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第368回 正しく感謝する-英語弁講座27

2020-05-01 | エッセイ

 いきなりですが、ある日本人の感謝のスピーチをご覧ください。

 Thank you very much.
 Thank you, my supporters.
 Thank you, all my staff.
 Thank you, my producer.
 Thank you, Academy.
 Thank you, animation.
 Thank you,  my company,Robot.
 Domo Arigato, Mr.Roboto.
 Thank you very much.

  種明かしをしますと、これは、2009年にアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞した加藤久仁生監督のスピーチです。「日本人の知らないワンランク上のビジネス英語術(ウィリアム・A・ヴァンス 阪急コミュニケーションズ)」から引用しました。
 受賞作品「つみきのいえ」の1シーンです。

 Robotというのは、制作会社名です。日本語訳は必要がないほどシンプルで、テンポよく、しかもアニメ制作に携わった各方面へ「漏れなく」感謝の気持ちを伝える内容です。多少くどい感じはありますが、概ね日本人の「感性」に合う内容と表現だと感じます。

 でも、同書の著者(エール大学ビジネススクール・コミュニケーションディレクター)には、ちょっと言い分があるようです。

 まず指摘するのが、"Thank you”を繰り返し使っているのが、単調である、ということです。
 ”appreciate "とか”be grateful "などを利用して、
 "I appreciate your speedy reply."(迅速なご返事に感謝します)とか
 "I'm grateful for your help."(あなたの助けに深く感謝します)
 などの用例もあるよ、というのが、彼の指摘です。

 「一般論」としては、理解できます。
 でも、今回の場合、感謝すべき関係者が多く(それ自体が日本的といえば日本的ですが)、いろいろ使い分けるのは煩雑ですし、かえって感謝の度合いに差が出るような気が監督もしたのかなと推測しています。単調になるのを承知の上で、畳み込むようにスピーチを進めるーー今回のような場だと、熱い想いを込めたこんなやり方もありではないでしょうか。

 で、著者がもうひとつ指摘するのは、監督のスピーチが「何に対して感謝しているか」を具体的に触れていないという点です。

 監督の肩を持つわけじゃないですけど、関係各位への謝辞で始めた以上、個々の理由を挙げるよう求めるのは酷な気がします。
 ただ、著者の言い分は、これも「一般論」として、至極もっともで、傾聴に値します。日本人の場合、とかく「ごちゃごちゃお礼を言うのはかえって水臭い」などと考えがちですから。

 気持ちが基本ではありますが、ごく簡単なことは別にして、しかるべき事をやってもらったり、恩恵を受けた時などには、感謝している内容を「具体的に」表すことを心がけたいものです。英語弁講座ですので、著者お奨めの簡単な言い回しを紹介しておきます。

 Thank you for ~ の ”~”のところに、「何に対してか」を入れます。
 Thank you for saying that.(そう言っていただき感謝します)
 Thank you for returning my call.(折り返しの電話、ありがとうございます)
 Thank you for helping with this.(この件で助けていただきありがとうございます)
 Thank you for everything.(いろいろありがとう)という横着で、日本的に使い途の多い表現ーこれは私からのお奨めです。

 さて、最後に、こんな使い方も・・・
 日頃から、平気で嘘をつき、下品な言葉を会見やツイッターでまき散らしている某国の大統領。会見などで、自分にとって不都合だったり不愉快な質問が出て、質問を遮ったり、会見を打ち切る時の常套句が、
 THANK YOU !   THANK YOU !  です。
 <もういいだろっ、そんなつまらん質問に答える気はない、(会見は)終りだ、終りだ!!>
とのメッセージなんですね。力強く、吐き捨てるように言うのがコツ(?)です。こんな「便利な」使い方があったとは!

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。