先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は19〜21日に広島市で開かれる。ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻で核兵器の使用も示唆する中、被爆地・広島から世界に何を発信すべきか。2017年にノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の国際運営委員を務める川崎哲氏は、G7の首脳が「核兵器は本質的に非人道的なものだからこそ、使用も威嚇も許されないのだと明確にすべきだ」と訴える。(川田篤志)
かわさき・あきら 1968年、東京都生まれ。東大法学部卒。2004年から非政府組織(NGO)ピースボート共同代表。10年から核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の運営に関わる。
G7首脳は広島サミット初日の19日に原爆資料館を視察し、核軍縮や核不拡散をテーマに議論する予定。核の威嚇をするロシアを非難し、核兵器の不使用の重要性に言及するとみられるが、川崎氏はそれだけでは不十分だと語る。
◆被害が大きく非人道的
「大国ロシアの横暴で混乱の極みの時、確信を持って核兵器は使用も威嚇もいけないと言える理由は、核兵器はあまりに被害が大きく非人道的だからだ」と強調。だからこそG7がサミットで、核兵器は「本質的に非人道的で、いかなる国の使用も威嚇もどんな状況でも許されないと明言できるかどうかだ」と述べる。
G7は4月の外相会合で自らの核兵器を「防衛目的」と正当化している。川崎氏は「自分たちの核は『抑止のため』と主張すれば、同じ理屈で中ロが核の脅しや増強を正当化する」と問題視。今回の成果文書にはそのような表現を盛り込むべきではないと主張する。
G7に対しては「核保有の米英仏3カ国とその『核の傘』に依存する日本を含む4カ国による『核保有グループ』だ」と指摘。「その首脳たちが被爆地で『自分たちの核は良い』と言うなら、多くの犠牲者や被爆者への冒瀆だ」と核廃絶への強い決意を求める。
◆面会・滞在時間にも注目
G7首脳が原爆資料館視察や被爆者との面会時間を十分に確保し、原爆の惨状を直視するかにも注目する。7年前に訪問した当時のオバマ米大統領の資料館の滞在は十分間だった。被爆地で非人道的な被爆の実相に触れることで「軽々しく扱える兵器でなく、核兵器をなくす行動が指導者のあるべき姿だと気づいて」と成果に期待を寄せる。
核兵器の非人道性は21年発効の核兵器禁止条約に盛り込まれており、川崎氏はG7首脳が核禁条約に言及するかを注視。「多くの遺骨が眠る平和記念公園で時間はかかっても核兵器を全廃させると明確な約束をしてほしい」と願う。
◆NPTの秩序が壊れ始めた
川崎哲氏との一問一答は以下の通り。
—核軍縮を巡る現状は。
「世界の核秩序の中心だった核拡散防止条約(NPT)が信頼を失いつつある。1960年代に米ソ核戦争の一歩手前までいったキューバ危機を受けてできたNPT体制は米国、旧ソ連、フランス、英国、中国の5カ国以外に核を拡散させないことが目的。さらに5カ国に将来の核廃絶を約束させたことに意義があったが、約束通り進まず、核の秩序が壊れ始めている」
—核秩序が壊れるとは。
「世界一の核保有国のロシアが国際法違反の侵略を始め、核の威嚇を行い、隣国のベラルーシにロシアの核を配備する計画もある。ウクライナを支援する米欧と核戦争に発展しかねない危険な状態だ。5カ国には理性があり、おかしなことはしないというNPT体制の前提が崩れている」
—最悪の事態のようだ。
「秩序崩壊を何とか食い止めているのが、核兵器禁止条約の存在で、使用も威嚇もダメだと国際世論として明確に言える根拠を与えている。NPTだけでは無理だと気づいた国々がつくったこの条約がなければ、世界は混乱の極みだった」
◆広島から世界的議論に
—議長国としての役割は。
「ロシアのような核保有国の横暴を許すのかどうか世界は瀬戸際にある中、あえて広島開催を選んで核軍縮を議論する岸田文雄首相の判断を支持する。核廃絶の約束を再確認してG7の本気度を示し、それを20カ国・地域(G20)首脳会議や国連の議論につなげてほしい」
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