小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

東京都知事選――最有力馬に躍り出た鳥越氏は何もわかっていないのではないか?

2016-07-14 05:41:05 | Weblog
 すったもんだの挙句、都知事選から共産党系の宇都宮氏が立候補を断念し、野党4党統一候補としてジャーナリストの鳥越氏が急きょ立候補することになった。一方自民もすったもんだの挙句すでに立候補を表明していた小池氏をソデにして、元岩手県知事・総務相の増田氏を公認候補にした。与党も野党も、都知事という立場や職責をどう考えているのだろうか、これが民主主義の在り方と思っていたらとんでもない勘違いだ。
 いま13日の深夜。宇都宮氏が下りた異常野党は一本化し、鳥越氏が極めて有利になった。当然自民も候補を一本化しないと与党票が増田・小池の両氏に分かれて不利な戦いになることが考えられる。しかも小池氏は自民党員として、後任が得られなくても出馬する意向を変えていない。女性は頑固だといえば、確かにそういう傾向はあるが、今回の場合私はあくまで小池氏に初心を貫いてほしいと思っている。
 昨日午後2時から宇都宮氏を含めて4候補者の公開討論が行われた。これは好き嫌いを別にして都知事選に立候補する4人の志を聞いていて、一番みっともなかったのは鳥越氏だった。鳥越氏は参院選の結果を見て、安倍政権の独裁政治にストップをかけなければならないと思って急きょ都知事選に立候補することにしたようだ。ただ立候補に際して野党4党の統一候補を条件にしていた。
 鳥越氏が参院選で改憲派(与党プラス改憲容認グループ)が参院でも3分の2を超えたことで危機感を抱いたことが都知事選立候補の理由だという。が、東京都に憲法を改正する権利もなければ、阻止する権限もない。もともと今回の参院選では与党の圧勝が予想されていた。国政に参加したいのであれば参院選に出馬して改憲阻止を訴えればよかった。それだけの事だ。
 実際都知事選への出馬を表明した時点で、鳥越氏は都が抱えている問題を何一つわかっていなかった。都政は国の在り方(外交関係を除く)を根底から変える要素を持っている。
 私はもともと東京オリンピック・パラリンピックの開催に疑問を持っていた。1964年の東京オリンピックやその後の大阪万博は間違いなく日本の戦後復興の象徴であったし、この二つのイベントの開催成功で日本は高度経済成長への足掛かりを築いた。東京と大阪という日本の東西2大都市のインフラ整備によって、日本経済は飛躍的に回復への道を突き進んだ。
 その当時と今では東京が日本経済の起爆力になりうるか、という疑問がどうしても私のバカな頭から離れない。
 いま東京が抱える問題は数えきれないくらいある。
 まず一極集中をどうするか。安倍総理は地方の活性化を成長戦略の根幹に据えている。わざわざ地方創成省を作り、ライバルの石破氏を大臣に据えたくらいだ。石破氏に地方創成の音頭をとらせておいて、一方では東京一極集中の計画を進めている。こういうのを「政治的詐欺」と私は言いたい。
 鳥越氏が都知事を目指すのであれば、まず東京一極集中のオリンピックの見直しから始めるべきではないのか。東京はもともと日本で一番裕福な自治体だ。これ以上カネを稼ぐ必要があるのか。
 鳥越氏は出馬記者会見で「東京都の(特殊合計)出生率は1・4だ。もっと上げなければならない」と発言し、急きょスタッフから間違いを指摘されて「東京の出生率は1.1で日本最低だ」と訂正した。お粗末を通り過ぎている。彼はジャーナリストであり、テレビの報道番組のキャスターもしていた。東京が抱えている問題は、テレビ局のスタッフが鳥越氏に伝えているはずだ。にもかかわらず東京に限らず日本全体が抱えている少子高齢化問題についてこんなお粗末な発言をすること自体、都知事に出馬する資格を問われても仕方がないだろう。
 細かいことは多少間違えても仕方がないと思う。鳥越氏は都政についての専門ジャーナリストではないから、「ご愛嬌」ですむ範囲なら会見を見ていてもほほえましく思えないでもない。が、都政が抱えている大きな問題について「これから勉強します」で、果たして都知事の資格があると思っているのか。「参院選で野党が負けたから危機感を持った」――都知事になったら安倍政権を打倒できるとでも思っていたのだろうか。
 みっともなかったのは会見に出席したマスコミの記者もそうだ。「都知事として何ができるのか、都知事になったら国政を変えられると思っているのか」という厳しい質問が誰からも出なかったことだ。さらに、私だったら「あなたは都知事になる資格がない。都が抱えている大きな問題はこれから勉強する、という理由が通るなら、たとえば東大の入試を受ける際に、東大に入学してから東大で勉強すべきことを勉強する、と言っているに等しい」と批判する。
 もちろん都知事選の結果はふたを開けるまでわからない。ひょっとして野党4党の統一候補になった鳥越氏が都知事になる可能性は否定しない。ましてや与党が小池氏と増田氏との分裂選挙になり、共産党が推薦していた宇都宮氏が立候補断念した以上、鳥越氏が最も有利な立場になる可能性は否定できない。結果、都が抱えている問題を何も知らない鳥越氏が都知事になったら、都庁官僚や都議会の言いなりになることはほぼ間違いない。だって、自分の都政に対する信念がない人が都知事になるのだから、そうなるのは当然の帰結と言えよう。
 はっきり言えば、私も含めてジャーナリストはアウトサイダーだ。アウトサイダーだから好き勝手なことが言える。結果責任は取らない。というより、ジャーナリストは書いたり喋ったりするだけで、国や地方の政策を決定する権限は一切ないからだ。
 ジャーナリストは責任を伴わないから、ある意味では極めて理想主義的主張を述べることが出来る。たとえば先の述べた東京の特殊合計出生率に関して言えば、ジャーナリストはしばしば「保育所を増設して待機児童を解消せよ」と主張する。その結果についてジャーナリストは一切責任を持たない。
 保育所を象絶して待機児童を0にするという壮大な実験をした自治体がある。日本第3の都市・横浜だ。いったん待機児童ゼロを実現したが、横浜市への若夫婦の流入が激増し保育所が足りなくなった。
 横浜市はまた保育所の造絶をしたが流入人口のほうが多く、いまはお手上げ状態だ。政治というものはそういうものだ。水は「高きより低きに流れる」の格言がそういう現象の心理をついている。
 少子高齢化と核家族化が進行するにつれ、人は生活と仕事の利便性が高いところに移り住む。かつて大家族時代だった時代は、子供の面倒は祖父や祖母が見てくれた。私自身もそういう大家族世帯で育った。が、核家族時代になると子供の面倒は父母が見なければならない。私の世代はまだ高度経済成長時代だったから、すでに核家族化は進んでいたが、女性は結婚すれば家庭に入り子育てに専念するのが通常だった。
 が、高度経済成長時代が終焉し、夫の収入だけでは家族を養えない時代になった。それだけではなく、女性の高学歴化が急速に進み、女性の生きがいは家庭を守る・子育てをする、というだけでは満足できなくなってきた。法律もそうした女性の生きがいをバックアップした。男女雇用均等法が成立し、女性の働き甲斐は大きく広がった。
 総務省はまだ調査をしていないが、女性の特殊合計出生率を女性の学歴別に調べれば、おそらく高学歴女性の特殊合計出生率は低学歴女性のそれに比して相当の格差があるはずだ。もちろん私は女性の高学歴化を否定しているわけではない。ただ、そうした女性の社会進出を社会がどうバックアップしていくかの発想を官僚が持ち合わせていないだけだ。
 先に述べた横浜市のケースでいえば、待機児童0を目指した政策は少子高齢化に歯止めをかけることが目的だった。つまり待機児童0にすれば特殊合計出生率が向上するだろうと考えたのだ。これが官僚の、官僚たる発想だった。
 が、結果的には横浜市の特殊合計出生率は、かえって低下した。出産後の女性の働く機会がかえって増加したからだ。女性の働く機会が増加すれば、当然ながら子供を産む機会は減る。
 これは残念ながら世界共通の現象で、女性の高学歴化が進んでいる先進国では頭を抱えている問題だ。こうした問題にどう取り組むかが、今回の都知事選で問われているのだが、どの候補も「保育所を増設して待機児童を減らす」としか言わない。保育所を増やして待機児童を減らせば、女性の特殊合計出生率はますます減るということが分かっていないほどのバカばっかりなのか、分かっていても対策が考えられないから女性の票集めのために砂上の楼閣的計画を述べているだけなのか。
 私は東京都民ではないが、政治家はいつまで「こういう政策を行えば、こういうメリットもあるが、半面こういうデメリットも生じうる」となぜ本当のことを有権者に言わないのか。どんな政策でもメリットもあればデメリットもある。両方を有権者に伝えて有権者に選ばせるのが本当の民主主義だと思うのだが…。

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