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第369回 こんなところにAIーマスコミほか

2020-05-08 | エッセイ

 なにかと便利なのでつい利用してしまうのがアマゾンです。ネット通販業界の巨人ですが、「潜入ルポ amazon帝国」(横田増生 小学館)を読んで、別の顔も持つことを知りました。

 アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)と呼ばれるネットワーク事業が、実は、利益の半分をたたき出す「稼ぎ頭」になっているというのです。元々は、自社での膨大なデータを処理するためのシステムとしてスタートしました。今や、仮想サーバー、コンピュータ、ネットワークなどを組み合わせた大規模クラウドサービスとして売り物にしているんですから、抜け目がありません。

 日本では、2010年からサービスを開始し、自社でシステム構築するより、初期コストが安く、使い勝手も良いため、日本を代表するような大企業を、続々取り込んでいます。
 AI(人工知能)技術と組み合わせて、こんな意外な使い方がされているという事例を、同書に拠りながらご紹介します(「第246回 コワい人工知能」、第358回 こんなところにAI-認知症ほか」(文末にリンクを貼っています)に続く第3弾のつもりです)。

 朝日新聞では、過去30年間に書かれた900万本の見出しと記事をデータベース化し、AWS上に保管しています。目下、完成の域に達しているのが、「見出しの生成」です。システムに過去の膨大な記事と見出しの関係を「学習」させ、ふさわしい見出しを作らせるものです。その実力のほどですが・・・
1.日比谷図書館を千代田区に移管 都教委が正式に合意
2.「上司がパワハラ」 海自事務官が提訴
3.晩秋の風物詩「松の腰巻き」鶴岡

A.都、区と正式合意 日比谷図書館の千代田区移管
B.海上事務次官、パワハラ提訴 佐世保「パワハラ休職」
C.松も冬支度、幹に「腹巻き」鶴岡

 上の3つと下の3つのグループ、どちらがシステムで付けられたものでしょうか?
 上のグループなんですね。社内の編集者の意見でも、そちらのほうが評価が高かったとのことです。確かに、重要なポイントをコンパクトにまとめています。見出し作りという結構面倒な作業も、これなら十分、実用になりますね。

 さて、日経新聞では、年間15000本もの決算を記事にしなければなりません。これをAI化する試みが2017年にスタートしました。考えてみれば、決算は、数字と、業績内容というある程度定型化されたものですから、(私みたいな素人でも)AIになじむのは理解できます。証券取引所から配信される決算単身を記事にするのにかかる時間は2分とのことですから、省力化効果も大きいはず。AIが作成したゴルフショップチェーン「ゴルフ・ドゥ」の2017年5月決算の、業績分析部分です。

<オンラインショップの売上高も32ヶ月連続で前年実績を上回っており、直営店、フランチャイズ加盟店への業績に貢献している。直営事業の購入客単価が年間を通して毎月前年実績を上回っており、中古クラブ販売及び買取りが共に年間を通して堅調に推移した>

 AI記者さんの実力もなかなかのものですね。本職の記者さんは、大企業や話題の企業の裏取り「取材」に注力出来るわけで、新聞作りの現場がどんどん変わっていくのが分かります。

 大企業だけでなく、中堅企業での利用例をご紹介しましょう。インターネットを使った写真サービスの<はいチーズ!>という会社です。社員は240人ほどで、幼稚園、小学校の運動会などで写真撮影を行い、それをネットで販売するのをビジネスにしています。画像は同社のウェブサイトから拝借しました。

 今時のことですから、デジカメ、ビデオで、我が子の写真、ビデオを撮りまくる親は多いはず。そこへ割り込んで、商売にしようというわけですから、知恵が必要で、こんな仕掛けです。

 購入しようという親は、あらかじめ子供の正面写真を、この会社に送っておきます。会社では専任のカメラマンが撮った膨大な写真をAWSへ取り込みます。その上で膨大な画像データの中から、その子供が写っている写真だけを、AI技術で検索、抽出し、ネットを通じて販売するのです。今では認識精度は90%ほどに達し、検索にかかる時間も1~2秒といいます。

 運動会なんかだと、親は、そうあっちこっちに移動出来ません。いい撮影ポイントは、ほかの親と取り合いになったりもすることでしょう。親とすればかわいい我が子の写真を一杯撮りたいのに、必ずしもそうもいかない。
 そこにビジネスチャンスを見い出し、AIの力も借りて、商売にする・・・・人工知能以上の知能を持ち合わせているのが人間でした。

冒頭でご紹介した以前の関連記事へのリンクは、<第246回 コワい人工知能><第358回 認知症ほか>です。合わせてご覧いただければ嬉しいです。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。