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第310回 大阪弁講座-35 「ぼちぼち行こか」ほか

2019-03-15 | エッセイ

 早いもので、居庵さんが亡くなって、2か月になります。山形のご出身でしたが、大阪での勤務経験を踏まえて、大阪弁講座にも軽妙なコメントをいつもいただいてました。寂しい想いがつのりますが、「大阪弁ファン」の皆様のため、めげずに第35弾をお届けします。

<ぼちぼち行こか>
 監督のこの一言で、勝ち進み、夏の甲子園で優勝した高校があるんですね。どこの高校かは、あとのお楽しみにして、まずは、言葉の解説から。

 「ぼちぼち」にはいくつかの使い方があります。ひとつは、「ゆっくりした速度で」という使い方です。「雨で足元が悪いから、「ぼちぼち」行きや(行きなさい)」のように。
 程度が、ほどほど(良くも悪くもない)である、という用法もあります。
 「儲かってまっか?」「ぼちぼちでんな」で、すっかりお馴染みのはず。

 そして、時間的に「そろそろ」とか、「潮時なので」という感じで使われるケースです。
 「一通り飲み食いしたから、「ぼちぼち」店を変えよか」
 毎晩のように、大阪のあっちこっちで、この言葉が飛び交ってることでしょう。

 さて、この言葉で全国制覇した学校とは、1986年の天理高校(奈良)です。試合の終盤で、リードされたり、不利な試合運びの時に、監督から、この一言が出ると、魔法のように逆転したりして勝ち進み、ついに頂点を極めた、というのです。

 共通語だと「そろそろ行こうか」と、まるで遠足にでも行くのを誘ってるか、飲み会を切り上げる(高校生にはあり得ませんが)時のようなユルい一言で、選手が奮い立って、結果を出した、というのが不思議です。

 でも考えてみれば、監督自身がどこまで意識してたのかは別にして、なかなか深慮遠謀に満ちた言葉ですね。

 プレイをするのは、選手であって、監督ではありません。だけど「行こか」と、監督も、選手も仲間のような気分で、一緒になって「(勝ちに)行こか」と声をかける。日頃の練習を通じての信頼関係と実力があってこそですが、緊迫した試合の中で、何より選手をリラックスさせる効果が大きそうです。

 「ぼちぼち」というのも面白いですね。

 (いままでは、ちょっと手ぇ抜いとっただけやろ。お前らが本気出したら、負ける相手とちゃうわ(違う)。回も押し詰まって来とんねんから(来てるんだから)、「ぼちぼち」本気出したらどうや)

 そんな監督の胸の内が聞こえてきそうです。

 大阪弁にも、キツい命令形はいくらでもありますが、ユルくても、モチーベーションを高める言い方があるもんだと、気づかされました。「ぼちぼち行こか」で掴んだ栄光の場面です。


<せわしない>
 おマケで、もう1語。
「忙しい」とか「手が離せない」という意味です。「せわしないとこ、すんまへんな(お忙しいところ、申し訳ありませんが)」みたいな使い方になります。

 で、この言葉を、自分の置かれている状況に対して使うと、忙しくしてる状況を察してくれよ、見たら分かるやろ、空気を読んでんか、という相手への非難めいたニュアンスが出るんですね。
 「いま、えらく「せわしない」ねん。悪いけど、あとにしてくれるかな?」

 性格を表すこともできます。大阪弁で言う「いらち」、標準語だと「せっかち」「短気」。
 「次から次へと、注文出しよってからに・・・物事は順番や。ホンマに「せわしない」ヤツやな。ええ加減にしときっ」

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。

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