長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

伝説は静かに、そして深く始まった  ~土曜ワイド劇場・天知小五郎シリーズ第1作『氷柱の美女』~

2012年09月30日 22時34分14秒 | ミステリーまわり
 ぴろぴろぴろぴろ~。どうもこんばんは! そうだいでございまする~。みなさま、今日も一日お疲れさまでした。
 いやぁもう、なんかすげぇらしいんですよ、台風17号が! っていうか、今すごい真っ最中なんだ。
 実は、その台風のおかげで今日やる予定だった大事な予定がまるまるいっこなくなってしまいました。楽しみにしてたのになぁ~。
 ただ、フタをあけてみれば今日は日中はほんとにいいお天気だったんですよ。確かに風は強めだし空気も太平洋からきたらしいぬるっとした生暖かい感じはあったのですが、少なくとも千葉はふつうに外を出歩くことができてましたね、日が出てるうちは。でもやっぱり、「念には念を」が防災の第一精神ですからね~。

 んで、やっと台風の足跡が聞こえてきだしたのは、まさしく今! いよいよガタガタと窓をならす勢いが増してきてまいりました……
 なんだかんだいって、どうやら台風が関東地方を通過しない可能性も出てきたようですので、おそらく私の家のまわりはそれほど大変なことにはならないかと思うのですが、いちおう外に置いてある洗濯機のフタもガムテープで仮止めしておきましたし、準備は万端です。万端ってまぁ、具体的な対策はそれだけなんですけど。この前は見事にフタが吹っ飛びました!


 ということで、とつながっているかどうかもはなはだ怪しいのですが、今回はそんな不穏な外の空気を受けまして、「非常にあやしい」&「大きな嵐の到来を感じさせる」作品として、私が最近やっと観ることとなった、ある伝説の TVドラマ作品についてぶつぶつつぶやいてみようかと思います。どうせ寝ようと思っても、風がうるさくて眠れねぇし!!


ドラマ『江戸川乱歩の美女シリーズ 氷柱の美女』(1977年8月放送 テレビ朝日『土曜ワイド劇場』 72分)


 いやぁ、ついに手に入れてしまいました、伝説の土曜ワイド劇場「天知小五郎シリーズ」、その記念すべき第1作!

 先月にあんなに大々的に明智小五郎の映像化作品をフィーチャーした身でありながら非常に恥ずかしい話なのですが、実はわたくし、それらの中でも良くも悪くも代名詞的存在となっている名優・天知茂による明智小五郎シリーズの作品は、夕方に TVで再放送されていた『妖しい傷あとの美女』(1985年3月放送 『陰獣』が原作となっている)1作しか観ていなかったんですよ。それ以外の作品のダイジェストされた名場面集みたいなものはいろんな無料動画サイトで確認していたのですが、「ちゃんと天知小五郎の勇姿を観た」という経験が絶対的に不足していたのです。

 そんな中でついにふみきったのが、「DVD 購入作戦」! 作戦というほどもない、きわめてまっとうな考えつきですね。
 いや~、いい時代になったもんです……天知小五郎や古谷金田一の名エピソードの数々が自宅で好きなときに自由に心ゆくまで楽しめるとは!

 昔話になりますが、思い起こせばアホはアホなりに多感な少年時代をすごしていた1980~90年代。私が住んでいた山形県では過去に放送された TVドラマが再放送されるというチャンスはゼロに等しかったような気がします。『一休さん』や『機動戦士ガンダム』といった定評のあるアニメが夕方や早朝に流れることはあったのですが、民法放送局の数が基本的に不足していた当時の山形では、現役で放送されている民法キー局5局からよりすぐった番組と地元山形で制作されたローカル番組を組み合わせたら、そのほかに2時間ドラマをさしこむような余裕はなくなっていたからなのではないでしょうか。『タモリ倶楽部』とか『ダウンタウンのごっつええ感じ』が真っ昼間に放送されたりしてましたからね。
 前にふれたこともありましたが、山形県の TV放送局は1988年まで2局、1996年まで3局で1997からは4局に増えて現在にいたっています。わぐが2づすかながったら、そらまんず2ずかんドラマの再放送なんがいれでらんながったべねぇ。
 だからもう、大学生になって千葉県に引っ越してきたとき、タイトルだけは聞いたことがあったっていう昔の映画や時代劇ドラマや刑事ドラマが、深夜や昼下がりの時間帯にほぼ毎日のように観られるという事実には驚嘆しましたね! 映画の『太陽を盗んだ男』や松田優作の『探偵物語』がふつうに放送されていたのには腰を抜かしたもんです。

 それにくわえて時代も変わりました。だって、今やテレビのチャンネルなんて5つ6つなんて言ってる場合じゃありません。ケーブルTV だ衛星放送だで何倍にも増えて、地方だ主要都市だなんてほぼ関係なく全国のどこででも同じ番組を視聴することができるようになったわけです。当然、チャンネル数の増加で過去の名作ドラマの再放送に出会える機会もさらに格段に増えました。

 こういった TV局の事情のほかにも、レンタルビデオや DVDという媒体から名作ドラマにたどり着くチャンスが増えたわけでして、確か1990年代の末から古谷金田一の『名探偵金田一耕助の傑作推理』シリーズがレンタルされ始めたな、という様子はあったのですが(たぶん1996年版の映画『八つ墓村』とか『金田一少年の事件簿』ブームの影響かしら?)、2000年代にあらかたの名作と賞される昭和ドラマ作品が DVDの形でリリースされるという活況を呈するようになったわけです。

 そして、当然のようにその中には、我らが天知小五郎の『江戸川乱歩の美女シリーズ』もあったというわけ!
 ということで、私はついに、今回そのシリーズ第1作を入手することに成功いたしました。乱歩ファンを自認したい人間としてはあまりにも遅い到達になってしまったのですが、以下にその感想みたいなものをつづっていきたいと思います。

 じゃあまず、基本的な情報から~。


おもなキャスティング
 19代目・明智小五郎   …… 天知 茂(46歳 1985年没)
 ヒロイン・柳倭文子   …… 三ツ矢 歌子(41歳 2004年没)
 倭文子の愛人・三谷房夫 …… 松橋 登(32歳)
 吸血鬼?岡田道彦    …… 菅 貫太郎(42歳 1994年没)
 恒川警部補       …… 稲垣 昭三(49歳)
 11代目・小林芳雄    …… 大和田 獏(26歳)
 助手・文代       …… 五十嵐 めぐみ(22歳)

 ※天知茂による不定期スペシャルドラマシリーズ『江戸川乱歩の美女シリーズ』の第1作で、長編小説『吸血鬼』(1930~31年連載)の4度目の映像化
 ※以後、2000年まで不定期に続くこととなる『土曜ワイド劇場』(テレビ朝日)の明智小五郎シリーズの第1作
 ※天知小五郎シリーズを通して時代設定は「1970~80年代現在」にされており、明智小五郎は東京都心で2人の成人した助手(小林と文代)のいる探偵事務所を運営している。文代は明智小五郎の妻ではなく、名字も明らかにされていない
 ※天知茂はすでに、1968~69年の舞台版『黒蜥蜴』(主演・丸山明宏)で明智小五郎を演じていた
 ※ドラマ中ではヒロインの名字は原作の「畑柳」から「柳」に、恒川刑事の役職は「警部」から「警部補」に変更されている
 ※助手・文代役の五十嵐めぐみは本作から1982年いっぱいまで19作連続で登板しており、土曜ワイド劇場の明智小五郎シリーズで文代を演じた6名の女優の中では最多の出演となる
 ※本作で活躍していた助手の小林青年の設定は、以降の第2~5作ではカットされており、第6作からは俳優を変えて復活している
 ※監督の井上梅次(うめつぐ)は1962年の映画版『黒蜥蜴』(明智役は大木実)の監督も務めており、『江戸川乱歩の美女シリーズ』では1982年までの全19作を監督した
 ※シリーズのレギュラーキャラクターである波越警部(演・荒井注)は、第1作ではまだ登場していない


 まず、天知小五郎シリーズに挑むにあたって大前提として認識しておかなければならないのは、このシリーズが江戸川乱歩の原作小説の忠実な映像化を主眼においているものでは毛頭ないということです。その点を容認することができず、「天知小五郎シリーズは江戸川乱歩作品の味わいをいっさい伝えておらず、内容を故意に荒唐無稽で俗悪なものにねじ曲げている。観る価値なし!」と強く批判する向きもあるようですね。
 確かに、私も実際にこの『氷柱の美女』を腰をすえて観るまでには「なぜか全裸の美女がしょっちゅう殺される」「明智小五郎の変装が体型や骨格まで変わっていて怪人二十面相どころではない神業になっている」などといったお約束が鼻につく可能性も憂慮していたのですが、実際にこの目で確かめてみて、天知小五郎シリーズをいちがいに否定することはまったく意味のない、百害あって一利なしな食わず嫌いであると確信しました。

 なぜならば、この天知小五郎シリーズは江戸川乱歩の作品世界に通底している「明智小五郎の神性」と「人々の目の前に広がる世界のあいまいさ」という部分を的確すぎるほどに映像化しているからなのです。それ以降の24作については、私がまだ語る資格を持っていないので置いておきますが、少なくとも今回観た第1作『氷柱の美女』では、その2点が製作スタッフと俳優の演技によって充分すぎるほどにガッチリおさえられていました。

 具体的な作品の内容について思いつくかぎりのことをあげていきますが、まず第一に気になるのは、この作品で語られる恐るべき「吸血鬼事件」が、土曜ワイド劇場の放送された「1977年現在」に設定されていることですね。
 当然ながら、原作の長編『吸血鬼』は1930年代初頭の戦前日本が舞台となっており、前作『魔術師』でなれそめ、結婚こそまだしていはいないものの相思相愛の関係となっている助手の文代と、この作品での登場がデビューとなる小林芳雄少年(この時点で13~4歳)の2人が、信頼できる「明智探偵事務所のメンバー」として初めてそろい踏みする記念碑的な作品となっています。原作では言及されることはありませんが、明智小五郎の年齢はこの時点では30代にはいったばかりかと思われます。

 戦前の帝都に「新進気鋭の青年名探偵」として名を挙げたばかりの明智小五郎が助手の文代と小林少年を引き連れて大活躍する原作なのですが、1977年の土曜ワイド劇場版では、同じ3人組ではあるものの、天知茂ふんする明智小五郎は40代なかば、文代と小林は20代のいっぱしの大人ということになっており、明智と文代とのあいだに表だっての恋愛関係はないようです。今回のヒロインである、美貌の未亡人・柳倭文子(やなぎ しずこ)をながめながらびっくりするほど男前な表情でボンヤリしている明智を見ても、文代は特にこれといった過剰な反応はしていません。「また先生、きれいな人をガン見しちゃって……男前じゃなかったら通報もんだぞ。」くらいの感情にとどまっているようです。

 こんな感じで原作小説のようなヒロイン性をいっさい排している文代さんと同様に、今や「明智といえば小林少年!」とも呼ばれ、ただれた師弟関係の代名詞となっている小林芳雄くんのほうも、土曜ワイド劇場版ではりっぱな小林「青年」になってしまっているため、明智とのあいだになにかありそうな倒錯した雰囲気などいっさい感じられない、いたって健康的でビジネスライクな「上司と部下」の間柄になっています。
 そもそも、原作小説の中に登場する小林少年は、明智のような大の大人では警戒されて潜入できない場所での捜査や、明智本人が何らかの都合(別件の捜査など)で不在にしているときの代理という役割で大活躍することが多いわけなのですが、土曜ワイド版での明智小五郎は、原作よりも若干年上ではあるものの元気ハツラツに事件の第一線に飛び込んでしまっており、はっきり言って小林青年ならではの活躍は少なくとも『氷柱の美女』の中ではまるで見受けられませんでした。明智との会話でも特にこれといった名推理らしい発言はしておらず、ごくごく常識的な受け答えしかしていません。
 あと、まだまだ若くはあるのですが、本作で小林青年を演じることとなった大和田獏さんも、4年前の『ウルトラマンタロウ』における神エピソード『ベムスター復活!タロウ絶体絶命!』『逆襲!怪獣軍団』2部作(1973年10月放送)で見せた、あの宇宙大怪獣ベムスター改造型をロープとナイフだけで戦意喪失にまで追い込んだホモサピエンス最強クラスの勇姿からはいささか顔つきがふくよかになってしまっており、ちょっと探偵事務所の所員としては頼りなさそうな外見の「ワイドスクランブル化」がすでに始まっていることを感じさせるものがありました。

 とにかくこの土曜ワイド劇場における天知小五郎シリーズで言えることは、文代や小林青年を演じている俳優が誰であるにしても、彼らの役割を食ってしまう勢いで明智小五郎という名探偵の存在がオールマイティになってしまっていること! ここは無視できません。当然、『氷柱の美女』のクライマックスで明智が真犯人を罠にはめるためにうった芝居のように、信頼できる人手が必要な時には文代と小林青年は第一に役に立ってくれるわけなのですが、「明智の手駒」という以上の意味を持っていないのが『氷柱の美女』時点での2人だったということなのです。もちろん、それ以降の作品の中で五十嵐めぐみさん演じる文代のキャラクターが作品を追うごとに重要なものになっていくのは有名な話なのですが、まず第1作の段階ではなんとも精彩を欠いた立場でしたし、案の定、明智小五郎よりも「ちょっと足が速い」というくらいしか能のなかった小林青年は、以後しばらくの間「いない設定」になってしまいました。

 こういった状況から見ても明らかなように、第1作の時点から、土曜ワイド劇場の「天知小五郎シリーズ」は明らかに「天知茂ふんする明智小五郎のスーパーヒーローぶり」を中心にすえた内容になっていましたね。『氷柱の美女』の時点でシリーズ化が考えられていたかどうかはわからないのですが、とにかくどのカットでも気合いが入りまくって眉間に渋いしわが入りまくっている天知茂の名演から見れば、この天知小五郎が1回こっきりで終わるわけがないという空気は満点でした。

 明智小五郎のスーパーヒーローぶりといえば、あと2点見逃せないこととして、「恒川警部の相対的なダメ刑事化」と「明智がしょっちゅう乗り回す当時最先端のセダン」ということがあります。

 原作の『吸血鬼』には、「明智小五郎の大人もの事件」の常連として有名な波越警部は登場しておらず、その代わりに「名探偵ときこえた」警視庁の恒川警部が登場し、明智小五郎が「吸血鬼事件」にかかわるまでの探偵役と、明智登板以後のサポーター役をつとめています。
 ところが、1977年の土曜ワイド劇場版に登場するのはだいぶ頼りない猪突猛進型の典型的な「ダメ刑事」パターンの恒川「警部補」であり、ご丁寧に警部補に降格されているためか、明智小五郎も基本的にタメ語で恒川警部補に接しています。演じている役者さんの実年齢では、恒川さんの方が年上なんですけど……
 こういった感じの恒川警部補は、大変な失策こそおかしてはいないものの真犯人の逮捕に迫る捜査はまったくおこなえずに終始一貫して明智の推理に追従しており、本シリーズに次作から登場することとなる「なんだバカヤロー」の波越警部や、「よし、わかった!」の等々力警部(金田一耕助もの)のたぐいに入る、「名探偵の推理を追認するだけの警察キャラ」になってしまっていました。

 ただし、ここで無視できないのは、『氷柱の美女』における恒川警部補が、つねに明智小五郎から「内心で見くだされるしかない」救いようのない凡人になってしまっていることです。のちに「オレは明智君の親友だ!」とつきまとって天知小五郎に呆れられながらも信頼関係を築くこととなる波越警部や、腐れ縁というしかない頻度で顔を合わせることとなり不思議な親近感を持つこととなる金田一ものの等々力警部とちがって、ただただがんばるしかない中年男でユーモアが欠けており、天知小五郎からも完全に精神的な距離を置かれてしまっている恒川警部補に、残念ながらレギュラー出演の可能性はなかったといっても仕方ないでしょう。
 でも、これは演じた役者さんの力量ということではなく、やっぱり文代や小林青年のように「超人すぎる天知小五郎」のワリをくってしまった結果なのではないでしょうか。その点、そこらへんの明智のものすごさを残しつつも、同時に推理力とは別のベクトルの「コメディリリーフ」という役割で刑事役にお笑い系の荒井注さんを投入した第2作でのキャスティングは英断だったと言うほかありません。ま、おかげで原作とは似ても似つかない波越警部になっちゃったけど! それは等々力警部も同じことというわけで。

 もうひとつのスーパーヒーローぶりとして挙げたのが、愛車を必要以上に乗り回す天知小五郎の行動力の旺盛さで、この『氷柱の美女』の中で、明智は基本的に電鉄などの公共交通機関は利用しておらず、事件の真相をさぐるために東北地方と長野県に1回ずつおもむいているのですが、そのどちらも自慢のセダン乗用車に乗って移動しています。

 今回の第1作『氷柱の美女』で明智が駆る愛車は、「トヨタ・コロナマークⅡX30/40型グランデ」!! カラーは上品なメタリックゴールド!

 かっこいいですね~、探偵さんなのに目立ちまくりですね~。
 コロナマークⅡは1976~80年にリリースされていたトヨタのセダン系の代表選手で、フロントの単眼灯がまんまるだったので「ブタ目」という愛称もついている、角ばって力強いデザインの要所要所に適度に丸さがさしこまれている実にかっちょいい乗用車です。車は男のステイタス、ってやつっすか~!?
 同じコロナマークⅡでも、まったく同じ車体の「X30型」を排ガス規制対応(当時の)にしたのが「X40型」ということで、具体的に明智が乗っていたのがどちらなのかは映像だけからではわからなかったのですが、いくつかあった車の出てくるシーンを真夜中に3~40分くらい繰り返し繰り返し再生して、インターネットで「1977年ごろのセダン」を画像検索した一覧と交互に見比べて、

「こっ、これは……コロナマークⅡ!?」

 という自分なりの答えにたどり着いたときのうれしさといったら、もう!!
 同時期にリリースされた「トヨタ・チェイサー」とどっちかで悩んだんだけどさぁ~、リアのテールランプとナンバーポケットの形からコロナマークⅡに決まったわけよぉ! なんか、「やっと見つけたぞ、明智君……」って感じよねェ。

 そして、そのあとでよせばいいのに「明智小五郎 トヨタ・コロナマークⅡ」で検索してみたら、とっくの大昔に『氷柱の美女』の明智カーの車種を特定しちゃってるサイトがあることを知ったときのむなしさね……そんなもんだろォ~♪

 ともかく、土曜ワイド劇場での天知小五郎は、それこそ小林青年に任せればいいような地方出向の調査もわざわざ自分で出向いておこなっており、原作と比較して見ても、「栃木県那須塩原」だった出向先はドラマで「東北地方のどこか」と遠めに変更されており、明智本人は行かずに文代でも小林くんでもない名もなき部下に行かせていた「長野県のある村」にも、ドラマでは明智と小林ペアが直接おもむいているというバイタリティになっています。若い原作の明智よりもパワフルになっているんですねぇ。これはもちろん、「旅情サスペンス」というか「都心の大豪邸から地方の山村までを取り上げる絵的ないろどりの多さ」を意識した土曜ワイド劇場ならではの采配だったのではないでしょうか。

 ところで、天知小五郎シリーズを世に出したテレビ朝日の『土曜ワイド劇場』枠は、この第1作『氷柱の美女』が放送されたたった1ヶ月前の1977年7月にスタートされており、実は1978年までは放送時間が現在の2時間ではなく「1時間30分」になっていました。したがって『氷柱の美女』も「正味72分」という、あるミステリー長編を映像化するにしてはかなりタイトな分数になってしまっています。

 そんな条件下でも、「作品の時代設定の変更」や「作品の猟奇性の抽出」、そして「キャラクターの味わいの映像変換」を、取捨選択しながら見事に実現させた1977年版の『氷柱の美女』は、すばらしい作品になったと思います。
 なんといっても、この作品にはマンネリズムがありません。第1作だから当たり前な話なんですが、画面におっぱいが出てくるにしても、真犯人が相手を残虐な手法で陵辱する理由というか、必然性というものがしっかり組み込まれているのです。のちの作品では「なんでわざわざシャワーをあびてる女の人を襲うの?」という疑問符もつきかねないこのシリーズなのですが、ことこの「吸血鬼事件」に関しては、原作で「ヒロインに心身両面からの陵辱をあたえる」という真犯人の容赦ない犯行目的が物語の中核となっているため、ここをはずすわけにはいかないという判断があったのでしょう。それにしても、あからさまなショットはないにしても、ヒロインがあそこまでひどい目に遭う展開とか、硫酸でとんでもないことになっている真犯人の外見とか、今ではちょっと TVで流せそうにない描写が目白押しなのが作品にただならぬ緊張感を出しています。

 役者に関して言うと、やっぱりこの作品は主人公である天知茂ぬきでは1秒も成立しえないものになっています。とにかく登場した瞬間に前ぶれもなく始まる明智小五郎の名推理は、言ってることの内容よりも明智の語り方の迫力でまわりを納得させてしまう不思議なパワーをビンビンに発揮させており、その点で、第1作ということだから天知さんも様子見こみでパワーダウンしているんじゃなかろうかという私の危惧はまったくの大はずれでした。最初っからトップギアよ!!
 それもそのはずで、天知さんはすでにおよそ10年前に舞台版の『黒蜥蜴』で、明智小五郎を2年にわたって演じきっていたんですよね。そりゃあできあがってるわけだわ。
 天知小五郎のもっとも恐ろしい武器はやっぱり、殺人的なまでの魅力を持つその「深すぎる眉間のしわと猛禽類のような眼光」で、はっきり言って今回の場合、明智は真犯人役の人物に会った瞬間に「こいつが犯人だな。」と、なんの前情報もなしに目星をつけてしまった可能性さえある発言をしています。『氷柱の美女』の場合、事件の容疑者となる重要人物の人数が極端に少ないということもあるのですが、明智小五郎は最初っから最後まで真犯人が誰かという点で迷っている姿勢がまるでありません。まぁ、今回は当たっていたからいいけど、はずれて冤罪だったら恐ろしいことよ、これ……

 余談ですが、この『氷柱の美女』の段階では土曜ワイド劇場の天知小五郎シリーズの代名詞となる有名なアップテンポなテーマ曲は制作されていないのですが、明智が推理を披露するときにこれみよがしに流れる「ちーん、ちーん、ちーん……」という超意味ありげな BGMはすでにこの段階で完成されています。どんなに根拠不明なことをしゃべっていても、この音楽さえ流れていれば説得力は MAXになるというバイキルトみたいな反則曲ですね。

 また、天知小五郎はその空間に真犯人がいると、ず~っとその人をガン見しています! それ以外の刑事や助手にはいっさい目もくれません。はっきりしているのは、天知茂演じる明智小五郎は、同じ「犯罪美学」という世界におのれの活きる路を見いだしている自分と真犯人のほかには、何も意識を働かせていない。同じ種族の者とはとらえていないということなのです。

 この、原作における明智小五郎の「異常な天才性とそれゆえの孤独」を誰よりも的確につかんでいる天知茂の慧眼。うわっつらだけでなく、その魂までをも確実に継承している名探偵が、そこにいる。

 ちなみに、この『氷柱の美女』での明智小五郎のお決まりの「変装」は、真犯人を動揺させるためのショック演出としてのものにとどまっており、それ以降の声色まで変わるムチャクチャな変装にくらべればかなり地味なのですが、こちらもまた真犯人に決定的な失言をさせるための「変装した必然性」がちゃんとあるものになっています。

 天知茂さん以外には、なんといっても『氷柱の美女』でのヒロイン・倭文子(しずこ)を演じた三ツ矢歌子さんと、その若い愛人を演じた松橋登さんが強い個性を発揮しています。当時の松橋さんは「演技力がハンパないソフィア松岡」といった感じで、いかにも年上の女性を惑わせそうな美少年の余韻を残す青年を演じきっていました。女装サービスもあるヨ!

 この『吸血鬼』は、「吸血鬼」を名乗る謎の人物に執拗につけ回され、我が子とともに筆舌に尽くしがたい凄惨なはずかしめと恐怖体験の連続を味わってしまう悲劇性と、そういう目に遭うだけの原因を生んでしまった「魔性の女」としての過去を同時に持ち合わせているという二面性がヒロインに要求される非常に難しい作品なのですが、三ツ矢さんはさすが大女優。そこらへんをしっかりとやりきっていました。

 物語のクライマックスで、明智小五郎は真犯人をだますためにヒロインそっくりの全裸人形を用意するのですが(倒錯してるゥ~!!)、事件解決の後に、血まみれになった自分の人形を見つめて呆然とする倭文子。彼女がそこに、結果的には一連の事件の元凶となってしまった自分自身の魔性を投影させて立ち尽くすという構図は、実に TVドラマらしい明解なラストシーンになっていたと思います。倭文子はもちろん被害者であるわけなんですが、人間は誰でも一面だけでは捉えられない底の知れない暗部を持っているという乱歩ワールドを体現しているわけですね。


 そんな倭文子を残して文代と小林青年とともに現場をあとにし、ポケットからおもむろに赤ラークを取り出して紫煙をくゆらせる明智。

小林 「倭文子さん……これから、どうするんでしょうね。」

文代 「先生、デートしたいんでしょ。」

明智 「美しすぎる……あの人には近づかないほうがいい。」

 さっそうとコロナマークⅡに乗りこんで、夜の闇へと消えていく明智一行であった……完。


 くぅ~、きまってるねェ!! これで続編が制作されないわけがないと!

 記念すべき「天知小五郎シリーズ」第1作。確かに堪能いたしました!
 次のレビューはいつになりますかね……これからもどんどん、お財布と相談しながらそろえていくぞ~いっと。

 いや~、車って、興味を持ち始めるとおもしろいもんですねぇ。

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