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第234回 感覚に満ちた植物の世界

2017-09-15 | エッセイ

 私が、ヒトという「動物」に生まれてよかったなぁ、とつくづく思うのは、「移動する」自由があるから。

 ヒトには、五感が備わっています。そのおかげで、「移動する」ことができます。
 例えば、目の前の危険を察知して、避けたり、大きくは、生きるに適した環境を求めて、大規模な移動をしたりと、かなり自由度の高い生き方をしています。

 そんな目でみると、「移動しない」という生き方を選んだ植物の存在は、不思議で、不自由至極に映ります。

 雨や風、気温や日照の変化など、まわりの自然は過酷で、刻々変化します。外敵から補食されたり、踏みつけられたり、ヒトから摘み取られたりといった危険が一杯です。

 それでも多くの植物が、「移動せず」、例えば、「アカザ」のようにたくましく成長し、花を咲かせ、実をつけ、子孫を残すという営み、言い方を変えれば、まわりの環境への「反応」(適応)を続けています。

 人間も含めた動物の場合、「反応」のきっかけになるのは、五感という感覚ですが、果たして、植物にも、そのようなものはあるのでしょうか?

 そんな疑問に、最新の研究成果も踏まえて、分かりやすく答えてくれるのが、「植物はそこまで知っている」(ダニエル・チャモヴィッツ 河出文庫)です。

 植物は「見ている」、「匂いを嗅いでいる」、「接触を感じている」、「聞いている」、「位置を感じている」、「憶えている」の6つの章からなっています。いずれも興味深いのですが、「見ている」に絞って、ご紹介しようと思います。

 植物が、日の当る窓際のほうに屈曲する(屈光性)のは、昔から知られた事実です。

 光の中でも、青い光が、屈光性を引き起こすことを発見したのは、ダーウィンと同時代の植物学者のザックスです。
 そして、ダーウィン父子も、イネ科のクサヨシを材料に、実験を重ね、光を感じているのは、先端の部分であること、3時間で、明らかに屈光性を引き起こしていることなどを発見しています。

 「目」こそないものの、「視覚」の存在は確実になりました。さて、「色」の識別、記憶までは出来るのでしょうか。

 20世紀の初め頃、植物には、「長日性」(日が長くなると花を咲かせる)と、その逆の「短日性」のものがあり、人工的に光を当てる時間を変えることで、開花時期を調整できることが知られるようになりました。

 第2次世界大戦の頃には、更に研究が進みます。ダイズのような短日性植物の場合は、夜中にライトを数分あてるだけで、日の短い冬に開花が可能となる一方、アイリスのような長日性の植物に、夜中に数秒ライトを当てるだけで、通常は開花しない真冬に開花が可能になりました。見事に開花しているアイリスの花です。



 結局、植物は、「昼の長さ」ではなく、「暗さが連続している時間」を測っていることが証明されたわけで、科学者の関心は、「色」 へ映ります。

 植物の種類を問わず、夜間は、「赤色」ライトにのみ反応することが分かりました。夜中に当てる光で効果があるのは、「赤色」だけです。青や緑のライトを当てても、開花時期を操作はできませんが、「赤色」なら、数秒で効果がありました。青い光で、屈曲する方向を知り、赤い光で、夜の長さを測っていたのです。色まで識別しているのですね。

 さらに、1950年代になって、驚くべき発見がなされました。

 「遠赤色光」という「赤色光」より波長が長く、たそがれ時にかろうじて見える光があるのですが、これが「赤色光」の効果を打ち消す働きをするというのです。

 両方の光を交互に当てるなどした場合、最後の光のほうを憶えている(!)、つまり、「赤色光」は、昼間の光であり、この光を感じた時が昼間の始まりと認識し、開花スイッチをオンにします。そして、「遠赤色光」は、夕陽であり、それを浴びた時を、(「赤色光」の効果を打ち消して)夜の始まりと認識し、開花スイッチをオフにする、という仕組みなんですね。

 すごい能力です。朝までお酒、朝まで仕事、とかで、昼夜逆転になったりすることもあるヒトなんかより、よっぽどしっかりしてる。

 視覚に限らず、植物にも感覚はあって、それに対して反応(適応)しているという「因果関係」の解明がかなり進んでいることは、本書で十分納得できました。その仕組みを、細胞レベル、遺伝子レベルで解明するのがこれからの課題のようです。

 「動物」と「植物」に、本質的な違いってあるのかな?そんなことを考えました。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。

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