11月9日に投稿したブログ『電通がなぜ?……「超一流企業」がブラック化した理由』の訪問者・閲覧者が毎日増え続けている状況だが、どうしても緊急に投稿しなければならない事情が生じた。米大統領選の結果を巡って世界中に大混乱が生じているからだ。
米大統領選で、なぜ大番狂わせが生じたのか。
残念ながら日本のメディアも政治・外交評論家もまったく分かっていない。12日の『NHKスペシャル』では「隠れトランプ」の存在をつかめなかったと分析し、13日のTBS『サンデー』は放送時間を大幅に延長して「ポピュリズムの浸透」と総括した。見当はずれもいいところ、と言いたい。
トランプ氏の選挙戦術は、確かにメディアや既存の政治家の意表をつくものだった。「きわめて巧みだった」と言えなくもない。ことさらに挑発的言動を繰り返し(メディアは「暴言王」と評したが)、既存の権威に立ち向かった。最初は「何をバカバカしいことを言っているのだ」と米国民の多くもそう受け取っていたはずだ。が、「ウソも100回つけば信じて貰える」という格言もある。繰り返し繰り返しトランプ氏の挑発的言動(ネガティブ・キャンペーン)を耳にした米国民の中に、「本当にそうかもしれない」という思いが生じ始めたのが、雪崩現象的なトランプ勝利の要因の一つであろう。
が、決定的な要因は、これだ。
問題はアメリカの選挙制度にある。アメリカは大半の州で選挙人(民主党または共和党の大統領候補に票を投じる権利を持つ人)の総取り制である。たとえば「この州を制する候補が大統領になる」という神話が定着しているほどの激戦区・オハイオ州の選挙人は18人。全米の選挙人総数は538人で、過半数は270人。オハイオ州の選挙人は勝利に必要な270人のわずか6.6%にすぎない。なのに、なぜオハイオ州がそれほど重要な地位を占めているのか。そのことを理解しているジャーナリストや政治・外交評論家は一人もいない。
おっと、私だけは理解しているが…。
実はオハイオ州は地政学的にきわめて重要な地位を占めている。アメリカ本土だけでも東海岸と西海岸では3時間の時差があり、オハイオ州は東海岸と1時間の時差がある。アメリカでも大半の州はそれぞれの州の標準時で午前8時から投票が行われるが、なかには午前0時から投票が行われる州もある。
一般的に民主党は東海岸に面した州と西海岸に面した州に強く、共和党はその中間に位置している州に強いとされてきた。日本のように時差がなく、全国一斉に同時刻の投開票が行われる国と違って、アメリカは標準時の差により東海岸から順次投開票が行われる。
日本の選挙もそうだが、メディアは投票を済ませた人から「だれに投票したか」を聞く。いわゆる「出口調査」である。そのため日本ではメディアが『選挙特番』では午後8時の開票開始時点で、バタバタと「当確者」を発表する。もちろん開票率ゼロなのにだ。それはアメリカでも同様で、東海岸に面した州の開票結果を開票率ゼロの時点で各メディアは発表する。その報道が有権者の投票行動に大きな影響を与えるのが、実は民主党支持層と共和党支持層が拮抗しているオハイオ州なのである。つまりアナウンス効果が最初に大きく発揮される州なのである。そしてオハイオ州の開票報道が次々に他の州の有権者の投票行動に反映していく。「オハイオ州を制したものが大統領になる」という神話はこうして定着するようになったのである。そのオハイオ州をトランプ氏が制した。流れが一気に加速したのはそのためだ。
実際、全米の有権者の投票総数はヒラリー氏のほうがトランプ氏より上回っていたが、選挙人総取り制(「ドント方式」という)によってトランプ氏が獲得した選挙人のほうがヒラリー氏を上回ったため、トランプ氏が次期大統領になれたというわけだ。
トランプ氏は周知のように政治経験がまったくない。彼はなぜ共和党から出馬しようとしたのか。はっきり言えば民主党から出馬しても、知名度や政治経験豊富なヒラリー氏に勝ち目がないからにすぎなかった。実際、彼の党員歴を見ればそのことが分かる。
① 1989~1999 共和党
② 1999~2001 アメリカ合衆国改革党
③ 2001~2009 民主党
④ 2009~2011 共和党
⑤ 短期間だが、どの政党にも所属していない。おそらく、この時期大統領候補に名乗りを上げるにはどの党を選ぶべきかを考えていたと思われる。
⑥ 2012~現在 共和党
そうした経歴から、トランプ氏はどういう選挙戦術をとれば共和党の大統領候補になれ、共和党の大統領候補になった場合、どういう選挙戦術をとればヒラリー氏に勝てるかを必死に考えたと思う。
その結果、彼が考え出したのが、民主党の選挙基盤を根こそぎ自分の味方にすることだった。そこにビジネスマンとして大成功を収めた経験が生かされたのだろう。
日本ではビジネス社会でも競争相手に対するネガティブ・キャンペーンはかえって消費者に不愉快な思いをさせるケースが多く、ネガティブ・キャンペーンはほとんど行われない。私が知っている限り日産が新型サニーを売り出した時、トヨタのカローラを念頭に置いて(つまり名指しはせず)「隣の車が小さく見えます」というネガティブ・キャンペーンを行ったのが唯一のケースではなかったかと思う。
が、アメリカではビジネス社会でのネガティブ・キャンペーンの張り合いは日常茶飯事であり、トランプ氏もその手法でビジネスを成功させてきたのではないか。
が、選挙人獲得競争で、トランプ氏は多分自分でも予想していなかったほどの地滑り的勝利を収めてしまった。だが、ビジネス社会と違って大統領選挙におけるネガティブ・キャンペーンは有権者に対する公約でもある。大統領になった途端、トランプ氏は「君子、豹変す」でネガティブ・キャンペーンの公約を次々に修正し始めた。
トランプ氏が大統領になった途端全米の大都市で「反トランプ」デモが爆発的に生じたからではない。もともとトランプ氏のネガティブ・キャンペーンは単なるビジネス的手法にすぎなかったが、国民に対する約束であることに、トランプ氏がようやく気が付いたためだ。
そうなると、トランプ氏は、国民とくにトランプ氏の選挙人に票を投じた有権者に対する裏切り行為を行ったことになる。既に民主党の大きな選挙基盤であり、選挙人もアメリカ最大の55人を擁するカリフォルニア州では、アメリカ合衆国からの離脱運動が始まっており、ネットで「ドナルド・トランプ」を検索すると早くも「暗殺」という項目が出ているほどだ。
言っておくが、もしトランプ氏を暗殺するとしたら、それはヒラリー氏の支持者ではなく、トランプ氏を支持した有権者だ。
米大統領選で、なぜ大番狂わせが生じたのか。
残念ながら日本のメディアも政治・外交評論家もまったく分かっていない。12日の『NHKスペシャル』では「隠れトランプ」の存在をつかめなかったと分析し、13日のTBS『サンデー』は放送時間を大幅に延長して「ポピュリズムの浸透」と総括した。見当はずれもいいところ、と言いたい。
トランプ氏の選挙戦術は、確かにメディアや既存の政治家の意表をつくものだった。「きわめて巧みだった」と言えなくもない。ことさらに挑発的言動を繰り返し(メディアは「暴言王」と評したが)、既存の権威に立ち向かった。最初は「何をバカバカしいことを言っているのだ」と米国民の多くもそう受け取っていたはずだ。が、「ウソも100回つけば信じて貰える」という格言もある。繰り返し繰り返しトランプ氏の挑発的言動(ネガティブ・キャンペーン)を耳にした米国民の中に、「本当にそうかもしれない」という思いが生じ始めたのが、雪崩現象的なトランプ勝利の要因の一つであろう。
が、決定的な要因は、これだ。
問題はアメリカの選挙制度にある。アメリカは大半の州で選挙人(民主党または共和党の大統領候補に票を投じる権利を持つ人)の総取り制である。たとえば「この州を制する候補が大統領になる」という神話が定着しているほどの激戦区・オハイオ州の選挙人は18人。全米の選挙人総数は538人で、過半数は270人。オハイオ州の選挙人は勝利に必要な270人のわずか6.6%にすぎない。なのに、なぜオハイオ州がそれほど重要な地位を占めているのか。そのことを理解しているジャーナリストや政治・外交評論家は一人もいない。
おっと、私だけは理解しているが…。
実はオハイオ州は地政学的にきわめて重要な地位を占めている。アメリカ本土だけでも東海岸と西海岸では3時間の時差があり、オハイオ州は東海岸と1時間の時差がある。アメリカでも大半の州はそれぞれの州の標準時で午前8時から投票が行われるが、なかには午前0時から投票が行われる州もある。
一般的に民主党は東海岸に面した州と西海岸に面した州に強く、共和党はその中間に位置している州に強いとされてきた。日本のように時差がなく、全国一斉に同時刻の投開票が行われる国と違って、アメリカは標準時の差により東海岸から順次投開票が行われる。
日本の選挙もそうだが、メディアは投票を済ませた人から「だれに投票したか」を聞く。いわゆる「出口調査」である。そのため日本ではメディアが『選挙特番』では午後8時の開票開始時点で、バタバタと「当確者」を発表する。もちろん開票率ゼロなのにだ。それはアメリカでも同様で、東海岸に面した州の開票結果を開票率ゼロの時点で各メディアは発表する。その報道が有権者の投票行動に大きな影響を与えるのが、実は民主党支持層と共和党支持層が拮抗しているオハイオ州なのである。つまりアナウンス効果が最初に大きく発揮される州なのである。そしてオハイオ州の開票報道が次々に他の州の有権者の投票行動に反映していく。「オハイオ州を制したものが大統領になる」という神話はこうして定着するようになったのである。そのオハイオ州をトランプ氏が制した。流れが一気に加速したのはそのためだ。
実際、全米の有権者の投票総数はヒラリー氏のほうがトランプ氏より上回っていたが、選挙人総取り制(「ドント方式」という)によってトランプ氏が獲得した選挙人のほうがヒラリー氏を上回ったため、トランプ氏が次期大統領になれたというわけだ。
トランプ氏は周知のように政治経験がまったくない。彼はなぜ共和党から出馬しようとしたのか。はっきり言えば民主党から出馬しても、知名度や政治経験豊富なヒラリー氏に勝ち目がないからにすぎなかった。実際、彼の党員歴を見ればそのことが分かる。
① 1989~1999 共和党
② 1999~2001 アメリカ合衆国改革党
③ 2001~2009 民主党
④ 2009~2011 共和党
⑤ 短期間だが、どの政党にも所属していない。おそらく、この時期大統領候補に名乗りを上げるにはどの党を選ぶべきかを考えていたと思われる。
⑥ 2012~現在 共和党
そうした経歴から、トランプ氏はどういう選挙戦術をとれば共和党の大統領候補になれ、共和党の大統領候補になった場合、どういう選挙戦術をとればヒラリー氏に勝てるかを必死に考えたと思う。
その結果、彼が考え出したのが、民主党の選挙基盤を根こそぎ自分の味方にすることだった。そこにビジネスマンとして大成功を収めた経験が生かされたのだろう。
日本ではビジネス社会でも競争相手に対するネガティブ・キャンペーンはかえって消費者に不愉快な思いをさせるケースが多く、ネガティブ・キャンペーンはほとんど行われない。私が知っている限り日産が新型サニーを売り出した時、トヨタのカローラを念頭に置いて(つまり名指しはせず)「隣の車が小さく見えます」というネガティブ・キャンペーンを行ったのが唯一のケースではなかったかと思う。
が、アメリカではビジネス社会でのネガティブ・キャンペーンの張り合いは日常茶飯事であり、トランプ氏もその手法でビジネスを成功させてきたのではないか。
が、選挙人獲得競争で、トランプ氏は多分自分でも予想していなかったほどの地滑り的勝利を収めてしまった。だが、ビジネス社会と違って大統領選挙におけるネガティブ・キャンペーンは有権者に対する公約でもある。大統領になった途端、トランプ氏は「君子、豹変す」でネガティブ・キャンペーンの公約を次々に修正し始めた。
トランプ氏が大統領になった途端全米の大都市で「反トランプ」デモが爆発的に生じたからではない。もともとトランプ氏のネガティブ・キャンペーンは単なるビジネス的手法にすぎなかったが、国民に対する約束であることに、トランプ氏がようやく気が付いたためだ。
そうなると、トランプ氏は、国民とくにトランプ氏の選挙人に票を投じた有権者に対する裏切り行為を行ったことになる。既に民主党の大きな選挙基盤であり、選挙人もアメリカ最大の55人を擁するカリフォルニア州では、アメリカ合衆国からの離脱運動が始まっており、ネットで「ドナルド・トランプ」を検索すると早くも「暗殺」という項目が出ているほどだ。
言っておくが、もしトランプ氏を暗殺するとしたら、それはヒラリー氏の支持者ではなく、トランプ氏を支持した有権者だ。