★★★ 芦坊の書きたい放題 ★★★

   
           毎週金曜日更新

第164回 タクシーのアナログとデジタル

2016-05-06 | エッセイ

 関西のタクシー運転手さんは、わりとフレンドリーな人が多い。

「お客さん、勝ってまっせ!」
「勝ってるって、どこが?コートジボワール代表?」
「勝ってるいうたら、タイガースに決まってまんがな」
 そんな、ボケとツッコミの会話が交せるのも関西ならでは。

 たまにタクシーを利用する時、私は、気弱で、遠慮しいな性格なので、「乗せてもらう」という気持ちでいる。そのせいかどうか、関西に限らず、タクシーに乗って、嫌な思いをした記憶がほとんどない。 この前は、久しぶりに、終電に乗り遅れて、タクシーのマンシュウ(1万円超え)というやつになってしまった。財布は痛むが、若いドライバーさんの嬉しそうな表情を見ていると、悪い気はしない。

 乗車してしまえば上司も部下もない気楽な世界、とは言うけれど、そこは客商売。ノルマもあるし、心身ともにタフでなければ勤まらない仕事に違いない。近頃は、「どんなルートで行きましょか?」と訊かれることが多い。「おまかせします」と答えるのだが、遠回りしただとかで、グズグズ言う客なんかもいるんだろう。気苦労も多そう。

 「東京タクシードライバー」(山田清機 朝日新聞出版)は、東京で働くタクシードライバーさんたちの働きぶり、生き方などを、ヒューマンな視点で描いたドキュメンタリー。こちらの本です。



 そこに、「無線屋」と呼ばれる運転手さんの話しが出てくる。
 街なかをムダに流さず、ロング(長距離)とかチケット利用の多い配車センターからの無線だけで売り上げを稼ぐドライバーを指す。

 例えば、「赤坂◯◯ビルから、羽田空港。誰々様。どうぞ」と、お客からの配車要請を受けたオペレーターが無線で一斉に呼びかける。近くを走っていて、配車に応じるには、無線機の「了解」ボタンを押す。すると、オペレーターがお客に「何番の車が、5分で伺います」などと返事をすることになる。私なんかも、サラリーマン時代にはよくお世話になったお馴染みのやり取り。

 無線の客なので、上客である可能性は高いのだが、どうしても当たり外れがある。無線だけで稼ぐ「無線屋」の場合、そんな「偶然」に頼るわけにはいかない。そこで、どうするかというと・・

 <「ベテランの無線屋は、何曜日の何時に、東京都内のどの地点で、どんな人がタクシーを呼ぶかを完璧に頭に入れていたのです」>(同書から)
 中には、それだけで、1週間分のスケジュールをミッチリ立てる無線屋もいるというから、スゴい世界。
 同書が取り上げているのでは、田園調布の自宅から、茨城の工場での訓示に出向く社長の例がある。毎朝6時半になると、自宅から無線配車の要請が来る。それを狙って、自宅のそばで待機する、というわけだ。ただし、そんな情報は、いずれ仲間に知られる。

 それでも、競争に打ち勝って、その配車を獲得するためには、もう一つのワザが必要になる。

 オペレーターが配車要請した瞬間に、了解ボタンを押しただけではダメなのだ。
 <「無線が流れて来た瞬間ではなく、オペレーターが話し終えてマイクのスイッチを離した瞬間に了解ボタンを押さないと無線は取れないのです。ところが、オペレーターによってスイッチの離しかたに癖がある」>(同書から)

 したがって、声でどのオペレータかを判断し、全員のスイッチ操作の癖まで飲み込んで、無線を取りに行かなければ客を逃してしまう。交信がヘタでは、とても無線屋にはなれない、というわけだ。というのが、かつての「アナログ無線」と呼ばれた時代の話。

 今では、タクシーに積んであるGPS(車のナビでお馴染みのあれです)と連動して、お客の一番近くにいる空車を、コンピュータシステムが自動的に割り振る「デジタル無線」が主流となっている。アナログ時代のような職人技の出番は、なかなかなさそう。タクシー業界にも「デジタル」の波が押し寄せている、というわけで、いつの時代も、大変なのは、タクシー運転手さん、ということになる。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。

この記事についてブログを書く
« 第163回 「英語話せますか... | トップ | 第165回 人名いろいろ »
最新の画像もっと見る