トランプ前米大統領の不倫口止め疑惑に絡む事件で、ニューヨーク州地裁は同氏に有罪の評決を下した。量刑は7月に決まる。
トランプ氏は「不正裁判」として控訴する構えで、判決は確定しない見通し。ただ、11月の大統領選で共和党候補となることが確実で、法治国家のかじ取りを再び担おうとする人物は、証拠に基づく判断を尊重すべきではないか。
起訴内容は、当選した2016年の大統領選直前、醜聞が広まることを防ぐため口止め料を払い、不正に会計処理したとされる。
米国では検察官も裁判官もリベラル派と保守派に分かれるなど政治的中立は担保されていない。起訴した検事も公判を仕切った判事も民主党系とされ、トランプ氏は裁判を「政治的迫害」とする。
しかし、トランプ氏側も適正と認めた陪審員12人が5月30日の評決で、一致して有罪と判断した事実は重い。法廷の外では裁判を非難するトランプ氏も、公判では自ら証言することを避けた。「ボロが出るから」ではないのか。
むしろ、司法を最大限に政治利用してきたのはトランプ氏だ。
大統領時代に最高裁判事に保守派ばかりを指名。判事9人の構成は偏り、人工妊娠中絶の権利を認めた約50年前の憲法解釈を覆すなど保守派寄りの判断を続けた。
訴追された事件で動きがあるたび「民主党の攻撃」と訴え集金に利用。今回の評決後24時間で5280万ドル(約83億円)を集めた。
トランプ陣営は、敗れた20年の大統領選を「不正」と主張し、何度も提訴したが、保守派判事の判断を含めてほぼ退けられた。それでも自説を曲げておらず、法の支配や司法制度への敬意を欠く。
仮に有罪が確定して収監されても大統領選には出馬できるが、ロイター通信などの世論調査によると、共和党支持層の10%が今回の有罪評決を受けて、トランプ氏に投票する可能性が低まったと答えた。激戦になれば、有罪評決が勝敗を左右する可能性がある。
米大統領は国際社会でも重要な役割を担う。国際法を含めて法の支配を重んじるべきは当然だ。