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第284回 村上春樹がくれたアドバイス

2018-09-07 | エッセイ

 村上春樹流の息抜きというか、一種の読者サービス(対象は読者限定ではありませんが)なんでしょうか、期間限定のサイトで質問を受け付け、村上が回答するという試みが、何回か行われています。

 最近のものは、2015年1月から5月まで設けられたもので、質問・相談メール総数は、3万7千通あまり、そのうち、3千3百通ほどに、村上自身が回答したそうで、ご苦労様でした、
 期間中の累積ページビュー(閲覧数)は、なんと1億を越えたとのことですから、なかなかの人気だったようです。

 そのうちの473件の質問・回答が、最近、「村上さんのところ」として文庫化(新潮社)されたので、目を通しました。



 恋愛、人間関係、仕事などのお悩み相談から、小説作法、創作の秘密など彼の本業に関わるもの、そして極めて個人的でシュールなものまで、種々雑多な質問と回答のオンパレードです。

 時に真摯に、時にユーモアたっぷりに、時に韜晦、はぐらかしも入れながらの「回答ワザ」を存分に楽しみました。質問は要点を、回答は原文をできるだけ尊重して、いくつかご紹介します。

 「旦那さんがほとんど性欲がなく、夜の営みがない。どうしたらやる気にさせられますか」という31歳・女性からの質問に、
 「すみませんが、他のひとの性欲の事情まで僕にはわかりません。自分のだってろくにわからないというのに。申し訳ないけど、ご自分で考えて解決してください」と突き放しています。まあ、これは質問する方が悪い・・・・と思います。

 「以前、友人が少ない悩みを相談した時、「猫を飼えば」とアドバイスされて、実行し、友人が少しできた」とのお礼のメールに、
 「僕は、困った相談があると、たいてい「猫を飼ったらどうですか」と答えています。かなりイージーですが、ちゃんと効果はあったんだ。それをうかがって、僕もほっとしました」なんて、ぬけぬけと回答しています。

 「マネキンが道ばたに捨てられていたのを拾ってきて、「キャロライン」と名付け同居していたが、現実の恋人ができて、「彼女(キャロライン)」の処分に困っている」という25歳・男性からのあやしげな質問に、
 「そんなこと相談されても困ります。あなたとキャロラインさんで相談して決めてください。でも遠くに捨てたはずのキャロラインが夜中に戻ってきて、こんこん、こんこんとドアをノックしたらこわいですね。(中略)だいたいマネキンなんて拾ってくるあなたに責任があるんです」
 私もそう思います。

 「突然ですが、「完璧な勃起」とはどういう状態のことですか?小説の中で出てくるたびに、いつもつまずいてしまいます」との31歳・女性からの悩ましい質問には、
 「わけのわからないことを書いて、申し訳なく思っています。ちょっと漠然とイメージしてから、そのままやり過ごしてしまっていただければ、作者としては嬉しかったのですが。僕としてもここであまりリアルに説明できないのですが(後略)」
 いつになく歯切れが悪いなぁ、と笑ってしまいました。

 さて、私にとって、大いに勇気づけられ、ありがたかった質問・回答です。

 「遠距離恋愛中の彼女がいて、手紙のやり取りをしているが、うまく書けずに悩んでいる」という28歳・男性からの質問に、こう答えています(全文を引用します)。

 「手紙を書くコツは、日頃から話題をためておくことです。面白そうな話題をいくつかストックしておいて、それを選んで並べる。でもだらだらした文章はだめです。コンパクトにまとめる。慣れないういちはむずかしいと思いますが、すべて訓練です。うちの奥さんは僕と結婚した理由をきかれて、「手紙がどれもすごく面白かったから」と答えていました。きみもがんばってください。大事なのは、うまい手紙を書こうと思わないことです。相手をにこにこさせちゃうような手紙を書こう。」

 私も、エッセイ(らしきもの)を、このブログで書いてますので、「手紙」を「エッセイ」に置き換えれば、村上のアドバイスが身に沁みます。

 続いている趣味といえば、「読書」ということになりますので、読んだ本のことがテーマの中心になります。とはいえ、単なる本の紹介だけでは単調で、ツマらない中味になりますので、関連した自分自身の「体験」を盛り込んだり、ほかから拾ってきた「話題」を入れたりと、それなりに工夫はしているつもりです。

 でも、まだまだ「話題のストック」が足りないなぁ、と感じることも多いです。回答の中で、奥さんが村上と結婚した理由を、「話題」として、短い回答の中でうまく引用しています。

 本物のプロには適わないなぁ、と思いながらも、より面白く読んでいただけるよう「話題のストック」に努め、「にこにこさせちゃうような」エッセイをお届けしていくつもりです。引き続きご愛読ください。

 それでは、次回をお楽しみに。

<追記>その後、「第396回 村上春樹について語るとき」との記事で、彼のエッセイを話題にしています。リンクは<こちら>です。合わせてお読みいただければ幸いです。