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第349回 101の言い訳@ウィーン

2019-12-13 | エッセイ

 たとえ正当なものであっても、言い訳とか弁解を潔しとしない風潮の日本。一方、正当であろうがなかろうが、自己の立場をしっかり主張、弁解するのを当然とする欧米の文化。
 どちらも居心地が悪いというグチ話を「私の嫌いな10の言葉」(中島義道 新潮社)で読んでいると、著者が留学したことのあるウィーンでの鉄道の不正乗車対策に話が及んで、にわかに興味を引かれました。まずは前提となる話題に、しばしお付き合いください。

 だいぶ前(第63回)にも、西ドイツの例を紹介しました。総じて、ヨーロッパの鉄道では、日本のような改札機のシステムはなく、正しい乗車券を持っていることを大前提に、抜き打ち的な「検札」で、不正は問答無用に摘発し、高額な罰金を払わせるのが主流です。

 本書によれば、ウィーンでもシステムは概ね同じで、具体的にはこうなっています。

 ウィーン市内の路面電車(トラム)、地下鉄、バスは同一の料金体系で、定期券の他に、3日通用する切符、1回だけの切符があり、それを持っていれば、どの交通機関でも利用できます。こちらは路面電車。


 ただし、定期券を別にして、まず、乗車する駅の構内とか車内に設置されている印字機に切符を挿入して、乗車駅、日時を印字しなければいけません。こちらの機械です。


 切符があれば、ウィーン市内はどこまでも行けますが、乗り方として、「一方向」のみがOKです。なので、例えば、ぐるぐる市内を回ったり、往復してはいけません。

 そんな複雑なシステムでの不正を摘発するための抜き打ちの検札は、こんなやり方です。
 ある時、抜き打ちで、私服の大きな男が二人連れでヌッと入ってきて、いきなりコワい顔で「検札!」と言って、乗客の前に立ちはだかります。不正と判断されれば、その場で500シリング(約5000円)を請求されます。
 切符がなければ、もちろんアウト。切符を持っていても、印字がなければ(仕組みを知らないツーリストの場合が多いそうですが)これもアウト。そして、例えば、印字された駅に向かっている電車に乗っていれば、往復とみなされて、これも不正乗車になります。

 不正を指摘された乗客の多くは素直に(ホントはしぶしぶ?)罰金を払っているようですが、お国柄でしょうか、中には、いろいろ弁解、言い訳に努める乗客もいるようです。

 と、長い前置きになりましたが、本題に入ります。あれやこれやの「言い訳」封じのために、ウィーン交通局が打ち出した「「こんな言い訳は通用しません」キャンペーン」がユニークです。通用しない101の言い訳例が、ポスターとして交通機関のいたるところに貼られてたといいます。著者が集めた言い訳の一部です。

・犬が切符を食べてしまった
・さっき風で切符が飛んでいった
・別の車両にいる兄が持っている
・(ガチャンという)音が怖くて印字機に近寄れなかった
・印字機が見つからなかった
・印字機が呑み込んでしまった
・印字機に入れたけどインクが切れていた
・私が切符を探しているあいだに他人のを見てくださいよ
・きょう、すでに一度払った(からもう払わなくてよいと思った)
・きょうは特別無料日だと思った
・日曜日は無料かと思った
・父が検札はどうせ来ないから(大丈夫だ)と言った
・昨日も不正乗車したが。つかまらなかった
・まだ昨日だと思った
 
 もう少し高度(?)なものでは、
・10年乗れば無料になるかと思った
・私はニューヨークに住んでいて、たまたまウィーンに来ただけだ
・歩こうと思ったけど電車が来たのでしかたなく乗った

 極めつきは、
・私は切符を持っていないけど不正乗車ではないのだ
・あなたは私が切符を持っていることをただ信じればいいのだ

 いかがですか?すべて交通局の人が考え出したものとのことですが、似た「経験」がベースになってるんじゃないでしょうか。バレなきゃ得、とばかりに不正に走る一部の乗客と、それを阻止したい交通局との丁々発止の駆け引きです。
 でも、「切符は正しく買いましょう」などいう(ICカード時代にはいささか時代遅れの)日本的でユルいやり方ではなく、毅然とした中にもユーモア精神溢れるウィーン交通局の取り組みに、共感を覚えました。

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。