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小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

「1票の格差」を単に格差是正に終わらせるべきではない !!

2013-03-27 13:57:15 | Weblog
 全国各地の高等裁判所で、先の衆議院議員選挙が違憲と認定され、無効との判決さえ出ている。
 そもそもこうした判決が続出しているのは最高裁判所が2年も前に、現行の選挙制度は1票の重みに大きな差異がありすぎ憲法に違反しているとの判断を下し、その理由として地方に手厚く議席を配分する「1人別枠方式」を憲法違反の原因として廃止を求めたにもかかわらず、国会が選挙制度改革に本腰を入れて取り組まなかったことが高裁での判決に反映されたと言ってよいだろう。
 「1人別枠方式」というのは1996年10月の第41回総選挙以来導入された小選挙区比例代表並立制度導入の際に設けられた、小選挙区300を区割りする際に47都道府県に各1人を割り当てるという制度である。つまり小選挙区制で選出される議員は300人なのだが、そのうち47人は「実質的」には「1人別枠方式」の恩恵で選ばれた議員だということになる。これが最高裁で「1票の格差を生んだ原因」と断罪されたのである。「法の下での平等」という憲法の理念に違反するという趣旨である。
 もう少しわかりやすく説明しよう。
 例えば神奈川県の場合、253(300-47)の「実質的な」小選挙区制で割り振られる選挙区は17区になるはずなのだが、そこに別枠の1人が加算されることで「実際の」選挙区は18区になり、小選挙区での当選者は18人となる。この水増し議員に投じられた1票の重みは、当然のことながら都市部より地方の農村地帯のほうが重くなる。例えば日本一人口が多い東京都の場合は1316万人、一方日本一人口が少ない鳥取県の場合59万人である(いずれも2010年国勢調査による)。「1人別枠方式」で当選した議員が獲得した1票の重みはなんと22.3倍にも上る。この「1人別枠方式」による水増し議員に投じられた1票の重さが小選挙区で当選した議員300人が獲得した票の格差2.43倍を生んだ最大の原因、というのが最高裁の判断だった。
 
 民主主義というのは、絶対的な理想的政治形態ではない。大哲学者プラトンは「民主主義は衆愚政治(愚民政治とも訳されている)」と言ったほどである。
 現に最高裁に否定された「1人別枠方式」にしても、東京都民が日本人全人口の10%を超え、神奈川・千葉・埼玉など首都圏を含めると、全人口の27.8%、この首都圏4都県に大阪・愛知を加えると、なんと日本人の40.5%が集中していることになる。なお大阪・愛知は単独の府県の人口だけを計算に入れたが、関西圏・中部圏まで含めると日本人の6割以上がこの3大都市圏に集中しているのだ。では多数決を原則とする民主主義を選挙制度や法律にダイレクトに導入するとどうなるか。結果は火を見るより明らかだろう。
 民主主義には多くの欠陥があるが、かといって民主主義にとってかわるだけのよりベターな政治形態をまだ人類は発明できていない。ひょっとしたら永遠に発明不可能かもしれない。そうした状況の中で私たちにできることは民主主義の欠陥を理解した上で、より良い政治を実現すること、言い換えれば民主主義をより成熟させていくこと――それしか現実問題を解決する方法はない。
 そうした観点から相次ぐ違憲判決を契機に、よりベターな選挙制度をどうやったら構築できるか考えてみた。
 まず、民主主義政治を標榜する国の選挙制度は基本的に議員たちが決めているということに根本的な問題があることにご理解をいただきたい。国会議員に限らず、選挙でリーダーを選ぶ組織の構成員が、自分たちにとって不利な制度を作るわけがないということである。だから、その組織の構成員には選挙制度を作る資格を与えないことである。つまり国会には選挙制度についての権限を与えず、裁判所(地方・高等・最高)の中に選挙制度設定部会を設け(常設である必要はない。国民や市民の要請に応じて随時開催すればよい)、そこで地方選挙や国政選挙制度についての議論を尽くしたうえで国民や市民に制度の是非を問う――そういう仕組みにしたらどうか。
 自民党は55年体制以来、都市部を中心に支持層を固めていた社会党系(旧総評などを構成していた大企業の労働者は大都市圏に集中していた)に対し、農村などの地方を地盤にして政権を維持してきた。だから地方票を失うことは自民党にとって死活の問題だった。
 本来都市と地方の対立、あるいは格差を解消するのは政治的課題であり、それこそ民主主義の仕組みの中で「多数の利益だけを優先すべきではない」と国民に訴えるのが民主主義の成熟を図る最善の手段である。が、依然として地方票にしがみつくため地方重視の選挙制度である「1人別枠方式」を作り出すようなことをするから、最高裁から憲法違反として断罪される羽目になったのだ。
 その結果、安倍総理が今この「1人別枠方式」に苦しんでいる。地方出身の国会議員が「TPP交渉参加反対」で大団結を組み、安倍総理の足元を揺さぶっているからだ。
 TPP交渉に参加して日本が5年後、10年後ではなく50年後、100年後の未来を構築できるか否かは、自民党がどうなるかこうなるかの問題ではない。
 1票の格差の問題を単に選挙制度の問題に終わらせるのではなく、日本が民主主義の欠陥をどう克服し成熟させていくかの試金石にしたい。

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