点が面白い。
殺されたということについて、何の感情も抱いていないのです。
淡々と、兄妹が自分の死体を処理しているのを眺めているだけで、結果がどうなるかについては特に興味がないといった感じ。

では彼らはロボットみたいな存在なのかと言うと、そうでもない。
弥生の動機は感情から来たものだし、極めて冷静に死体を処理する健も微妙な所で内面を見せます。
彼らにはブレーキがないだけなのです。子供だから、と言ってしまうこともできるのですが、ラストにそれを覆すような恐い真相が……。(秘密)

ちょっと気になったのが、主人公の一人称なのに、幽霊となる以前から視点がふらふらしてる部分があること、それと、なぜかラストでいきなり地の文の口調が変わってしまうこと。
単純にミスなのかな……と思って読み返してみたら、冒頭一行目でいきなり解答が示されてました。
答え言っちゃうと、これ回想なのです、やられました。(爆)

物凄くオススメってわけではないけど、ファンなら一度は読んでみて欲しい不思議な作品です、短いし。
ただ、一緒に掲載されている『優子』はイマイチかなぁ……情報が少なすぎて、何回でもどんでん返しが可能になっているのがすっきりしない。



――【つれづれナビ!】――
 ◆ 『乙一』のまとめページへ
 ◇ 『つれづれ総合案内所』へ