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第309回 「きれい好き」の先の世界

2019-03-08 | エッセイ

 「きれい好き」から「潔癖「性」」あたりまでは、ひとつの性向を表す言葉として、日常的に使ってます。それが、「潔癖「症」」を経て、「不潔恐怖症」まで嵩じてくると、精神科、神経科の領域になるケースもあり、本人の苦労、周りの迷惑もなかなかのものがあるようです。

 私が、小学校3年生の時、父親が大病で入院、手術ということになり、丸々ひと夏、旅館を営む親戚に預けられたことがあります。旅館という非日常的な場で、従兄弟たちに囲まれての生活は楽しいことだらけで、親元を離れた寂しさとかストレスとかの自覚はありませんでした。

 ところが、預けられてしばらく経った頃から、食事の前とか跡に、さかんに手を洗うようになったのです。それ以外の時でも、かなり神経質に手を洗う私を見て、「手をきれいにしとくのは、ええことやで」と叔母からは言われたものの、今にして思えば、軽度の「潔癖症」にかかってたのかな、という気がします。精神のバランスが微妙に崩れていたのでしょうかね。幸い、父親が退院し、自宅に戻ってからは、二度と「発症」していませんが、ちょっと不思議な経験でした。

 「私、もう吊革はつかまない」(全日本清潔生活クラブ編 ソニー・マガジンズ)では、「不潔恐怖症」のレベルに達したと思われる人たちの悩み、そして、自らを「守る」ための戦いぶりが、ふんだんなイラスト付きで紹介されています。こちらが表紙です。

全体的に深刻なトーンはありません。それぞれの悩みには、「私ならこうする」というアドバイスのコーナーも設けられていたりして、「明るい悩み」のノリです。興味本位で取り上げるのは控えなきゃいけませんが、そんなノリに甘えて、いくつかご紹介します。

 他人が使用、触れたものを利用せざるを得ない「部活」は、中高性の彼ら、彼女らにとって鬼門。ある女子高生の場合です。

「他人がさわったピアノの鍵盤が触れないんですけど・・・」との申し出に、「手袋してピアノが弾けると思ってるの!!」との指導教師の言葉が返ってきて、音楽部は断念。「茶器で回し飲みなんてとても出来ない」と、茶道部も断念。読書研究部への入部をすすめられたが、「ずら~っと並ぶ他人が触った汚い本を読むのは無理」とこれも挫折。
 最後にたどりついたのが、なんと「生物部」。顕微鏡を覗いて、バイ菌を殺す快感に目覚めたのだという。ただし、他人の顕微鏡は使えないので、当然「マイ顕微鏡」持参。

 他人と寝食をともにする修学旅行も、彼らにとっては、恐怖のマト。

「毛布、枕、バスタオル4枚、タオル10枚、ハンカチ20枚、抗菌グッズはいつもの倍を持参した。が、荷物多すぎて腰を痛めた」という女子高生の告白には、同情しつつも、頬が緩んでしまいました。

 さて、他人と乗り合わせること自体が苦痛なのに加えて、電車の中は、不潔なものだらけ。それでも摑まらざるを得ない「吊革」とどう向き合うか。
 ハンカチでつかむ、というのは誰でも考えます。薄手の手袋着用、吊「革」の部分を握る(そこも十分不潔だと思うんですけど・・・)、握る前に、輪を1回転させて、吊革の部分で汚れを取る(かえって汚れると思いますが・・)、そして、手で握らず、手首の部分を輪に乗せる(手首が汚れますよ)
 と、ツッコミどころ一杯の涙ぐましい工夫のオンパレードです。
 
「温泉」自体は、カラダをきれいにするので、好きな人もいるようですが、ここも、危険がいっぱい。
 まず、他人がいっぱい通ってる簀(す)の子の上は、つま先立ちで、素早く通り抜ける。洗い場では椅子には座らない。湯船の端にはゴミが集まるので、真ん中に入る(どこも変わりないと思いますけど)。湯に浸かったあとは念入りにシャワー。このあたりが基本ワザのようです。でも、いろんなワザの使い過ぎで「かえって疲れる」という一言に、実感がこもってました。

 出張などで、利用せざるを得ない格安ホテルも悩みのタネ。

 あるキャリアウーマンの場合ですが、
 まず、部屋のスリッパからリモコン、電話、水道の蛇口、ドアノブ、電機のスイッチなどすべて拭き、徹底除菌。浴槽も洗ったものの、結局入らず(入れず?)。寝る時は、掛け布団がかけられず、なるべく動かないようにして寝た、というのです。
 これでは、くつろぐどころではありません。お気の毒です。

 皆さん、それぞれに「こだわり」があるようです。が、あまり無理をせず、「清潔生活」をお送り下さい。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。